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『運だけで生き抜くダンジョンマスター』 ~召喚も配合も全部ラッキーでした~  作者: もかどら


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第114話 迫り来る大軍と、クロノアの防衛計画

 山道の魔導兵器を破壊して帰還した翌朝、クロノアは慌ただしさに包まれていた。回収した作戦書によって、王国軍がさらに大規模な侵攻を計画していることが判明したからだ。今回の兵器は本隊の進軍を助けるための前準備にすぎない。敵は魔力循環を乱し、クロノアの防衛力を低下させてから、数で押し潰すつもりなのだろう。


「つまり、次は昨日みたいな小規模な部隊じゃないってことだね」


 会議室で作戦書を読み直しながら、私はミレアに確認した。


「はい。作戦書には具体的な兵数までは記載されていませんが、物資の輸送量と魔導兵器の運用計画から考えると、数百人規模の部隊が動く可能性があります」


「数百人か……。正面からぶつかったら、さすがに大変だね」


「だからこそ、相手が到着する前に準備を整える必要があります」


 私は地図を広げた。洞窟の入口、採掘場、水場、魔力貯蔵核へ続く通路。そして、古代遺跡へ通じる道。守るべき場所は増えているが、戦力が無限にあるわけではない。全員を一か所に集めれば、別の場所が手薄になる。逆に分散しすぎれば、敵の主力が押し寄せたときに各個撃破される危険がある。


「まず、弱い魔物たちの避難場所を確保しよう。戦える魔物だけを守っても意味がないからね」


 私の言葉に、ルナが頷いた。


「うん。クロノアに暮らす者は、強さに関係なく守る。戦えない者まで前線に出す必要はない」


 ルナは王位継承者として認められてから、少しずつ変わってきた。以前は不思議そうに眺めているだけだった魔物たちの暮らしにも、自分から目を向けるようになっている。王になるということは、強い敵を倒すことだけではない。守るべき者たちの生活を維持することも、その役目なのだ。


「トウガ、避難場所を作るならどこがいい?」


「中央広間の奥にある空間が適しています。水場からも近く、採掘場へ向かう通路とは分かれています。ただし、入口を一つにすると敵に塞がれる危険があります。最低でも二つの退路を確保し、崩落しても全員が逃げられる構造にするべきです」


 トウガは地図に二本の線を引いた。細かな寸法や補強箇所まで、すでに頭の中で計算しているらしい。


「よし、その計画で進めよう。レグル、補強を手伝ってくれる?」


「任せてくれ。防壁だけでなく、天井の崩落対策もしておこう。避難場所そのものが危険になっては意味がない」


「ありがとう。チクタは物資の管理をお願い。食料と魔石を一か所に集めると、そこを狙われたときに困るから、いくつかに分けたい」


 チクタは地図を覗き込み、長い耳をぴんと立てた。


「賛成です。食料、薬草、魔石を全部同じ倉庫に置くなんて、襲ってくださいと言っているようなものです。小分けにして、運ぶ経路も分けましょう。それと、避難場所には水と簡単な道具を先に置いておきたいです。いざというときに、誰かが倉庫まで取りに戻るのは危険ですから」


「その通りだね。お願い」


「はい! もちろん、僕自身の避難経路も別に確保しておきます!」


「……それも忘れずにね」


 チクタは真剣な顔で何度も頷いた。臆病ではあるが、危険を避けるための準備に関しては誰よりも熱心だ。その性格は、今のクロノアにとって大きな強みになっている。


 一方、戦闘部隊の準備も進めなければならない。


「ガルド、バラン。二人は正面から敵の主力を受け止める役割になるかもしれない。だけど、敵の数が多いからといって、深追いはしないでね」


「分かってる。敵を倒すだけじゃなく、味方が動ける時間を稼ぐんだろ?」


 ガルドが意外にも落ち着いた声で答えた。


「そうだ。バランも、勝手に敵陣の奥へ突っ込まないこと」


「分かっている! ……いや、分かっているつもりだ。だが、目の前に強そうな奴がいたら、つい勝負したくなるんだよな」


「その気持ちは戦場では捨ててください」


 ネレウスが即座に言い放った。


「敵の指揮官があなたを誘い込むために、わざと姿を見せる可能性もあります。あなたが追いかければ、その瞬間に味方の陣形が崩れます」


「分かったと言っているだろう!」


「なら、実戦でも守れるようにしてください」


 バランは悔しそうに顔をしかめたが、反論はしなかった。ガルドも笑わず、真剣な目でバランを見ている。


「バラン。強い奴を倒すのは悪くない。だが、戦場で一番大事なのは、自分が何を倒したいかじゃない。何を守るために戦っているかだ」


「……ああ」


 バランは短く答えた。


 そのやり取りを見て、私は少し安心した。以前なら、二人とも勢いだけで突っ込んでいたかもしれない。今は少しずつ、戦い方そのものを学び始めている。


 セラとネレウスには、破壊した魔導兵器の分析を続けてもらうことにした。兵器の部品には、古代遺跡で見つかったものと似た魔力回路が使われていた。王国が古代技術をどこまで理解しているのかは分からないが、少なくとも過去の遺物を研究し、軍事利用しようとしているのは確かだった。


「気になるのは、この制御部品です」


 セラが回収した金属片を机に置いた。


「魔力を遮断するだけではなく、周囲の魔力の流れを記録している可能性があります。もし王国がこれを改良できれば、次の兵器は私たちの防衛設備に合わせて調整されるかもしれません」


「敵がこっちの弱点を調べてくるってこと?」


「はい。今回の兵器を破壊したことで、王国は別の手段を考えるでしょう。こちらも、同じ防衛方法だけに頼るわけにはいきません」


 ネレウスが羽を広げた。


「魔力だけに依存する防衛設備を減らし、物理的な障害物や複数の連絡手段を組み合わせるべきです。魔力を乱されても、すべてが停止する構造は避けなければなりません」


「トウガ、できそう?」


「時間をもらえれば可能です。魔力で動く設備と、手作業で動かせる設備を分けておきます。防壁の開閉も、魔力が途絶えた際に手動で操作できるようにしておきましょう」


「お願い。敵が何をしてきても、一つの仕組みが止まっただけで全部が駄目になるのは避けたい」


 準備の方針が決まるにつれ、会議室にいた仲間たちはそれぞれ動き始めた。誰か一人がすべてを背負うのではなく、得意な分野を持ち寄って国を守る。少し前まで、私が考えていたのは自分と仲間たちを強くすることだけだった。でも今は、それだけでは足りない。


 クロノアには暮らしがある。


 食料を運ぶゴブリンがいる。水場で暮らすスライムがいる。暗い場所を好む小型魔獣がいて、洞窟の隅で眠る弱い魔物たちもいる。彼らが安心して暮らせる場所を作ることも、ダンジョンマスターである私の仕事なのだ。


 夕方、避難場所の工事を確認しに行くと、ポヨンが作業現場の真ん中で不思議そうに揺れていた。


「ポヨン、どうしたの?」


「ぽよ?」


 ポヨンの前には、トウガが並べた補強用の石材が積まれている。ところが、その一角だけが妙にずれていた。作業員たちが直そうとしても、石材がうまく噛み合わないらしい。


「何か問題があるの?」


 トウガが困った顔で頷いた。


「石材の寸法は合っています。しかし、奥の壁に古い金属板が埋め込まれているようで、予定した位置まで石を入れられません。無理に動かすと壁を傷つける可能性があります」


「金属板?」


 私は壁を覗き込んだ。確かに、石の隙間に黒ずんだ金属が少しだけ見えている。けれど、どこまで続いているのかは分からない。


 そのとき、ポヨンが身体を揺らした。


 ぽよん。


 石材の端にぶつかる。


 石材がほんの少し動き、隙間から細い金属片が滑り出した。金属片は床を転がり、壁際に置いてあった工具箱の留め金に引っかかる。工具箱が傾き、中から小さな測定器が転がり出てきた。


 測定器は床を滑り、壁の金属板へぴたりと触れた。


 ピッ。


 淡い光が走った。


「……今の、何?」


 トウガが驚いて近づく。


 金属板の表面に、古代文字が浮かび上がっていた。


『避難区画――補助通路』


 ミレアが文字を読み取る。


「この壁の向こうに、別の通路があるようです。古代施設の一部かもしれません。現在の避難場所から、既存の通路へ抜けられる構造になっている可能性があります」


「じゃあ、退路をもう一つ増やせる?」


「確認が必要ですが、その可能性は高いです」


 トウガはすぐに周囲を調べ始めた。金属板を無理に壊すことなく、開閉できる仕組みが残っていないかを探っている。


「……ポヨン、また助けてくれたね」


「ぽよっ!」


 ポヨンは得意そうに身体を揺らした。


 ただし、今回の発見は単なる幸運な拾い物ではない。避難場所から別の通路へ抜けられるなら、敵に入口を塞がれたときの生存率が大きく変わる。弱い魔物たちを守るための、重要な発見だった。


 夜になる頃には、避難場所の補強と物資の分散が始まっていた。防衛設備の一部は魔力に依存しない方式へ変更され、各部隊の連絡手段も見直されている。まだ十分とは言えないが、昨日より確実に備えは進んでいた。


 私は洞窟の入口近くまで歩き、外の暗闇を見つめた。


 王国軍がいつ来るのかは分からない。数日後かもしれないし、明日かもしれない。こちらが兵器を破壊したことに気づけば、侵攻を早める可能性もある。


 それでも、待つだけでは終わらせない。


「ミレア。偵察の状況は?」


「クロウとルゥが引き続き山道を監視しています。現時点では大軍の接近は確認されていません。ただし、王国側の輸送路では人や荷車の動きが増えているようです」


「分かった。変化があったらすぐ知らせて」


「承知しました」


 私は洞窟の奥を振り返った。


 ここには、守りたいものが増えた。強い仲間たちだけではない。弱い魔物たちの暮らしも、少しずつ築いてきた国の仕組みも、全部が私たちの大切なものだ。


 王国がそれを奪おうとするなら、私たちは立ち向かう。


 次の戦いでは、敵の兵器を一つ壊すだけでは済まないだろう。クロノアそのものを守るための戦いになる。


 私は拳を握り、静かに息を吐いた。


「みんなで守ろう。私たちの国を」


 その声に応えるように、洞窟の奥から仲間たちの声が響いた。

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