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『運だけで生き抜くダンジョンマスター』 ~召喚も配合も全部ラッキーでした~  作者: もかどら


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第98話 王の命令と、崩れゆく人間の軍勢

 巨大な魔法兵器の砲身が、不気味な音を立てながら揺れていた。砲身の周囲に刻まれた魔法陣には無数の亀裂が走り、蓄積されていた魔力が制御を失いつつある。兵器の後方では、王国軍の魔術師たちが必死に修復を試みていたが、一度乱れた魔力の流れは簡単には元に戻らなかった。


 その光景を前に、ノアはルナの隣で息を呑んだ。


 王国軍の数は圧倒的だった。四百を超える兵士たちが武器を構え、騎士団が前衛を固め、魔術師たちが後方から攻撃を仕掛けている。数だけで見れば、洞窟に集まった魔物たちが勝てる相手ではない。だが、今の戦場では、その数の多さがかえって王国軍自身を追い詰めていた。


 ガルドが率いる攻撃軍団によって前衛の陣形は崩れ、レグルの防衛軍団が進路を塞いでいる。セラの魔法軍団は敵の魔法を封じながら、味方の魔力を効率よく循環させていた。そしてポヨンの率いる特殊軍団は、戦場のあちこちで起こる小さな偶然をつなぎ合わせ、王国軍の連携を少しずつ壊していた。


「なんだ、あの魔物たちは……! 統率が取れすぎている!」


 王国軍の指揮官ヴァルガスが、槍を握り締めて叫んだ。彼はこれまで、魔物を単なる討伐対象として考えていた。個々の魔物がどれほど強くとも、数と装備を揃えた軍隊なら押し切れる。そう信じていたのだ。しかし、目の前の魔物たちは違った。ガルドが敵を崩せばレグルが進路を塞ぎ、セラが魔法を封じれば攻撃軍団が一気に押し込む。互いの弱点を補い、味方の力を最大限に引き出す戦い方だった。


 そして、その中心には一匹の黒い子猫がいた。


 ルナは戦場を見渡し、静かに口を開いた。


「ノア。あの大きな武器は、もう使えないの?」


「魔法陣は壊れかけているけど、まだ完全には止まっていないよ。無理に撃とうとすれば、周囲に魔力が飛び散る可能性がある」


「そう。なら、これ以上は撃たせない」


 ルナは前を向いた。その声には、目覚めたばかりの幼さが残っていた。それでも、言葉の奥には確かな意志が宿っていた。


「みんなを傷つける武器なら、ここで止める」


 ノアはルナの横顔を見つめた。王位継承者としての力が目覚めても、ルナが突然別の存在になったわけではない。仲間を守りたいという気持ちは、目覚める前から変わっていなかった。変わったのは、その思いを実現するために使える力と、周囲の魔物たちが彼女の言葉を受け止めるようになったことだ。


「ルナ、命令を出してみて。みんなが動けるように」


 ルナは一度だけ頷いた。そして戦場にいる四精鋭へ向け、はっきりと告げた。


「ガルド、敵の前衛を止めて。レグルはみんなを守って。セラは、あの武器の魔力を抑えて。ポヨンは……みんなが動ける道を作って」


 それは複雑な命令ではなかった。しかし、四体はすぐに反応した。


 ガルドが雄叫びを上げ、攻撃軍団を率いて前へ出る。敵の騎士たちが盾を並べて迎え撃とうとしたが、ガルドの斧が一撃振るわれるたびに盾の列が大きく揺らいだ。ガルドは以前のように目の前の敵を力任せに叩き潰すだけではなかった。敵の陣形が崩れた場所を見極め、味方が通れる隙間を作り、その隙間へ仲間たちを送り込んでいく。ブレイズグリフォンとブラッドオーガの力を取り込んだ身体から、灼熱の闘気が噴き上がった。


「押し返せ! あの大男を止めろ!」


 王国軍の騎士たちが一斉に突撃する。しかし、ガルドは真正面からぶつかるだけではなかった。敵の攻撃を受け流し、横へ踏み込むと、斧の柄で先頭の騎士を弾き飛ばした。後続の騎士たちは仲間を避けようとして足を止め、その一瞬の隙を攻撃軍団が逃さない。王国軍の前衛は、少しずつ後退していった。


 一方、レグルは防衛軍団の先頭に立ち、味方の前に立ちはだかる敵を受け止めていた。大地装甲によって地面と一体化したような巨体は、騎士たちの突撃を受けてもほとんど揺るがない。敵の槍が何本も突き刺さるが、黒銀の甲殻には傷一つつかなかった。レグルは腕を振るい、味方へ迫る敵を押し返す。その動きは決して速くない。それでも、レグルがいる場所を突破することは、王国軍にとって極めて困難だった。


 セラは後方で両手を広げ、戦場を流れる魔力を操っていた。王国軍の魔術師たちは何度も攻撃魔法を放とうとしたが、魔法陣に魔力を集めた瞬間、その流れが乱されてしまう。セラは敵の魔力をただ消し去っているわけではない。余分な魔力を吸収し、危険な流れを整え、味方が必要とする場所へ送り直していた。


「攻撃軍団、右側の魔力を補います。防衛軍団には継続して魔力を供給。負傷した魔物たちには回復用の魔力を回します」


 セラの声は落ち着いていた。以前よりも大きな魔力を扱えるようになった今、彼女は単なる魔法使いではなく、戦場全体の魔力を支える存在になっていた。敵の魔法を封じるだけでなく、味方が疲弊しないように支え続ける。それこそが、魔力軍団を率いるセラの役割だった。


 そして、ポヨンの軍団も動いていた。


 小さな魔物たちは、ガルドのように敵を正面から倒す力を持っていない。レグルのように攻撃を受け止めることも、セラのように魔力を操ることもできない。だが、彼らは戦場の変化に敏感だった。ポヨンが一度跳ねると、その近くにいた小型魔物たちが散らばり、敵の足元や崩れた陣形の隙間へ入り込んでいく。


 そのとき、王国軍の伝令が指揮官へ向かって走っていた。巨大魔法兵器の停止を知らせるためだった。しかし、伝令の前を横切った兵士が、壊れた盾を踏んでよろめいた。伝令はそれを避けようと進路を変え、その先にいた別の兵士と肩をぶつけた。倒れた兵士が手放した伝令用の旗が地面を滑り、ちょうどポヨンの目の前で止まった。


 ポヨンは旗を見つめた。


「ぷる?」


 首を傾げるように身体を揺らしただけだったが、近くにいた小型魔物が旗を引っ張ってしまった。旗は地面を引きずられ、王国軍の部隊が使っていた目印の位置を隠した。後方から進んできた部隊は目標を見失い、別の部隊と進路が重なってしまう。


「左翼、何をしている! そこは前進路ではない!」


 怒号が飛び交い、王国軍の動きがさらに乱れた。ポヨン自身は、自分が何を引き起こしたのか理解していない。ただ、旗を引きずっていく小型魔物を追いかけ、短い手足を動かしながら、とことこと戦場の端を移動していた。


 その姿を見て、ノアは思わず額を押さえた。


「……あの子、絶対に狙ってないよね」


「はい。意図的な戦術行動とは判断できません。ただし、結果として敵の連携を崩しています」


「分かってる。だから余計に怖いんだよ」


 ノアが苦笑した直後、セラの声が響いた。


「ノア様、魔法兵器の魔力が再び上昇しています。敵が強制起動を試みています!」


 巨大魔法兵器の周囲で、王国軍の魔術師たちが最後の手段に出ていた。壊れた魔法陣へ無理やり魔力を流し込み、照準を洞窟の入口へ向け直そうとしている。兵器が発射されれば、入口だけでなく、その後ろに広がる魔物たちの居住区まで巻き込む恐れがあった。


 ヴァルガスは歯を食いしばった。


「撃て! ここで魔物どもを潰せなければ、我々の敗北だ!」


「ですが、魔力制御が限界です!」


「構わん! 命令だ!」


 魔法陣が赤く輝いた。砲身の奥に、圧縮された魔力が集まっていく。


 ルナは一歩前へ出た。


「セラ、止められる?」


「魔力の流れを乱すことはできます。しかし、完全に止めるには、兵器の中核へ干渉する必要があります。今の位置からでは難しいです」


「分かった。なら、私がやる」


「ルナ?」


 ノアが思わず声を上げた。目覚めたばかりのルナが、何をしようとしているのか分からなかったからだ。しかし、ルナは怖がっていなかった。黒い尻尾をゆっくり揺らし、戦場の奥にある巨大な兵器を見据えている。


「この場所は、みんなが暮らす場所。壊させない」


 その言葉と同時に、ルナの身体から淡い黒色の光が広がった。闇のようでいて、どこか温かい魔力だった。光は地面を伝い、レグルの足元を通り、ガルドとセラへとつながっていく。さらに、ポヨンの周囲で跳ね回っていた小型魔物たちにも、小さな光が宿った。


 古代施設の声が、ノアの頭の中へ響いた。


『王権――発動』


『四守護権限――連携を確認』


 ガルドの灼熱の闘気が強まり、レグルの大地装甲が鈍い銀色に輝く。セラが操る魔力の流れは、これまで以上に滑らかになった。そしてポヨンの周囲では、戦場のあちこちで起きていた小さな偶然が、まるで見えない糸で結ばれたかのように連なり始めた。


 ルナは命令を重ねた。


「ガルド、兵器の前まで道を作って。レグルは、その道を守って。セラは兵器の魔力を外へ逃がして。ポヨンたちは、みんなが進めるように助けて!」


 四体が一斉に動いた。


 ガルドは敵の前衛を突破し、兵器へ続く通路を切り開く。レグルは後方から迫る騎士たちを受け止め、魔物たちが通過するまで一歩も退かない。セラは巨大兵器へ流れ込む魔力を捕らえ、暴走しないように少しずつ外部へ分散させていった。


 最後に、ポヨンが動いた。


 ポヨンは小さな身体で戦場の端を進み、壊れた魔法兵器の近くまでやってきた。そこには、魔力供給用の太い管が何本も伸びていた。管の一つが熱で膨張し、固定具が今にも外れそうになっている。


 ポヨンはその前で立ち止まった。


「ぷる?」


 そして、何かに気づいたように横へ一歩ずれた。


 その直後、頭上から落ちてきた金属片が、ちょうど管の固定具へぶつかった。


 ガキンッ!


 固定具が外れ、供給管がずれた。兵器へ流れ込んでいた魔力が一瞬だけ途切れ、砲身の輝きが弱まる。そこへセラが魔力の流れをつかみ、暴走寸前だったエネルギーを一気に外部へ逃がした。


 轟音が響いた。


 だが、砲弾は発射されなかった。


 砲身から漏れ出した魔力が空中へ散り、無数の光の粒となって消えていく。巨大魔法兵器は大きく震えたあと、力を失ったように沈黙した。


「……止まった」


 ノアが呟いた。


 ポヨンは自分の頭に落ちてきた小さな金属片を見つめ、何事もなかったようにぷるぷると身体を揺らした。


 その瞬間、王国軍の士気が目に見えて崩れた。


「魔法兵器が沈黙しただと……?」


「前衛が突破されています! 右翼も後退中!」


「魔術師隊は魔力を集められません!」


 報告が次々と飛び込んでくる。ヴァルガスは周囲を見渡した。自分たちの軍は、数も装備も十分に揃えていたはずだった。それなのに、敵の王が命令を下してから、戦場の流れが一変してしまった。


 ルナはまだ幼い姿をしている。だが、彼女の周囲には、ガルド、レグル、セラ、ポヨンという四体の精鋭が立っていた。さらにその後ろには、王の命令を受けて動く数多くの魔物たちがいる。


 ヴァルガスはようやく理解した。


 自分たちが攻め込んだのは、ただの洞窟ではなかった。


 ここには、王がいる。


「全軍、再編しろ! まだ戦える部隊を集めろ!」


 彼は声を張り上げたが、命令に従う者は少なかった。隊列は崩れ、指揮系統は混乱し、魔法兵器も失われた。さらに、ガルドの攻撃軍団が中央を押さえ、レグルの防衛軍団が退路の一部を封じている。逃げ道を確保することさえ容易ではなかった。


 それでも、王国軍の一部は武器を捨てず、最後の抵抗を試みた。ヴァルガス自身も槍を構え、ルナへ向かって突撃しようとする。


「魔物の王など認められるか!」


 彼の槍がルナへ届くより早く、レグルが前へ出た。巨大な腕が槍を受け止め、金属が激しく軋む。ヴァルガスは力を込めたが、槍はびくともしなかった。


 次の瞬間、ガルドが横から踏み込んだ。


 斧の刃はヴァルガスの身体を狙わず、その手にある槍だけを正確に打ち砕いた。折れた槍が地面に落ち、ヴァルガスは衝撃で膝をついた。彼が顔を上げると、すでに周囲を複数の魔物に囲まれていた。


「まだ抵抗する?」


 ノアが問いかけた。


 ヴァルガスは答えず、腰の短剣へ手を伸ばした。その瞬間、ガルドが斧を振り下ろし、短剣を握った腕ごと地面へ叩きつけた。ヴァルガスは苦痛に顔を歪め、武器を手放す。彼がなおも立ち上がろうとしたため、レグルがその身体を押さえつけた。


 戦いは、そこで終わった。


 抵抗を続けた兵士たちは次々と制圧され、武器を捨てて降伏した者は拘束された。王国軍の指揮官ヴァルガスも捕虜となり、巨大魔法兵器は完全に機能を停止した。戦場には倒れた騎士たちと壊れた装備が残り、かつて四百を超える兵士で埋め尽くされていた場所は、静けさを取り戻しつつあった。


 ノアはルナの隣に立ち、戦場を見渡した。


「……終わったね」


「うん」


 ルナは小さく頷いた。


「みんなを守れた?」


「守れたよ。ルナが命令を出したから、みんなが力を合わせられたんだ」


 ノアの言葉に、ルナは少しだけ目を細めた。嬉しそうではあったが、浮かれているわけではなかった。彼女は倒れた魔物たちを見つめ、それから捕虜となった人間たちへ視線を移した。


「この人たちは、どうするの?」


「攻めてきた以上、簡単に帰すわけにはいかない。でも、武器を捨てて降伏した人まで、わざわざ殺す必要はないよ。話を聞いて、これからどうするか決めよう」


「分かった」


 ルナは少し考えたあと、捕虜たちへ向けて告げた。


「私たちは、ここで暮らしている魔物たちを守る。何もしていないのに攻めてくるなら、これからも戦う。でも、話をするつもりがあるなら、聞くことはできる」


 その言葉を聞いた捕虜たちは、互いに顔を見合わせた。彼らが想像していた魔物の王は、人間を見つけ次第、皆殺しにするような存在だったのかもしれない。だが、目の前の王は違っていた。敵を倒す力を持ちながら、必要以上に殺すことは望んでいない。


 それでも、王国軍が犯したことをなかったことにはできない。ノアは捕虜たちを監視下に置き、負傷者の手当てを進めるよう指示した。魔物たちにも休息が必要だった。セラは魔力を配りながら負傷した仲間を治療し、レグルは崩れた通路を塞いで安全を確保した。ガルドはまだ興奮が収まらない様子だったが、ルナのそばへ戻ると静かに斧を下ろした。


 ポヨンはというと、戦場の端で壊れた旗の近くに座り込んでいた。大きな目をぱちぱちさせながら、灰色の丸い身体を揺らしている。頭上には、さきほど落ちてきた金属片が乗っていた。


「ポヨン、今回も助かったよ」


 ノアが声をかけると、ポヨンは嬉しそうに跳ねた。


「ぷる!」


 その拍子に金属片が頭から落ち、地面を転がってルナの足元で止まった。ルナはそれを拾い上げ、しばらく眺めたあと、ノアへ差し出した。


「これ、何かに使える?」


 ノアが受け取って鑑定すると、金属片には古代施設で使われていたものと似た魔力回路が刻まれていた。ただし、王位継承者の認証に使う部品ではない。戦場で使われた魔法兵器の制御部品だった。


「王国が持ってきた武器の部品みたい。でも、古代施設の技術とは少し違うね」


「人間たちも、昔の技術を調べているのかな」


「その可能性はあると思う。今回の兵器も、普通の魔法だけで作られたものじゃなさそうだったし」


 ノアは金属片を保管袋へしまった。人間たちが古代技術をどこまで知っているのか。それが分からない限り、これからの戦いがどうなるかも予測できない。


 ルナは再び戦場を見渡した。


「ノア。私は、みんなが安心して暮らせる場所を作りたい」


「うん」


「魔物たちが、ただ人間に追われるだけじゃない場所。ここを攻めてくる人たちがいるなら、守れる国にしたい」


 ノアはルナの言葉を聞き、ゆっくりと頷いた。


「だったら、これからは戦う力だけじゃなくて、みんなが暮らすための仕組みも必要になるね。食べ物も、住む場所も、魔力も。それに、外の世界とどう付き合うかも考えないと」


「うん。私、一つずつ覚える」


 ルナはまだ小さな身体で、王としての最初の戦いを終えたばかりだった。それでも、彼女の言葉を聞いた魔物たちは、自然とその周囲へ集まってきた。ガルドは力強く胸を張り、レグルは静かに立ち、セラは負傷した仲間を支えながら微笑んでいる。ポヨンもルナの足元へ跳ね寄り、満足そうに身体を揺らした。


 その光景を見て、ノアはようやく実感した。


 ルナは、ただ強い魔物になったのではない。


 仲間たちが自分の意思で守りたいと思える存在になり始めているのだ。


 戦場の向こうでは、王国軍が持ち込んだ旗が地面に倒れていた。代わりに、魔物たちが集まる場所には、誰かが運んできた大きな布が広げられている。そこにはまだ何も描かれていなかったが、ルナの周りに集まった魔物たちは、まるで新しい何かの始まりを待っているようだった。


 ノアはその布を見て、少しだけ笑った。


「まずは、みんなが帰る場所をちゃんと作らないとね」


「ここが、私たちの国になるの?」


「そうだね。でも、国って名前をつけるだけじゃ完成しないよ。みんなが安心して暮らせるようにして、守る仕組みを作って、それから外の世界とも向き合わないと」


「分かった。じゃあ、私は王として、それをやる」


 ルナの返事に、ノアは頷いた。


 こうして、王国軍との大規模な戦いは終わった。だが、これで人間との争いが終わったわけではない。今回の敗北を知った王国が、次にどんな手段を選ぶのかは分からない。それでも、今の魔物たちには、ただ逃げ隠れするだけではない力がある。


 そして、その中心には、目覚めたばかりの王がいた。


 四精鋭はそれぞれの軍団を率い、ルナの命令を受けて動いた。攻撃、防御、魔力、そして幸運。それぞれの力が一つにつながったとき、数の差さえ覆す戦いが生まれる。


 ノアは、ルナの小さな背中を見つめた。


「さて……これからが本番だね」


 ルナは振り返り、まっすぐにノアを見た。


「一緒にいてね、ノア」


「もちろん」


 ノアは笑って答えた。


 その足元で、ポヨンが一度だけ跳ねた。偶然にも、その跳ねた先にいた小型魔物が、倒れていた布の端を引っ張る。布が広がり、風を受けて大きくはためいた。


 それを見た魔物たちが、次々と布の周りへ集まってくる。


 まだ旗も、国の名前も決まっていない。


 けれど、その日、洞窟の魔物たちは初めて、自分たちが一つの集団として戦い、守り抜いた場所を見つめていた。

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