↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『運だけで生き抜くダンジョンマスター』 ~召喚も配合も全部ラッキーでした~  作者: もかどら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/55

第51話 王の試練と幸運の一歩

 巨大な石扉が開いた先に広がっていた地下空間を前に、ノアはしばらく言葉を失っていた。これまで自分たちが使ってきた洞窟とは明らかに造りが違う。壁も床も自然にできた岩ではなく、何か特殊な石材を積み上げて作られており、天井は見上げても暗闇に溶け込んで先が分からないほど高い。ところどころに埋め込まれた青白い鉱石が淡い光を放ち、その光が中央に描かれた巨大な魔法陣を照らしていた。


「……すごい」


 ノアの口から自然に声が漏れた。


 これまで洞窟を広げるために苦労してきたノアにとって、目の前の光景はまるで別世界だった。こんな巨大な空間を自分たちが掘ったわけではない。誰かが遥か昔に作り、何らかの理由で封印され、そのまま眠っていたのだ。


「魔力反応はどう?」


 ノアが尋ねると、ミレアは魔法陣を見つめながら慎重に答えた。


「非常に強いです。ただ、危険な魔力という感じではありません。むしろ……何かを待っているような状態です」


「待っている?」


「はい。長期間、起動することなく停止していたようですが、ルナが入ったことで魔力の流れが変化しています」


 ノアはルナを見る。


 黒い子猫はすでに魔法陣の中央へ向かって歩いていた。小さな足で古代の床を進み、巨大な魔法陣の中心に座る。その姿だけを見れば、ただ遊び場を見つけた子猫にしか見えない。


「ルナ、大丈夫?」


「ニャ」


 ルナは尻尾を一度だけ揺らした。


 直後、魔法陣が光った。


 地下空間全体が低く唸り、壁に埋め込まれた鉱石が次々と点灯していく。最初は中央だけだった光が円を描くように広がり、やがて床全体へと走っていった。


「全員、警戒!」


 ノアが叫ぶ。


 ガルドが斧を構え、レグルがノアの前へ出る。セラも即座に魔力を集中させ、クロウとルゥは周囲へ視線を走らせた。モラは何かを察したのか、ノアの足元へ駆け寄ってくる。


 しかし、何も起こらなかった。


 魔法陣が放っていた光が一度だけ大きく脈動すると、地下空間の奥から声のような音が響いた。


『継承候補を確認』


 ノアの背筋が伸びる。


『資格確認を開始します』


「やっぱりルナのことだ……」


 昨日の記録装置と同じだった。


 ただし、今回は違う。


 魔法陣そのものがルナを認識している。


『第一試練――力』


 巨大な魔法陣の一部が赤く染まった。


 すると、地下空間の奥にある壁がゆっくりと開いていく。


 そこから現れたのは、一体の巨大な石像だった。


 高さは三メートルを超えている。全身を分厚い鎧のような石で覆い、両手には巨大な剣を持っている。顔には目も鼻もなく、ただ中央に一本の細い亀裂だけが刻まれていた。


 ガルドが嬉しそうに口元を上げる。


「強そうだな」


「ガルド、待って」


 ノアが止める。


「これはルナの試練なんじゃない?」


「なら、ルナが戦うのか?」


「……それは無理じゃない?」


 目の前の石像は、どう見ても子猫が戦える相手ではない。


 ルナは石像を見上げていた。


 そして――。


 ふわぁ、と欠伸をした。


「……緊張感ないなぁ」


 ノアが呟いた瞬間、石像が動いた。


 ズンッ、と一歩踏み出すだけで床が震える。


 しかし次の瞬間、石像の足元から小さな音がした。


 カチッ。


「?」


 ノアが目を向ける。


 石像の足元に、古い魔法陣の一部が露出していた。


 その魔法陣は、モラが先ほど掘り出した高純度魔力結晶に反応していた。


「え?」


 ノアが驚く。


 モラが首を傾げる。


 そして、モラが持っていた魔力結晶がころりと床へ落ちた。


 結晶はそのまま魔法陣の上を転がり――石像の足元にある小さなくぼみに、ぴったりとはまった。


 カチン。


 音がした。


 石像が停止した。


「……え?」


 ノアは目を瞬かせた。


 石像の全身から光が消えていく。


『試練装置への高純度魔力供給を確認』


『規定値を超過』


『試練難易度を自動調整します』


「自動調整?」


 ミレアが驚く。


『候補者の現在能力と供給魔力を照合』


『第一試練――終了』


「…………」


 地下空間が静まり返った。


 ノアは呆然と石像を見る。


「……終わった?」


「そのようです」


 ミレアが答える。


「戦ってないけど?」


「戦っていませんね」


「ルナ、何もしてないよ?」


「そのようです」


 ノアはモラを見る。


 モラは何も分かっていない様子で鼻をひくひくさせている。


「……もしかして、これも?」


 モラが得意げに胸を張った。


「キュッ!」


「幸運なの?」


「キュッ!」


 ノアは思わず笑ってしまった。


「もう、何でもありだなぁ……」


 その声に反応するように、地下空間の奥で新たな文字が浮かび上がった。


『第二試練――知恵』


「今度こそ普通の試練かな」


 ノアが期待と警戒を込めて呟く。


 すると壁一面に大量の文字が表示された。


 古代文字。


 しかも、数百行はありそうだった。


「……うわ」


 ノアの顔が引きつる。


「これ全部読むの?」


「おそらく」


「私、こういうの苦手なんだけど……」


 ノアが頭を抱えた、そのときだった。


 クロウが魔法陣の横へ歩いていった。


 黒い毛並みと額の角が淡く光る。


 クロウは壁に刻まれた文字をじっと見つめ、何かを探すように視線を動かした。


 そして、一つの文字の前で止まった。


「グル……」


 クロウが低く唸る。


 ミレアが近づく。


「そこですか?」


 クロウが尻尾を振った。


 ミレアが文字を調べる。


「……これは入口ではありません。古代文字の規則そのものを示しているようです」


「つまり?」


「この試練、文章を全部読む必要はありません。正しい順番で魔法陣を起動させる試験ですね」


 ノアはクロウを見る。


「クロウ、分かったの?」


 クロウは答える代わりに、別の場所へ歩いていった。


 その姿を見て、ノアは少しだけ嬉しくなった。


「みんな、それぞれ得意なことがあるんだね」


 ガルドは戦う。


 レグルは守る。


 セラは魔法を扱う。


 ポヨンは予想外の幸運を引き寄せる。


 クロウは周囲を観察し、情報を拾う。


 ルゥは匂いから痕跡を見つける。


 モラは地面の中から思わぬものを掘り当てる。


 そしてルナは、そのすべての中心にいる。


「……なんか、いいな」


 ノアは小さく笑った。


 自分一人では何もできない。


 だからこそ、仲間がいる。


 それぞれが得意なことをしてくれるから、ノアはダンジョンマスターとして前へ進める。


 そんなことを考えている間にも、クロウは次々と正しい場所を見つけていた。


 ミレアが順番を確認し、ノアが指示を出す。


 セラが魔力を流し、魔法陣が一つずつ起動していく。


 そして最後の魔法陣が光った瞬間、地下空間の奥で再び声が響いた。


『第二試練――合格』


「よし!」


 ノアが拳を握る。


 だが、声はそこで終わらなかった。


『第三試練――運』


「……え?」


 ノアの動きが止まった。


 ガルドも首を傾げる。


 レグルが魔法陣を見る。


 セラは無言になった。


 ポヨンだけが嬉しそうに跳ねている。


「運って……」


 ノアがポヨンを見る。


「もしかして、これ……」


 ポヨンが跳ねる。


 ぽよん。


 その瞬間、ポヨンの身体が床の小さな突起にぶつかった。


 カチッ。


 地下空間の奥で何かが作動した。


 壁が開く。


 そこには、巨大な宝物庫が広がっていた。


 大量の魔力結晶。


 古代の魔道具。


 そして、中央には見たこともない巨大な卵が一つ。


「…………」


 ノアはしばらく固まった。


 ポヨンは何も知らず、楽しそうに跳ねている。


 やがてノアは、ゆっくりと両手で顔を覆った。


「……このダンジョン、運だけでどこまで行くんだろう」


 その問いに答える者はいなかった。


 ただ、ポヨンだけが嬉しそうに、もう一度跳ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。