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死者たちがあまりにも悲しそうだったので手を伸ばしていたら、いつの間にか精霊に愛されていました  作者: ちょこだいふく


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30/31

30.ひろがっていく

庭へ出たリシュアとノアは、湖の見える石畳の小道をゆっくり歩いていた。

風が吹くたび、リシュアの銀色の髪がふわりと揺れる。

その隣では、ノアが何かを話していた。

真剣な顔をしたかと思えば、次の瞬間少しふざけたような顔をするノアを見てリシュアが小さく笑う。


その空気は、驚くほど自然だった。



室内の窓辺では、数人の婦人たちがその様子を眺めている。


「まあ…本当に絵になりますこと」


年配の婦人が感嘆したように呟く。


「まるで、物語の王子様とお姫様みたい」


「ええ、本当に」


別の婦人も微笑む。


「ノア様も、年齢の割に随分聡明でいらっしゃるわ」


「先程のお話の受け答えもお上手でしたし」


「流石はアーリントン家ですわね」


穏やかな賞賛だった。

悪意などなく、むしろ純粋な好意に近いものだった。


けれど


「リシュア様は、空気が違いますわね」


ふと、一人の婦人が静かに言った。


「側にいるだけで、何と申しましょうか…不思議と心が落ち着くような…」


「ええ、わかります」


「なんだか、見ていると安心しますわ」


「まるで…」


そこで婦人は少し迷い、小さく笑った。


「まるで聖女様みたい」


その場の婦人たちはみな「本当に」と頷きあいリシュアたちをうっとりと眺めていた。


「……皆様、買いかぶりすぎですわ」


柔らかな声でミレイユが紅茶を置いた。

その顔には穏やかな笑みが浮かんでいる。


「リシュアは、まだまだ、ほんの子供ですわよ」


「ですが本当に素敵なお嬢様ですわ」


婦人たちが口々に言う。

ミレイユは微笑みを崩さない。


「ありがとうございます」


完璧な返答だった。

けれど、カップを持つ指先へ、ほんのわずかに力が入る。


窓の外では、リシュアがノアへ何かを話している。

その周囲を、小さな風の精霊たちが楽しそうに舞っていた。


——思っていたより、早い。


エドガーと神父の会話が思い出される。

ミレイユは静かに目を伏せる。


穏やかな避暑地。

優しい人々。

悪意など、まだどこにもない。


だからこそ、噂は静かに広がっていく。


まるで、水へ落ちた雫みたいに。

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