第124話 封鎖の真相と、最後の認証
封鎖区画で見つけた三枚の金属板は、クロノアの会議室に運び込まれていた。
魔力循環の異常を記した記録。四つに分けられた管理権限。そして、封鎖を決める際には単独で判断してはならないという警告。どれも重要そうだったが、今のところ、肝心の原因は分かっていない。
私は机に並べられた金属板を見比べた。
「そろそろ、分かるところまではっきりさせたいね。謎が増えるばかりじゃ、いつまで経っても先に進めないし」
「同感です。今回は三枚の配置と、先日発見した認証用の金属片を照合します。これで何も分からなければ、いったん調査を打ち切るべきでしょう」
ミレアは金属板を一枚ずつ並べ直した。
セラが魔力の流れを調べ、トウガは板の縁に刻まれた細かな溝を確認する。クロウとルゥは周囲を警戒し、モラは机の下から顔を出していた。ポヨンも参加したがっているのか、私の足元で身体を揺らしている。
「ポヨン、今回は何も触らないでね」
「ぽよ?」
「何か起きると、調査がまた最初からになりそうだから」
「ぽよ……」
少し残念そうだったが、ポヨンは素直にその場へ座った。
私は認証用の金属片を三枚の板の中央へ置いた。金属片に刻まれた四つの印が、板の印と対応している。これまで確認できたのは、魔力循環、生命環境、交易記録、そして封鎖判断の四つだった。
「ミレア、この四つの権限は、全部そろわないと駄目なの?」
「すべての機能を使うなら、そう考えられます。ただし、記録を読む権限と、設備を操作する権限は別々だった可能性があります」
「じゃあ、今ある金属片だけで記録を読めるかもしれない?」
「試してみる価値はあります。ただし、設備を動かす操作は避けましょう」
私は頷いた。
「分かった。まずは読むだけ。何かが起動しそうになったら、すぐに止めて」
セラが認証用の金属片へ、ごく弱い魔力を流した。
最初に魔力循環の印が光る。続いて生命環境、交易記録の印が順番に淡く輝いた。ところが、最後の封鎖判断だけは光らない。
代わりに、金属板の表面へ文字が浮かび上がった。
『管理記録――閲覧権限を確認』
「成功した!」
私は身を乗り出した。
文字は少しずつ変化していく。古い記録が読み取られ、金属板の上に短い文章が並んだ。
『魔力循環異常、複数地点で確認』
『流向逆転は自然変動の範囲を超過』
『外部からの干渉を示す反応あり』
私は思わず息を止めた。
「外部からの干渉って……誰かが何かをしたってこと?」
「その可能性は高いです。ただし、意図的な操作だったのか、別の現象に巻き込まれたのかは、この記録だけでは判断できません」
ミレアが慎重に答える。
さらに文字が浮かんだ。
『異常発生地点の中心部にて、管理系統外の反応を検出』
『中央管理者へ照会を実施』
『回答未着』
『交易路の安全を確保するため、封鎖準備を開始』
そこで記録は途切れた。
「回答未着……」
私はその文字を見つめた。
「つまり、原因が分からないまま封鎖したんじゃなくて、原因を調べようとして中央に問い合わせたけど、返事が来なかった。それで封鎖準備を始めたってこと?」
「記録の順序からは、そう読み取れます」
セラが金属板の表面を確認した。
「ただし、封鎖が実際に実行された理由までは残っていません。準備を開始した段階で記録が途切れています」
「最後の判断だけ、別の権限が必要だったんだね」
「はい。封鎖判断の権限を持つ管理者が、最終決定を下したのでしょう」
私は椅子の背にもたれた。
これで少なくとも、昔の人たちが理由もなく交易路を閉じたわけではないことが分かった。複数の地点で魔力の流れが逆転し、通常ではない干渉まで検出された。危険を感じた管理者たちは中央へ問い合わせたが、回答がないまま封鎖の準備を始めたのだ。
しかし、まだひとつ気になる点があった。
「管理系統外の反応って、具体的には何だったんだろう?」
「そこが今回の記録に残されていない部分です。ですが、封鎖区画にある扉が二者の承認を要求していることと関係している可能性があります」
ミレアは四つの印を指で示した。
「魔力循環と生命環境、交易記録は、それぞれの担当者が管理できた。しかし封鎖判断だけは、一人の管理者に任せない仕組みになっていたのでしょう。重大な異常が起きたとき、誰か一人の判断だけで交易路を永久に閉じたり、危険な設備を再起動したりできないようにしていたのかもしれません」
「それなら、二者の承認が必要な理由も分かるね」
私は再び金属板を見た。
「でも、今の私たちが封鎖を解除する必要はない。原因も全部分かっていないし、危険が残っているなら、無理に開ける理由もないから」
「賢明な判断です」
セラが頷いた。
そのとき、モラが机の下から出てきて、三枚目の金属板の端を前足で引っかいた。
「キュッ」
「どうしたの?」
金属板を持ち上げてみると、裏側に小さな刻印があった。表面の文字とは違い、細かな数字と短い記号が並んでいる。
トウガがすぐに反応した。
「これは記録番号でしょうな。三枚の板で番号の並びが違います」
ミレアが確認する。
「はい。こちらは第一報告、こちらは追加調査、そして最後の板は封鎖準備に関する記録です。順番も一致しています」
「じゃあ、記録が抜けているんじゃなくて、そもそも最後の報告がないんだ」
「その可能性が高いです」
私は小さく息を吐いた。
古代の謎が一度にすべて解けたわけではない。それでも、少なくとも今まで分からなかった部分は整理できた。魔力の流れが逆転したこと、外部からの干渉らしき反応があったこと、中央管理者への照会が未回答だったこと。そして、封鎖判断だけは特別な権限によって制御されていたこと。
残された問題は、管理系統外の反応の正体と、中央管理者から回答が届かなかった理由だ。
「ここから先は、記録を探すだけじゃ分からないかもしれないね」
「はい。追加の記録が見つからない限り、推測を重ねるだけになります」
「なら、いったんここまでにしよう。封鎖区画は現状のまま維持。認証用の金属片も保管して、勝手に設備を起動しないこと」
私が決めると、ミレアはすぐに記録をまとめた。
そのとき、警戒に出ていたクロウが急いで部屋へ戻ってきた。
「グルルッ!」
クロウは山道の方向を振り返り、前足で床を叩いた。続いて入ってきたルゥも、いつになく険しい表情で頷いている。
「王国軍が動いた?」
クロウが短く唸った。
ミレアが状況を確認するため、警戒用の魔力計測器を起動する。山道の観測装置から届いていた信号は、すでにほとんど消えていた。しかし今度は、別の場所から大きな魔力反応が検出されている。
「敵の装置が再稼働したようです。これまでの観測用信号とは異なり、周辺の魔力を直接変化させています」
セラが計測器をのぞき込んだ。
「洞窟の魔力が、外側へ流れようとしています。ですが、以前のように一瞬逆転するだけではありません。一定方向へ引っ張られています」
「王国軍が、魔力を吸い出そうとしている?」
「断定はできません。ただ、今のまま変化が続けば、洞窟の防衛設備や魔物たちの活動にも影響が出る恐れがあります」
私はすぐに立ち上がった。
「セラ、ネレウスと一緒に変化を分析して。トウガは魔石の備蓄を確認して、魔力に頼らなくても維持できる防衛設備を優先して。チクタは住民の避難経路を再確認して、ガルドとバランは出撃できるように準備して」
「了解!」
それぞれが動き始める。
ルナも部屋へ入ってきた。シエルがその隣に控え、状況を簡潔に伝える。
「王国軍が新たな装置を動かした可能性があります。まだ攻撃の規模は不明ですが、クロノアの魔力循環に干渉しているようです」
ルナは地図を見つめ、迷わず指示を出した。
「住民を安全な場所へ移動させて。防衛部隊は配置を維持し、敵の目的が分かるまでは主力を分散させないで」
「承知しました」
シエルがすぐに指示を伝えに向かう。
私はルナの隣に立った。
「古代の記録にあった異常と関係しているかもしれない。でも、今は決めつけない。まずは王国軍の装置を止めることを優先しよう」
「うん。過去に何があったとしても、今ここにいるみんなを危険にさらすわけにはいかないから」
ルナの言葉に、私は頷いた。
古代施設の調査は、ひとまず区切りがついた。原因のすべては分からなくても、封鎖に至るまでの経緯は見えてきた。そして今、同じような魔力の異常が再びクロノアを襲おうとしている。
偶然なのか、それとも王国軍が何かを引き起こしているのか。
その答えは、これからの戦いの中で確かめるしかない。
私は防衛拠点を出て、洞窟の入口へ向かった。外の空は暗く、山道の向こうには不気味な光がぼんやりと浮かんでいる。
「今度は、好き勝手にはさせないよ」
クロノアを守るための戦いが、いよいよ始まろうとしていた。




