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死者たちがあまりにも悲しそうだったので手を伸ばしていたら、いつの間にか精霊に愛されていました  作者: ちょこだいふく


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22/31

22.教会でのできごと

避暑地へ滞在してから、数週間が経っていた。


湖畔の町にもすっかり慣れ、

リシュアたちは時折市場へ出かけたり、

湖沿いを散歩したりするようになっている。


その日訪れたのは、町外れの小さな教会だった。


石造りの古い建物で、決して大きくはない。

だが庭には季節の花が咲き、どこか穏やかな空気が流れていた。


「静かですね」


リシュアが小さく呟く。


すると隣のノアが笑う。


「シア、こういう場所好きそう」


「……うん、落ち着く」


教会の周囲には、小さな風の精霊たちがふわふわと漂っていた。市場より静かだ、けれどグランの森のような“感情の静寂”とは違う。


ここには祈りがある。


悲しみも、

願いも、

感謝も。


静かに積み重なった感情が、柔らかく空気へ溶け込んでいるみたいだった。


リシュアは少しだけ目を細める。


その後ろで、ルークは周囲を静かに見回していた。

以前よりも呼吸が落ち着いている。

橋の一件以来、目に見えない気配へ過敏になっていた。


だが今は違う。


怖いものは怖い、不気味なものは不気味だ。

そしてそれを無理に押し込めなくなっていた。

そんなルークを、教会の神父は静かに見ていた。

白髪混じりの穏やかな老人だった。


「アーリントン家のお嬢様方ですね」


柔らかな声だった。

リシュアたちは挨拶を返す。

神父は優しく目を細めた。


「最近、町で妙な噂を耳にします」


ノアが首を傾げる。


「噂?」


「ええ」


神父はどこか含みのある笑みを浮かべる。


「“橋の下の泣き声が消えた”と」


その瞬間、ルークの表情がわずかに動いた。

リシュアは思わず目を伏せる。

神父は責めるような顔はしなかった。


むしろ、静かに確かめるみたいだった。


「……あなた方でしたか」


風がそっと吹き抜ける。

庭の草花が揺れ、小さな光がリシュアの周囲を舞った。


神父の目が、静かに細められる。


「なるほど……」


その視線は、リシュアだけではない。

後方へ立つルークへも向いていた。

しばらく見つめたあと、神父がぽつりと呟く。


「少し空気が変わりましたね」


ルークが目を瞬く。


「……私、ですか」


「ええ」


神父は穏やかに頷いた。


「以前は、もっと張り詰めておられた」


ルークは言葉に詰まる。


自分では、よくわからなかった。

すると神父がふと尋ねる。


「どなたかに学ばれているのですか?」


その問いに、ルークは素直に答える。


「…はい、…グラン殿、という方に」


その瞬間だった。

神父の動きが止まる。

空気が、わずかに変わった。


ノアが不思議そうに瞬きをする。


神父はしばらく黙ったあと、静かに笑った。


「……なるほど」


けれどその声には、驚きが滲んでいた。


「まさか、あの方が人へ教えるとは」


ルークが目を見開く。


「ご存知なのですか」


神父は苦笑する。


「昔からの知り合いです」


「彼は偏屈でしょう?」


「…はい」


即答だった。


神父が思わず吹き出す。


「変わっておられないようで安心しました」


そう言ってから、神父はふとリシュアを見る。

その目は、どこか深かった。


「グランが人へ何かを教える時は、“見込みがある”と思った時だけです」


ルークが静かに息を呑む。

神父は庭を舞う精霊たちを見る。


小さな風の光、木漏れ日のような淡い精霊。

その数は、町で見るより明らかに多かった。

まるで、リシュアを囲むみたいに集まっている。


神父は静かに目を細める。


「……本当に、不思議ですね」


ぽつりと零れたその声は、独り言みたいだった。

風が優しく吹き抜ける。


すると精霊たちが、嬉しそうに光を揺らした。

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