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『運だけで生き抜くダンジョンマスター』 ~召喚も配合も全部ラッキーでした~  作者: もかどら


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第17話 古代配合炉が生み出したもの

 古代配合炉の前に立ったノアは、もう一度だけ素材を確認した。高品質魔力結晶十個。星喰い草。そして特殊個体であるレインとセイル。昨日までなら、どれも簡単には揃わないものばかりだった。それが今は、すべて自分の目の前にある。最初から持っていた一個を除けば、必要な九個を集めるために森へ出かけただけなのに、気がつけば条件を満たしてしまった。その幸運の異常さについて考えると少し怖くなるが、今はそれ以上に、古代配合炉が何を生み出すのかという好奇心のほうが勝っていた。


「ミレア、本当にこれで全部?」


「はい。表示上、条件は完全に満たされています。特殊個体二体、星喰い草、高品質魔力結晶十個。これ以上必要な素材はありません」


「失敗する可能性は?」


「あります」


「あるんだ……」


「古代配合炉がどのような基準で素材を組み合わせるのか、現代の配合術とは異なる部分が多すぎます。成功率についても記録がありません。そもそも、現在の研究者でこの炉を完全に理解している者がいるとは思えません」


 ノアは炉を見上げた。古代配合士が何十年も前に残した研究施設。その中心に眠っていた装置を、自分はいま使おうとしている。もしかしたら何も起きないかもしれない。あるいは素材だけ失われるかもしれない。それでも、ここまで来たのなら試してみたい。


「じゃあ、やる」


「承知しました」


 ミレアが配合炉を起動させる。


 ゴウン、と低い音が響いた。


 炉の周囲に刻まれた古代文字が一つずつ光り始める。まず高品質魔力結晶が宙へ浮かび、その周囲を青白い光が包んだ。十個の結晶が一定の間隔で並び、まるで小さな星々のように回転を始める。続いて星喰い草がゆっくりと浮き上がった。葉に宿っていた黒紫色の魔力が溶け出し、結晶の光と混ざっていく。


「……綺麗」


 ノアが呟く。


 しかし、次にレインとセイルの身体から魔力が引き出された瞬間、空気が変わった。


 レインが驚いたように鳴き、セイルが低く唸る。


「大丈夫!?」


「問題ありません。魔力を一時的に吸収しているだけです。生命力を奪っているわけではありません」


「でも、苦しそう」


「配合炉を停止することもできます」


 ノアは二匹を見る。


 レインもセイルも苦しそうではあるが、逃げようとはしていない。


「……二人とも、続けていい?」


 レインが小さく鳴いた。


 セイルもゆっくりと目を閉じる。


「……ありがとう」


 ノアが炉へ向き直る。


「続けて」


 魔力がさらに強くなる。


 十個の高品質魔力結晶が砕けた。


 その瞬間、洞窟全体が震えた。


「えっ!?」


 ノアが思わず後退する。


 古代配合炉から黒い光と白い光が同時に噴き出した。二つの光は互いに絡み合い、巨大な渦となって炉の中央へ集まっていく。星喰い草が完全に光へ溶け、高品質魔力結晶の残骸も一つ残らず吸い込まれた。


 そして――。


 ドクン。


 炉の中央が脈打った。


 ドクン。


 もう一度。


「……何が出てくるの?」


「解析不能です」


「ミレアでも?」


「はい。配合中の魔力構造が複雑すぎます。少なくとも、通常の魔物を作っているわけではありません」


 ノアは息を呑んだ。


 やがて光が一点へ収束していく。


 小さくなる。


 さらに小さくなる。


 そして最後には、拳ほどの黒い球体になった。


「……終わった?」


「まだです」


 黒い球体に亀裂が走った。


 ピシッ。


 ノアが身構える。


 ピシッ、ピシッ。


 表面に無数の亀裂が広がっていく。


 そして――。


 パキン。


 殻が割れた。


「……」


 ノアは黙って見つめる。


 そこから出てきたのは、一匹の小さな魔物だった。


 四本の足。


 細長い尻尾。


 丸い身体。


 全身を覆う毛は真っ黒だが、額には小さな白い星形の模様がある。


 大きさは、ポムより少し大きい程度。


「……子猫?」


 ノアが思わず言った。


 ミレアも黙っている。


 魔物は周囲を見回し、それからノアのところまでとことこと歩いてきた。


 そして、ノアの靴に身体を寄せる。


「……可愛い」


 ノアがしゃがむ。


 魔物は顔を上げた。


 大きな瞳がノアを映している。


「これが、特殊配合の結果?」


「お待ちください」


 ミレアが鑑定を行う。


 数秒。


 ミレアの表情が変わった。


「……どうしたの?」


「もう一度、鑑定します」


「え?」


 ミレアが魔力を集中する。


 再び結果が表示される。


【種族:???】


【個体名:未設定】


【属性:???】


【危険度:測定不能】


【能力:???】


【成長限界:測定不能】


 ノアは首を傾げた。


「……全然分からないじゃん」


「その通りです」


「じゃあ、失敗?」


「いえ」


 ミレアは小さな魔物を見つめている。


「むしろ逆です」


「逆?」


「鑑定できないのではありません。私の鑑定能力では、情報を読み取れないほど特殊な存在なのです」


 ノアは魔物を見る。


 本人は何も知らない様子で、ノアの足元をぐるぐる回っている。


「でも、こんなに小さいよ?」


「大きさと強さは別です」


「それはそうだけど……」


 ノアが魔物を抱き上げる。


 軽い。


 暖かい。


 そして、妙に安心する。


 魔物はノアの腕の中で丸くなった。


「名前、どうしよう」


 ノアが考える。額にある小さな白い星。黒い毛。そして、どこか夜空を思わせる瞳。


「……ルナ」


 魔物が顔を上げる。


「気に入った?」


 尻尾が小さく揺れた。


「じゃあ、あなたはルナ」


 ノアが笑う。


 その瞬間、ダンジョンコアが大きく反応した。


【個体名:ルナ】


【登録完了】


【特殊配合個体を確認】


【配合結果:成功】


 ノアは嬉しそうに笑った。


「成功した!」


 しかし、ミレアは表示を見たまま動かなかった。


「……ノア様」


「何?」


「一つ、妙なことがあります」


「また?」


「はい」


 ミレアが新たな表示を開く。


【特殊配合個体】


【成長条件:不明】


【固有能力:不明】


【潜在能力:不明】


【世界干渉値:測定不能】


「世界干渉値?」


 ノアの笑顔が消えた。


「それって何?」


「分かりません」


「分からないの?」


「古代配合炉の記録にも、この項目はありません」


 ルナがノアの腕の中で小さく欠伸をした。


 何も知らない。自分がどれほど異常な存在なのかも。ノアは少し困ったように笑った。


「まあ、いいか」


「ノア様?」


「今は私たちの仲間なんだから」


 ノアがルナの頭を撫でる。


 その瞬間、ルナの額にある白い星が一瞬だけ輝いた。


 誰も気づかなかった。


 ただ一人、ダンジョンの奥にあるダンジョンコアだけが、その光を記録していた。


【警告】


【未登録因子を検出】


【世界法則との干渉を確認】


【解析不能】


 そして同じ頃。


 ノアたちのダンジョンから遠く離れた森の奥で、一匹の巨大な魔物がゆっくりと顔を上げた。


 鼻先が震える。


 何かを感じ取ったように、森のさらに奥へ向かって唸り声を上げる。


 ルナが生まれた。


 その瞬間から、世界のどこかで何かが動き始めていた。

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