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『運だけで生き抜くダンジョンマスター』 ~召喚も配合も全部ラッキーでした~  作者: もかどら


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第95話 四精鋭、軍団長への第一歩

 ルナが王位継承者として覚醒してから、洞窟の様子は少しずつ変わり始めていた。


 もっとも、魔物たちが突然言葉を話し始めたり、洞窟の景色が一変したりしたわけではない。水場ではスライムたちが相変わらず群れているし、ゴブリンたちは採掘した魔石を運び、コウモリたちは天井近くを飛び回っている。見た目だけなら、いつもの洞窟と大きく変わらなかった。


 ただ一つ、明確に違うことがあった。


 魔物たちが、ルナの周囲に集まり始めていたのだ。


「……なんか、すごいことになってるね」


 ノアは中央広間を見渡した。ルナの周りには、スライムやゴブリン、小型の魔獣だけでなく、以前から洞窟に住み着いていた大型の魔物まで集まっている。彼らはルナを警戒する様子もなく、むしろ自然とその近くに居場所を作っていた。


「王位継承者としての権限が影響していると考えられます。ルナ様の魔力に反応し、従属ではなく、庇護を求めるように集まっているのでしょう」


「従属じゃないんだ?」


「現時点では、ルナ様が命令を下しているわけではありません。魔物たち自身が、安心できる場所として認識している可能性があります」


 ノアはルナへ視線を向けた。黒い毛並みの小さな身体は、集まってきた魔物たちの中央で静かに座っている。王として覚醒したとはいえ、見た目は以前と変わらない。時折、近くに来た小型の魔物へ鼻先を寄せたり、ポヨンが転がした小石を目で追ったりしている。


「ルナ、王様になった実感はある?」


「……まだ、よく分からない」


「そっか。まあ、急に全部分かるわけないよね」


「でも、守りたい場所があることは分かる」


 ルナは顔を上げ、洞窟に暮らす魔物たちを見回した。


「ここにいるみんなを、守る」


 その言葉に、ノアは微笑んだ。王としての責任を理解するには、まだ時間が必要だろう。それでも、ルナ自身が意思を持ってこの場所を守ろうとしている。それが何より大切だった。


 そのとき、古代施設からミレアの声が響いた。


「ノア様。王国形成機能に新たな反応が確認されました」


「また何か表示されたの?」


「はい。四守護軍の編成に関する情報です」


 ノアたちは地下施設へ向かった。王位継承者の認証が行われた壁面には、四つの紋章が浮かび上がっていた。赤い紋章、黒銀の紋章、青白い紋章、そして紫色の紋章。それぞれがガルド、レグル、セラ、ポヨンの魔力に反応している。


『四守護軍――編成権限解放』


『軍団長――認証可能』


『編成条件――王位継承者の承認』


『配下魔物――自発的参加を基本とする』


「自発的参加か。無理やり従わせるわけじゃないんだね」


「王国形成機能は、配下となる魔物の意思を尊重する仕組みのようです。軍団長が適性に応じて魔物をまとめ、王位継承者が最終的に承認する形式と推測されます」


 ノアは表示を眺めた。これまで四精鋭は、それぞれの役割に特化して強化されてきた。だが、個体として強いことと、軍団を率いることは別の話だ。いくら力があっても、配下を守り、指示を伝え、戦況に応じて動けなければ軍団長は務まらない。


「まずは、みんなが軍団を率いることに向いているか確認しよう」


 ノアの提案に、ミレアが頷いた。


 最初に選ばれたのはガルドだった。


 訓練場へ移動すると、ガルドはすでに戦闘態勢に入っていた。その前には、戦闘経験のあるオーガや獣型の魔物が集まっている。どれも自然発生した個体で、特別な名前はない。彼らはガルドの強さを感じ取っているのか、一定の距離を保ちながらも、その動きをじっと見つめていた。


「ガルド、今日は一体で戦うんじゃなくて、周りの魔物と連携してみて」


 ガルドは斧を担ぎ、短く吠えた。


 訓練が始まると、ガルドは真っ先に前へ出た。圧倒的な攻撃力で相手の注意を引きつけ、敵役のゴーレムへ斧を叩き込む。だが、後ろにいた魔物たちは動けずにいた。ガルドが強すぎるため、攻撃の機会を見つけられなかったのだ。


「うーん。ガルドは一人で全部倒しちゃうね」


「攻撃能力は申し分ありませんが、指揮という点では改善の余地があります」


 ノアはガルドに、いったん攻撃を止めるよう伝えた。次は、前に出る魔物と左右から回り込む魔物を分け、ガルドは全体の動きを見ながら攻撃するよう指示する。


 最初はぎこちなかったものの、何度か繰り返すうちに、ガルドは味方の動きに合わせて斧を振るようになった。自分が敵を倒すだけでなく、味方が攻撃しやすい状況を作る。その意識が芽生えたようだった。


 続いてレグルの番になった。


 レグルの前には、岩亀や大型の獣型魔物が集められた。防御に優れた個体が多く、正面からの攻撃には強いが、動きはそれほど速くない。


 訓練では、敵役のゴーレムが複数の方向から攻撃を仕掛ける。レグルはその巨体で攻撃を受け止めると、衝撃を分散させながら味方の前に立ち、後方へ攻撃が届かないように守った。


 しかし、背後から回り込まれた敵役には対応が遅れた。


「レグルは守ることに集中しすぎて、周りが見えなくなってるのかも」


「防御能力が高いため、攻撃を受け止めること自体を優先しているようです。軍団を守るには、危険な攻撃を予測し、味方の配置を調整する必要があります」


 ノアはレグルの周囲にいる魔物たちへ、互いの死角を補うように動くことを教えた。レグルは中央で敵の攻撃を受け止める一方、左右の魔物たちが敵を牽制する。何度か訓練を重ねると、レグルは自分がすべてを受け止める必要はないと理解したようだった。


 味方の防御力を生かし、全体で守る。それがレグルの軍団に必要な形だった。


 セラの訓練は、さらに違っていた。


 魔法を扱える魔物たちを集め、複数の標的を同時に守りながら、敵役の魔法攻撃を防ぐ。セラは魔力制御と魔力変換循環を使い、味方へ必要な魔力を分配しながら、敵の魔法を崩していく。


 その動きは、すでに軍団長としての素質を感じさせるものだった。味方の魔力が不足すれば補い、負傷した魔物には回復魔法を使う。攻撃の機会があれば、複数の魔法を同時に操って敵を制圧した。


「セラは、かなり向いてるね」


「はい。魔力の管理だけでなく、戦場全体の状況把握にも優れています。魔導軍の指揮官として、非常に高い適性があると考えられます」


 セラはノアの言葉に少し照れたように微笑んだ。


「ノア様のお役に立てるなら、どのような役目でも果たします」


「でも、無理はしないでね。軍団を率いるなら、セラ自身が倒れたら困るから」


「承知しました」


 最後はポヨンだった。


 ノアは訓練場を見渡し、どうすればいいのか考え込んだ。ガルドのように前線で戦うわけでもなく、レグルのように味方を守るわけでもない。セラのように魔力を操る能力も、ポヨンには確認されていない。


「……ポヨンは、どういう軍団になるんだろう」


 ポヨンはノアの足元で、いつものようにぷるぷる揺れている。


「因果干渉権限との関連性を考えると、特定の戦闘能力に偏らない編成が適している可能性があります。斥候、運搬、妨害など、状況に応じて役割を変えられる魔物が候補となるでしょう」


「つまり、何でもできる軍団?」


「何が起きるか予測しにくい軍団、と表現するほうが正確かもしれません」


 ノアは苦笑した。


 試しに、ポヨンの周囲へ小型の魔物を何匹か配置する。彼らには、訓練場の端にある旗を取り、中央の台座へ運ぶという簡単な課題を与えた。ところが、開始の合図と同時に一匹が別の方向へ走り、別の個体は旗ではなく台座の周囲を調べ始めた。


「……まとまらないね」


 ノアが頭を抱えかけたとき、ポヨンが一度だけ跳ねた。


 その拍子に、台座の脇に置かれていた小さな木片が転がり、訓練場の床にある溝へ落ちた。木片が溝の奥にある留め具を押し、旗を立てていた支柱がゆっくりと傾く。


 倒れた支柱は、偶然にも旗を持っていた魔物の進路を塞いだ。魔物は足を止め、近くにいた別の個体へ旗を渡す。旗を受け取った個体は、今度は台座の近くにいた仲間へそれを運び、課題は思いがけず成功した。


「……今のは?」


「直接的な指揮行動ではありません。しかし、周囲の偶発的な事象が結果的に連携を促しました」


「ポヨンの幸運が、みんなの動きを助けたってこと?」


「その可能性があります。ポヨン様の権限は、本人だけでなく周囲の行動や状況にも影響するのかもしれません」


 ノアはポヨンを抱き上げた。


「そっか。ポヨンはみんなを強くするというより、みんながうまく動ける状況を作るのかもね」


 ポヨンは返事の代わりに、ノアの腕の中で小さく揺れた。


 訓練を終えた頃、ルナが四精鋭の前へ進み出た。


「みんなに、お願いがある」


 ガルドたちがルナを見る。


「私は、ここにいる魔物たちを守りたい。でも、これから人間がもっと大勢で攻めてくると思う。今のままでは、守りきれないかもしれない」


 ルナの声は幼いままだったが、その目には王としての意思が宿っていた。


「だから、みんなに軍団を率いてほしい。無理に従わせるんじゃなくて、一緒に戦ってくれる仲間を集めてほしい」


 ガルドが力強く吠えた。


 レグルは一歩前へ進み、静かに頭を下げる。


 セラは胸に手を当て、ルナへ礼をした。


 ポヨンはノアの腕から飛び降り、ルナの足元へ向かって跳ねた。


 ルナはその小さな身体を見つめ、そっと前足を伸ばす。ポヨンはその手に身体を寄せた。


「ありがとう」


 ルナが呟いた。


 その瞬間、古代施設の紋章が再び輝いた。


『第一守護軍――編成準備』


『第二守護軍――編成準備』


『第三守護軍――編成準備』


『第四守護軍――編成準備』


 そして、その下に新たな文字が浮かび上がる。


『王軍編成――第一段階完了』


 ノアは表示を見上げた。


「これで、軍団を作る準備ができたんだね」


「はい。ただし、正式な軍団として成立させるには、各軍団長が配下を選び、ルナ様が承認する必要があります」


「じゃあ、次は仲間選びだ」


 ノアは洞窟に暮らす魔物たちを思い浮かべた。戦うことが得意な魔物もいれば、採掘や運搬に向いている魔物もいる。魔法を使える個体や、地中を移動できる個体もいる。全員を戦場へ連れていく必要はない。むしろ、それぞれが得意な役割を担うことで、王国全体が強くなるはずだった。


「軍団って、戦う魔物だけじゃなくていいよね」


「その通りです。補給、治療、探索、施設の維持など、後方を支える役割も必要になります」


「なら、戦えない魔物も大事な仲間だね」


 ルナが頷いた。


「みんなに役目がある」


 その言葉に、ノアは笑みを浮かべた。強さだけを求めるのではなく、ここで暮らす魔物たちが、それぞれの力を生かせる国。それがルナの望む王国なのかもしれない。


 しかし、穏やかな時間は長く続かなかった。


 クロウが地下施設の入口へ現れ、低く唸った。続いてルゥが駆け寄り、外の方角を示す。ノアはすぐに表情を引き締めた。


「人間?」


 クロウが頷くように頭を下げる。


 ミレアが周辺の魔力反応を確認した。


「王国方面から大規模な移動反応を確認。前回までの部隊とは比較にならない規模です」


「どれくらい?」


「正確な数はまだ把握できません。ただし、複数の高位魔力反応が含まれています。軍隊規模の可能性が高いです」


 ノアは息を吐いた。


 聖騎士団を退けたことで、王国が諦めるとは思っていなかった。むしろ、これまで以上の戦力を投入してくる可能性は十分にあった。


「もう来たんだ……」


 ルナが静かに前へ出る。


「迎え撃つ」


 ノアはルナの横に立った。


「うん。でも、まだ軍団はできていない。まずはみんなを守ることを優先しよう」


 四精鋭がそれぞれの位置につく。ガルドは斧を握り、レグルは巨体を低く構え、セラは魔力の流れを確認する。ポヨンは戦場の端で、いつもと変わらず小さく揺れていた。


 王国の軍勢がどれほどの規模であろうと、ここはルナが守ると決めた場所だ。


 そして、ルナの背後には、初めて一つの意思でまとまり始めた魔物たちがいる。


 ノアは洞窟の奥を振り返った。そこには、まだ戦い方も知らない小さな魔物たちが身を寄せ合っている。


「大丈夫。今度は、私たちが守る番だから」


 ルナはノアを見上げ、小さく頷いた。


 王としての最初の命令は、まだ下されていない。


 けれど、四精鋭はすでに動き始めていた。


 魔物王国の軍団は、まだ名も形も定まっていない。それでも、王を中心に集まった魔物たちの間には、確かなつながりが生まれ始めていた。

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