↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『運だけで生き抜くダンジョンマスター』 ~召喚も配合も全部ラッキーでした~  作者: もかどら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/44

第2話 召喚されたのは、ハズレのはずだった

 魔法陣の光が完全に消えるまで、ノアはその場から動けなかった。


 薄暗い洞窟の中に残されたのは、召喚されたばかりの小さな魔物と、呆然と立ち尽くす少女、それから魔物の正体を確認しようとしている補佐精霊の姿だった。


 最初に動いたのはミレアだった。


「……ノア様。召喚結果を確認します」


「う、うん」


 ミレアが魔物の前まで飛んでいく。


 召喚された魔物は、二本の足で立っていた。身体は小さい。全長はノアの膝ほどしかなく、灰褐色の肌に大きな耳、少し尖った鼻を持っている。腰には粗末な布を巻き、手には短い木の棒を握っていた。


 どう見ても、強そうには見えない。


 むしろ――。


「ゴブリン?」


「はい。一般的なゴブリンです」


 ミレアは淡々と答えた。


「召喚石の結果としては、極めて一般的ですね。希少性もありません。戦闘能力も低く、単独では冒険者一人を相手にすることすら難しいでしょう」


「……つまり?」


「大当たりではありません」


「だよね」


 ノアは肩を落とした。


 もちろん、最初から強力な魔物が出るとは思っていなかった。召喚石を使う前にミレアから説明も受けている。低級魔物が出る可能性のほうがずっと高い。


 それでも、心のどこかでは期待していた。


 もしかしたら、ものすごく強い魔物が出るかもしれない。


 ドラゴンとか。


 巨大な狼とか。


 魔法を使える高位魔族とか。


 そんな期待をしていたからこそ、目の前の小さなゴブリンを見ると、少しだけ残念な気持ちになる。


 だが、ノアはすぐに頭を振った。


「でも、ゼロじゃないんだよね」


「はい?」


「何も出なかったわけじゃない。ゴブリンが一体増えたんだから、ちゃんと戦力にはなる」


 ノアはゴブリンの前にしゃがみ込んだ。


「こんにちは。怖くないよ」


 ゴブリンは警戒するようにノアを見る。


 小さな身体を少し震わせながら、手にした木の棒を握り直した。


「……やっぱり怖がってるね」


「召喚されたばかりですから。自分がどこにいるのかも理解できていないのでしょう」


 ミレアがそう説明する。


 ノアはゴブリンと視線を合わせたまま、少し考えた。


「名前、つけていい?」


「もちろんです」


「じゃあ……ガルド」


 ゴブリンが目を瞬かせた。


「ガルド。今日からあなたの名前」


「……ガ、ルド?」


「そう。ガルド」


 ゴブリンは何度か口を動かした。


 そして、胸に手を当てる。


「ガルド」


「うん」


「ガルド!」


 今度ははっきりと自分の名前を口にした。


 ノアの顔に笑みが浮かぶ。


「気に入ってくれたみたい」


「どうやら、そのようですね」


 ミレアも少しだけ表情を和らげた。


 それから彼女は、ガルドを観察する。


「しかし、問題はこれからです」


「問題?」


「はい。現在のダンジョンには魔物が二体しかいません。ポムとガルドです。どちらも低級種で、戦闘能力は高くありません。もし本当に冒険者が侵入してきた場合、正面から戦えば勝てる可能性は低いでしょう」


 その言葉を聞いて、ノアの表情から笑みが消えた。


「……やっぱり、冒険者って来るんだ」


「ダンジョンである以上、可能性は高いです」


「どれくらい?」


「明日かもしれませんし、一年後かもしれません。ただ、この規模のダンジョンであれば、冒険者に発見される可能性そのものは決して低くありません」


「じゃあ、今のうちに準備しないと」


「そういうことです」


 ミレアは本を開いた。


「現在のダンジョンポイントは三十二。最低限の設備を一つ設置できる程度です」


「三十二……。それって多いの?」


「少ないです」


「即答なんだ」


「事実ですから」


 ノアは少しだけ唸った。


「じゃあ、何を作るべき?」


「私なら罠を推奨します。直接戦闘よりも、まずは侵入者の動きを制限するべきです」


「罠か……」


 ノアは洞窟の通路を見る。


 確かに、今のままでは何もない。


 一本道を歩いてくる冒険者を止める手段が存在しない。


「でも、罠を作ってもポムやガルドまで引っかからない?」


「種類によります。ダンジョンに登録された魔物は、一定の条件下では罠の影響を受けません」


「へえ」


 ノアは通路を見つめながら考えた。


「だったら、入口の近くに罠を置くんじゃなくて、奥に誘導するようにしたほうがいいかも」


「……続けてください」


「冒険者が入ってきたとき、最初から罠があるってわかったら警戒するでしょ。でも、何もないと思わせて奥まで進ませたら、そこで罠を使える。ポムやガルドが逃げられる場所も作っておきたい」


 ミレアは黙って聞いている。


「それと、戦う場所も必要だよね。狭い場所なら数が多いほうが有利だし、逆に広い場所なら相手の動きを制限できるかもしれない。今は二体しかいないから、正面から戦うんじゃなくて、逃げながら時間を稼ぐほうがいいと思う」


 ノアはそこで言葉を切った。


「……どうかな?」


「非常に合理的です」


「本当?」


「はい。少なくとも、現状で可能な範囲では良い判断だと思います」


 ミレアは少し意外そうにノアを見る。


「正直に申し上げると、私はノア様がもっと無謀な判断をすると思っていました」


「私だって死にたくないからね。戦えないなら、戦わなくていい方法を考えるしかないでしょ」


「……なるほど」


 ミレアが静かに頷いた。


 ノアはその反応を見て、少しだけ安心した。


 自分には特別な力がない。


 そう思っていた。


 けれど、何もできないわけではない。


 考えることくらいならできる。


 それなら、生き残るためにできることを一つずつやればいい。


 そう考えたところで、ノアはふと気づいた。


「ねえ、ミレア」


「何でしょう?」


「私の幸運って、具体的には何ができるの?」


 ミレアの手が止まった。


「……正確なところは、私にもわかりません」


「わからない?」


「はい。ダンジョンコアに記録されている能力情報は【超幸運】という名称と、ごく簡単な説明だけです。能力の発動条件や効果範囲については、実際に経験しながら確認する必要があります」


「じゃあ、試してみる?」


「どうやってですか?」


「運がいいかどうかを」


「それは能力の検証としては、かなり難しいと思います」


「でも、やってみないとわからないよ」


 ノアは周囲を見渡した。


 そして、ふと足元に落ちていた小さな石を拾った。


「表が出たら、今日は幸運」


「その程度のことで能力が検証できるとは思えませんが……」


「いいの。気分の問題だから」


 ノアは石を指で弾いた。


 石はくるくると回転しながら宙を舞う。


 そして――。


 床に落ちた。


 普通の石だ。


 当然、表も裏もない。


「……」


「……」


 ノアとミレアが石を見る。


「これ、失敗じゃない?」


「少なくとも、幸運の検証にはなっていませんね」


「だよね」


 ノアは苦笑した。


 そのときだった。


 ポムが突然、石に近づいた。


「ぷるっ」


 身体を伸ばして石を押す。


 ころり。


 石が転がった。


 そして、その石は偶然にも洞窟の床にあった小さな亀裂へ入り込んだ。


「……あれ?」


 ノアがしゃがみ込む。


 石を追って亀裂を覗き込んだ。


 すると、その奥から微かな光が漏れている。


「ミレア。ここ、何かある」


「え?」


 ミレアが飛んでくる。


 二人で周囲を確認すると、岩壁の一部に不自然な隙間があった。


 ノアが手をかける。


 ぐらり、と岩が動いた。


「これ……動くよ」


「隠し通路?」


 力を込めて押す。


 岩がゆっくりと横へずれ、その奥に小さな空間が現れた。


 そこには、古びた木箱が一つ置かれていた。


「……何これ」


「待ってください」


 ミレアがノアを制止する。


「罠の可能性があります」


「そっか」


 ノアは一歩下がった。


 ミレアが魔力を飛ばして確認する。


 しばらくして、彼女は首を横に振った。


「罠はありません」


「じゃあ、開けてみよう」


「慎重にお願いします」


 ノアが木箱を開ける。


 中に入っていたのは、数個の魔石だった。


 しかも、そのうち一つは明らかに他のものより大きく、強い魔力を放っている。


 ミレアの目が見開かれた。


「……これは」


「すごいの?」


「高品質の魔石です。今のダンジョンポイントに換算すれば、かなりの量になります」


 ノアは魔石を見つめた。


 さっきまで三十二しかなかったダンジョンポイント。


 それが一気に増える。


 これなら罠を作れる。


 部屋も拡張できる。


 もしかすると、もう一つ召喚石を手に入れられるかもしれない。


「……私、運がいいのかな」


 ノアが呟く。


 ミレアは答えなかった。


 代わりに、床に転がっている小さな石を見た。


 ノアが投げた石。


 ポムが押した石。


 偶然、亀裂へ入り込んだ石。


 その結果、誰も存在を知らなかった隠し部屋が見つかった。


「……偶然、でしょうね」


「だよね」


 ノアは笑った。


「じゃあ、今日は本当に運がいい日なんだ」


「……そういうことにしておきましょう」


 ミレアはそう答えた。


 しかし、その表情にはわずかな疑念が残っていた。


 ノアはまだ知らない。


 このダンジョンには、彼女が思っている以上に多くの秘密が眠っている。


 そしてその秘密を見つけるたびに、彼女の幸運は世界の常識を少しずつ壊していくことになる。


 その日の夜。


 ノアは手に入れた魔石を眺めながら、初めてダンジョンマスターらしい笑顔を浮かべた。


「よし。明日は、もっと強いダンジョンにしよう」


 その隣で、ポムが嬉しそうに跳ねる。


「ぷるっ!」


 ガルドも胸を張った。


「ガルド!」


 ミレアは二人と一匹を見ながら、小さく息を吐く。


 まだ何も始まっていない。


 けれど――。


 確かに、この小さなダンジョンには今日、新しい一歩が刻まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。