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『運だけで生き抜くダンジョンマスター』 ~召喚も配合も全部ラッキーでした~  作者: もかどら


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第117話 管理者代理の認証と、封鎖された真実

 認証札を手に入れた翌朝、私は会議室に集まった仲間たちと、古代の交易拠点へ向かうための準備を進めていた。今回の目的は、以前発見した記録装置に『管理者代理』の認証札を読み込ませ、旧協定に関する情報を引き出すことだ。単に昔の出来事を知りたいわけではない。王国がなぜ古代の交易路を探し、魔力を封じる兵器まで用意しているのか。その理由を知ることができれば、次に何を狙ってくるのか予測できるかもしれない。


「調査班は私とミレア、セラ、クロウ、ルゥ。それにレグルにも同行してもらう。ガルドたちは洞窟に残って、防衛と訓練を続けてほしい」


「おう。敵が来たら、こっちは任せておけ!」


 ガルドが拳を打ち合わせた。隣ではバランも負けじと胸を張っている。


「敵が来たら俺が先頭で叩き潰してやる。ガルド、戻ってきたときに俺より弱くなっていたら承知しないぞ」


「はっ! お前こそ、俺がいない間に勝手に突っ込んで負けるなよ!」


「誰が負けるか!」


「二人とも、訓練場を壊さない程度にしてください」


 セラが冷静に釘を刺す。二人は一瞬だけ黙ったが、すぐに互いを睨み合った。


 レグルがいない間の防衛をトウガが補い、セラの代わりにネレウスが魔力監視を担当する。チクタには、万が一敵が接近した場合の避難経路と物資の移送計画を確認してもらうことになった。ルナは王位継承者としてダンジョン全体を見守る役目を担う。シエルもそのそばを離れず、静かに小さな翼を動かしていた。


「私たちが外へ出ている間、何かあればルナの判断を優先してね。敵が現れたら、無理に全員を一か所へ集めず、住民を安全な場所へ移動させること。守るのは施設だけじゃないから」


「分かっている」


 ルナは私を見上げ、落ち着いた声で答えた。


「強い者だけが生き残ればいいわけではない。弱い者も含めてクロノアだ。敵が来たなら戦うが、守れる者まで戦場に出すつもりはない」


「うん。お願いね」


 私はルナの頭をそっと撫でた。王としての自覚が芽生えたこの子は、少しずつ自分の言葉で国の方針を語るようになっている。その成長が頼もしい一方で、王国との戦いが進めば、いつかルナ自身が厳しい決断を迫られる日も来るのだろう。


 準備を終え、私たちは古代の交易拠点へ向かった。クロウが先行して周囲の気配を探り、ルゥが地面や壁に残る痕跡を追う。チクタが整理した迂回路のおかげで、以前よりも安全に移動できるようになっていた。道中には、王国軍が設置した観測装置の残骸も見つかった。破壊された部品の一部は回収されていたが、周囲に新しい足跡はない。


「今のところ、敵がこの経路を使った形跡はありません」


 ミレアが報告する。


「ただし、観測装置が撤去された場所を敵が把握している可能性はあります。こちらの動きが完全に隠れているとは考えないほうがよいでしょう」


「分かった。必要以上に時間をかけないようにしよう」


 やがて、古い石造りの建物が見えてきた。かつて人間と魔物が共同で管理していた交易拠点。その奥にある記録室には、旧協定の情報を保存した装置が残されている。


 建物の入口に立った私は、周囲を見渡した。人が暮らしていた痕跡はあるのに、今は誰もいない。壁際には錆びた金具が残り、床には古い荷車の車輪跡が薄く刻まれている。ここを通じて、かつて人間は金属や薬品を運び、魔物は魔石や鉱石、薬草を提供していたのだ。


「ここで、本当に一緒に商売をしていたんだね」


「残された設備の構造からも、その可能性は高いです。人間側の荷物を保管する区画と、魔物側の素材を一時保管する区画が分かれています。双方が利用する計量台も確認できます」


 ミレアの説明を聞きながら、私は建物の奥へ進んだ。


 記録室は以前と変わらず、静かなままだった。壁に埋め込まれた装置には古代文字が並び、中央の操作台には円形の認証部がある。私たちはここで、旧協定に関する記録が残されていることを確認していた。ただ、管理者の認証が必要な記録にはアクセスできず、詳しい内容までは分からなかった。


「これが認証部です」


 セラが操作台を確認する。


「魔力は弱いですが、完全には失われていません。札を読み取る機能も残っている可能性があります」


 私は収納袋から木製の認証札を取り出した。表面には古代文字、裏面には『管理者代理』の文字が刻まれている。昨日の店主は、これがあれば必ず記録を読めるとは言わなかった。装置が残っていること、そして認証札が対応していること。その両方が必要なのだ。


「じゃあ、試してみよう」


 私は認証部の前に立ち、札を近づけた。


 最初は何も起こらなかった。


「……反応しない?」


「まだ接触させていません。認証部の中央にある窪みへ置いてみてください」


 ミレアに言われたとおり、私は札を窪みにはめ込んだ。


 カチッ。


 小さな音が響く。


 次の瞬間、操作台の縁に青白い光が走った。壁の装置が低く唸り、古代文字が次々と点灯していく。


『管理者代理の認証札を確認』


「認識した!」


 思わず声が弾んだ。


 しかし、続いて表示された文字を見た瞬間、ミレアの表情が変わった。


『認証状態――制限付き』


『管理者本人の承認――未確認』


『閲覧可能記録――限定』


「制限付き……?」


 私は眉をひそめた。


「つまり、認証は通ったけれど、全部は見られないということ?」


「そのようです。代理人の権限では、管理者本人の承認が必要な記録を開けないのでしょう」


「せっかく札を手に入れたのに、ここまでかぁ」


「いいえ。少なくとも、以前は開けなかった記録へアクセスできています」


 ミレアが操作台を調べ、閲覧可能な記録を呼び出した。壁の一部に古代文字が浮かび上がる。私は読めない文字をミレアに解読してもらいながら、表示された内容を確認した。


 最初に現れたのは、交易拠点の日常的な記録だった。魔石の受け渡し量、薬草の保管数、金属製品の納入予定、双方の管理者が立ち会った取引の記録。そこには、人間と魔物が互いの品物を検査し、問題があれば協議していたことが記されていた。


「思っていた以上に、きちんと管理されていたんだね」


「はい。少なくとも、この拠点では一方的に物資を奪うような仕組みではありません。双方の署名に相当する認証がなければ、取引が完了しない構造になっています」


 さらに記録を進めると、ある時期を境に、取引量が急激に減少していることが分かった。魔力循環に異常が発生したという報告が増え、交易路の一部で魔石が不安定になったことや、設備の魔力供給が途切れたことが記されている。


「これが、封鎖のきっかけかな……」


「可能性は高いです。ですが、原因そのものを記した記録は見当たりません」


 セラが別の記録を呼び出そうとした。しかし、画面には同じ警告が表示される。


『管理者権限が不足しています』


「これ以上は見られないようですね」


「じゃあ、今分かったことを整理しよう」


 私は記録を順番に確認した。


 魔力循環の異常は、交易路の封鎖より前に発生している。けれど、その記録には、異常の原因が魔物側にあったとも、人間側にあったとも書かれていない。確認作業が続いていた途中で、封鎖の命令が出されたらしい。


 そして、その命令を出したのは、この拠点の管理者ではなかった。


「封鎖命令は、王都の中央管理機関から出されています」


 ミレアが読み取った記録を示す。


「現地の管理者は調査の継続を求めていましたが、命令が優先され、交易路の閉鎖と記録の一部移送が実施されたようです」


「調査が終わる前に、閉じられたってこと?」


「はい。少なくとも、ここに残っている記録からはそう読み取れます」


 私は操作台を見つめた。


 魔力循環の異常が起きたことは事実だ。交易路を閉じる必要があった可能性もある。けれど、原因が特定される前に調査が打ち切られ、重要な記録が王都へ移されたのなら、私たちが知っている歴史には、まだ抜け落ちた部分がある。


「王国は、この異常の原因を本当に調べたのかな」


「分かりません。調査を続けた記録が別の場所に保存されている可能性はあります。ただし、現時点では断定できません」


 セラが操作台を見つめたまま言った。


「もし、原因を調べきれないまま封鎖したのなら、当時の判断には安全確保という目的もあったのかもしれません。しかし、現在の王国が古代技術を兵器へ転用しようとしていることとは、分けて考える必要があります」


「うん。昔に何があったとしても、今の王国が私たちを滅ぼそうとしている事実は変わらない」


 私ははっきりと言った。


 過去に協力関係があったからといって、今の人間たちを信じる理由にはならない。こちらの国を認めず、魔石や古代施設を奪おうとする軍隊が迫っている以上、私たちにはクロノアを守る責任がある。


 そのとき、クロウが入口のほうへ顔を向けた。


「グルル……」


 全員が動きを止める。


「何か来たの?」


 クロウは低く唸りながら、入口へ向かって歩き出した。ルゥも地面の匂いを確かめ、すぐに戻ってくる。何者かが近くを通った痕跡があるらしい。


 セラが魔力探知を広げた。


「遠方に小さな反応があります。こちらへ接近しているかどうかは、まだ判断できません」


「王国軍の偵察かもしれないね」


「可能性はあります。記録装置の起動によって、微弱な魔力信号が外へ漏れた可能性も否定できません」


 私は操作台を見た。今も青白い光が脈打っている。認証札を読み込ませたことで、装置が一時的に再起動したのだ。もし、その信号を王国側の観測装置が拾っていたら、ここに誰かがいることを察知されるかもしれない。


「記録を保存して、装置を停止しよう。これ以上、長居するのは危険だ」


 ミレアがすぐに操作を進める。閲覧できた記録の要点を保存すると、認証札を窪みから外した。装置の光が徐々に弱まり、やがて記録室は元の静けさを取り戻した。


 私は札を収納し、最後にもう一度、壁に残る古代文字を見つめた。


 旧協定の存在は確かだった。人間と魔物は、かつてこの場所で取引を行い、互いの利益を守るための仕組みを作っていた。そして魔力循環の異常が起きたあと、原因が判明する前に交易路は封鎖された。


 けれど、最も重要な記録はまだ開けていない。異常の原因を記した調査報告も、封鎖命令の詳細も、王都へ移された記録の行方も分からないままだ。


「次は、王都へ移された記録を探す必要があるのかな」


「その可能性は高いです。ただし、王都へ直接侵入するのは現実的ではありません。まずは、現在の王国軍がどの古代施設を調べているのか、そして何を探しているのかを把握するべきです」


「そうだね。向こうが何を知っているのか分からないまま動くのは危険だ」


 私は仲間たちとともに、交易拠点を後にした。


 帰り道では、クロウとルゥが周囲を警戒し続けた。途中で新たな敵の姿は確認できなかったものの、先ほどの魔力反応が何だったのかは分からない。王国軍が動き始めている以上、私たちが調査を進めるほど、敵と接触する可能性も高まっていく。


 洞窟へ戻ると、ルナが出迎えてくれた。シエルもその隣に寄り添っている。


「何か分かった?」


 ルナの問いに、私は頷いた。


「昔、人間と魔物が協力していたことは、さらに確かになった。でも、交易路が封鎖された原因はまだ分からない。調査が終わる前に、王都の命令で封鎖されたみたい」


「なら、王国は本当の原因を知っているのかもしれないな」


「そう。でも、知っていて隠しているのか、王国側も全部は知らないのか、それもまだ分からない」


 ルナはしばらく考えたあと、静かに答えた。


「どちらにしても、今のクロノアを守ることが先だ。過去の真実を知ることは大切だが、それに頼りすぎてはいけない」


「うん。私もそう思う」


 私は会議室の地図へ向かった。王国軍の侵攻準備は続いている。古代の記録を調べることも重要だが、防衛をおろそかにするわけにはいかない。


 認証札によって、閉ざされていた記録の一部を読むことはできた。しかし、核心に近づくには、まだ足りないものがある。王都へ移された記録、管理者本人の認証、そして魔力循環の異常を詳しく調べた報告書。そのどれかを手に入れなければ、真相には届かないだろう。


「ミレア、今回の記録を整理して、王国軍の動きと照らし合わせておいて。セラは魔力循環の異常について、今のダンジョンで似た現象が起きていないか確認してほしい」


「承知しました」


「私はルナたちと防衛計画を見直す。敵が来たら、調査はいったん中断してでも迎え撃つよ」


 そう告げると、私は仲間たちを見渡した。


 過去の協定は、今の王国に私たちを認めさせるための切り札になるとは限らない。それでも、敵が何を求め、何を恐れているのかを知るための手がかりにはなるはずだ。


 クロノアを守るために必要なのは、ただ強くなることだけではない。相手が何を考え、どこを狙い、何を隠しているのかを知ることも必要なのだ。


 私は認証札を収納した袋を確かめた。


 小さな木製の札が、王国の歴史に隠された真実へつながっている。そう考えると、ポヨンが偶然引き出しから見つけたものが、今まで以上に大きな意味を持つように思えた。


 もちろん、ポヨン自身はそんなことを気にしていない。


「ぽよっ!」


 足元で元気よく跳ねる姿に、私は思わず笑った。


「うん。次に何を見つけるかは分からないけど、今度はもう少し安全なものだといいね」


 ポヨンは返事の代わりに、もう一度だけ跳ねた。


 その先で、壁に立てかけてあった古い木箱が、ゆっくりと傾き始めた。


「……ポヨン、待って。今は何も起こさなくていいからね!」


 私は慌てて木箱を押さえた。


 幸い、今回は何も起きなかった。


 ただ、王国との戦いが近づいていることだけは、確実だった。

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