第41話 魔石鉱床は、最高の収入源
岩炎獣を倒したあと、洞窟の中はしばらく騒然としていた。七人の冒険者たちは完全に戦意を失い、武器を下ろしたまま目の前の光景を眺めている。自分たちを襲ってきた巨大な魔獣を倒したのは、ついさっきまで「少し強いゴブリン」と思っていたガルドだった。その事実を理解できていないのか、大盾を持った男は何度もガルドと倒れた岩炎獣を見比べていた。
「……あのゴブリンが、倒したのか?」
「そうだよ」
ノアが答える。
「正確には、ポヨンが足場を崩して、ガルドがそこを攻撃した感じだけど」
「……ポヨン?」
男が足元を見る。
そこでは小さなポヨンが、何事もなかったかのように魔石の欠片を食べていた。
「ぷるっ」
「……」
冒険者たちの顔が引きつった。
ノアはそんな彼らを放置して、岩炎獣の身体を調べ始めた。巨大な魔獣の身体はところどころ砕けているものの、素材として使える部分はかなり残っている。特に胸部付近から感じる魔力は強烈だった。
「ミレア、これが魔石?」
「はい。岩炎獣の体内で長期間魔力を蓄積した特殊魔石です」
ノアが拾い上げる。
掌に乗せると、ずっしりとした重さがある。
「普通の魔石より大きいね」
「魔力容量も桁違いです。配合炉の魔力供給に使用する場合、現在の洞窟で採掘できる小型魔石を大量に集めるより効率が良いでしょう」
「じゃあ、これを使えば……」
「次の配合までの時間を大幅に短縮できます」
ノアの顔が明るくなる。
「やった!」
ついさっきまで、配合炉は魔力不足だった。
ところが今は、その問題を一気に解決できそうな素材が手に入った。
「これって、すごく運がいいよね」
「はい。かなり幸運な結果だと思われます」
ミレアの返答を聞いて、ノアは嬉しそうに魔石を眺めた。
しかし、そこで大盾の男が口を開いた。
「待ってくれ」
「何?」
「その魔石は、俺たちが見つけた魔獣から出たものだ」
ノアは首を傾げる。
「でも、倒したのはガルドだよ?」
「……そうだが」
「じゃあ私のものだよね」
「……」
男は何も言えなくなった。
ノアは少し考えた。
「それに、あなたたちは私のダンジョンに勝手に入ってきたんだから、むしろこっちが怒ってもいいくらいだよ」
「それは……」
冒険者たちは黙り込んだ。
ノアは彼らを見て、ため息をついた。
「今回は帰っていいよ」
「……いいのか?」
「うん。でも、次からは勝手に入ってこないで」
「分かった」
七人は素直に頷き、そして入口へ向かっていく。
途中で大盾の男が振り返った。
「一つだけ聞かせてくれ」
「何?」
「この洞窟は……これからどうなる?」
ノアは少し考えた。
「強くなるよ」
それだけ答えた。
冒険者たちは何も言わずに洞窟を出ていった。
その後ろ姿を見送ったノアは、すぐに作業へ戻る。
「さて、魔石鉱床だ」
壁に空いた穴へ近づく。
そこには大量の魔石が埋まっていた。小さなものから、大きなものまで様々だ。
「これ、全部採れる?」
「はい。ただし、無理に掘り進めると洞窟の構造そのものが崩れる可能性があります」
「じゃあ慎重にね」
ノアは自然発生したゴブリンたちを呼び集めた。
彼らは特別な名前を持つわけでもない、洞窟内で自然に生まれ、住み着いている普通の魔物たちだ。ノアは細かな指示を出すだけにして、採掘そのものは彼らに任せることにした。
「この辺りを少しずつ掘って、魔石だけ集めてね」
「ギャギャッ!」
ゴブリンたちが一斉に作業を始める。
つるはし代わりの硬い骨を使い、壁を慎重に削っていく。
カツン。
カツン。
やがて、魔石が一つ落ちた。
続いて二つ。
三つ。
ノアは拾い上げるたびに笑顔になった。
「すごい。こんなに取れるんだ」
ミレアが採掘量を計算する。
「現在確認できている範囲だけでも、配合炉を数回稼働させられる量があります」
「数回!」
ノアは思わず声を上げた。
昨日まで、次の配合のために魔力が貯まるのを待つ必要があると思っていた。
それが、一気に数回分。
しかも岩炎獣の特殊魔石まである。
「これならガルドだけじゃなくて、他の強化もできる」
ノアは嬉しそうに呟いた。
しかし、ミレアが冷静に付け加える。
「ただし、連続配合には注意が必要です」
「うん。分かってる」
配合炉は魔石を入れれば無限に動くわけではない。
炉そのものにも負荷がかかる。
魔力を大量に流せば、配合炉の回路が熱を持ち、一定時間冷却する必要がある。
「魔力があれば何回でもすぐ配合できるわけじゃないんだね」
「はい。魔力容量、炉の負荷、配合対象の性質。この三つを考える必要があります」
「じゃあ、焦らないほうがいいか」
ノアは配合炉を見る。
今はまだ、ガルドを配合したばかりだ。
せっかく強化したのだから、まずはその力を活かしていくべきだろう。
「次の配合は、ちゃんと考えてからにする」
「賢明です」
ノアは頷いた。
そのとき、洞窟の奥からセラが戻ってきた。
「どうしたの?」
セラが地面を指す。
そこには小さな魔石が一つ置かれていた。
「見つけた?」
頷く。
「どこで?」
セラがさらに奥を指す。
ノアがついていくと、そこにはこれまで誰も気づいていなかった細い通路があった。
「こんなところに?」
ノアが中へ入る。
通路は短かった。
その先には、小さな空洞がある。
そして壁一面に、淡い紫色の鉱石が生えていた。
「……何これ」
ミレアが鑑定する。
「魔力結晶です」
「魔石とは違うの?」
「魔石より純度が高く、自然に魔力を蓄積する鉱物です」
「これも配合炉に使える?」
「はい。しかも非常に効率が良いです」
ノアは固まった。
魔石鉱床を見つけたと思ったら、そのすぐ近くに魔力結晶まであった。
「……また?」
「はい」
ノアは思わず笑った。
「今日、運良すぎない?」
セラが不思議そうにノアを見る。
ポヨンもいつの間にか隣に来ていた。
「ぷる?」
「ポヨンは何もしてないよね?」
「ぷるっ」
ポヨンが胸を張る。
「まあ、いいや」
ノアは魔力結晶を一つだけ採取した。
無理に全部取る必要はない。
魔力結晶は、これから先のダンジョンを支える重要な資源になるかもしれない。
「これで、配合炉の魔力問題はかなり楽になりそう」
ノアは洞窟を見回した。
自然発生した魔物が増えている。
魔石鉱床が見つかった。
魔力結晶まで発見した。
そして、配合によってガルドも大幅に強化された。
ほんの少し前まで、ノアは「この洞窟、本当にダンジョンとしてやっていけるのかな」と心配していた。
それが今では、次に何を強化するかを考える段階まで来ている。
「この調子なら……」
ノアは笑った。
「もっと大きくできそうだね」
その日の夜。
採掘された魔石が整理され、魔力結晶が安全な場所へ保管された。
配合炉にも新たな魔力が少しずつ蓄えられている。
まだ次の配合を行うには時間が必要だ。
だが、その待ち時間さえ、以前とは意味が違っていた。
今は待っているだけで、ダンジョンの資源が増えていく。
自然発生した魔物たちは勝手に増え、採掘場では魔石が掘り出され、魔力を育てる土では植物が育っている。
そしてノアは、その成果を使って次の強化を考えればいい。
「明日は、配合の組み合わせをもう一度考えてみよう」
ノアが地下施設の灯りを落とす。
その足元をポヨンが転がっていく。
ころころ。
そして誰も気づかないまま、ポヨンは床に落ちていた小さな鉱石を一つ飲み込んだ。
「ぷるっ」
ポヨンの身体が、ほんの一瞬だけ紫色に光った。




