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『運だけで生き抜くダンジョンマスター』 ~召喚も配合も全部ラッキーでした~  作者: もかどら


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第103話 四軍団の副団長候補と、王国の宣戦布告

 クロノアが国の名を掲げてから三日後、洞窟の中央広間では、いつもとは違う光景が広がっていた。広間の一角には採掘された魔石が整然と並び、別の場所では魔物たちが木材や鉱石を運んでいる。国としての暮らしは少しずつ整いつつあったが、ノアの表情は明るくなかった。原因は、入口の見張りを担当していたクロウが持ち帰った報告にあった。


「王国軍が動き始めた?」


 ノアが尋ねると、ミレアは頷いた。


「はい。クロウが確認したのは、王国側の街道を移動する複数の部隊です。前回の侵攻部隊と同規模か、それ以上の軍勢が編成されている可能性があります」


「この前、あれだけ負けたのに?」


「だからこそ、と考えられます。王国が今回の敗北を単なる軍事上の失敗として処理するとは限りません。魔物の国家が成立したこと自体を、自国の秩序に対する脅威と判断している可能性があります」


 ノアは眉を寄せた。人間側がクロノアを交渉相手として認める可能性も、わずかながら期待していた。しかし、王国の基本方針が魔物を敵とみなすものであるなら、国名を掲げたことは、むしろ討伐の理由を与えてしまったのかもしれない。


「エルドさんたちは、何か言ってた?」


「彼らは昨日、記録をまとめて人間側の町へ向かいました。ただし、王国がその報告を受け入れるかどうかは不明です」


「そっか……。せめて話を聞いてくれればいいんだけど」


 そのとき、広間の奥からルナがやってきた。小さな黒い身体の後ろには、ガルド、レグル、セラ、ポヨンが続いている。


「ノア。人間がまた攻めてくるの?」


「その可能性が高いみたい」


「なら、準備をしよう。前回みたいに、みんながそれぞれ勝手に戦うだけじゃ駄目だと思う」


 ルナの言葉に、ノアは顔を上げた。


「うん。私もそう思ってた。四軍団の役割は決まってきたけど、軍団長だけで全員を指揮するのは難しいよね」


「副団長を置くべきでしょう」


 ミレアが即座に答えた。


「軍団長が全体の作戦を決め、副団長が現場の指揮や各部隊の調整を担当する。そうすれば、戦場で想定外の事態が起きても対応しやすくなります」


「副団長か……」


 ノアは四軍団長を見回した。


「ただ強いだけじゃ駄目だよね。ガルドたちと違う得意分野を持っていて、部隊を任せられる相手じゃないと」


「当然だ!」


 ガルドが胸を張った。


「俺の副団長なら、敵陣へ突っ込めるくらいの度胸が必要だな!」


「それだけでは、指揮官として不十分です」


 レグルが落ち着いた声で指摘する。


「戦況を判断し、味方を無駄に失わない判断力も必要でしょう」


「お前のところは慎重すぎて、敵が昼寝を始めそうだな」


「あなたのところは、敵が逃げる前に味方が全員突撃していそうですが」


「なんだと?」


「事実を述べただけです」


「二人とも、そこまで!」


 ノアが慌てて止めると、セラが小さく息を吐いた。


「副団長を選ぶ前に、まず軍団長同士が意見をまとめてください。指揮系統を整えるための会議で、指揮官が口論していては意味がありません」


 ガルドとレグルは互いに顔を背けた。


「……セラの言うとおりだね」


 ノアは苦笑しながら、ミレアへ尋ねた。


「候補になりそうな魔物はいる?」


「現在の洞窟にいる魔物の中にも、特定の能力に優れた個体はいます。ただし、軍団全体を任せるには経験が不足しています。既存の魔物から適性を持つ個体を選ぶ方法と、召喚石を利用して新たな候補を迎える方法が考えられます」


 その言葉を聞いたノアの目が輝いた。


「召喚石!」


「はい。以前から保管している召喚石を確認し、必要な能力を持つ魔物を召喚するのがよいでしょう。召喚した個体をそのまま副団長にする必要はありません。適性を見極め、必要なら配合によって強化する方法もあります」


「それなら、軍団長たちと相性のいい副団長を探せるね」


 ノアは素材庫へ向かい、保管していた召喚石を持って戻ってきた。以前の配合で消費した素材や、すでに使い切った召喚石は残っていない。今あるのは、これまでの探索で確保し、まだ使わずに保管していたものだけだ。


 召喚石を並べながら、ノアは四軍団長に向き直った。


「今回は、ただ強い魔物を召喚するんじゃなくて、みんなの苦手な部分を補える仲間を探そう。ガルドなら突撃以外の判断ができる相手。レグルなら状況に応じて動ける相手。セラなら魔法を使うだけじゃなく、魔力を分析できる相手。ポヨンは……」


 ノアはポヨンを見た。


 ポヨンは大きな目をぱちぱちさせている。


「ポヨンの相手は、ポヨンの行動を見ても慌てない相手かな?」


「ぷる!」


「うん。そこが一番難しいかもしれないね」


 ミレアは召喚石の状態を確認した。


「ただし、召喚には魔力を消費します。また、召喚された魔物が必ずしも期待した性質を持つとは限りません。副団長候補の選定には、召喚後の観察も必要です」


「分かってる。まずは一体ずつ確認しよう」


 ノアが最初の召喚石へ魔力を流そうとした、その瞬間だった。


 洞窟の入口から、見張りの魔物が大きな鳴き声を上げた。


 クロウが素早く広間へ戻ってくる。黒い毛並みを逆立て、入口の方角を何度も振り返っていた。続いて、ルゥも駆け込んでくる。普段は落ち着いて周囲を調べる二体が、明らかに警戒していた。


「今度は何?」


 ノアが尋ねると、ミレアが魔力反応を確認した。


「人間側から、強い魔力信号が発せられています。以前の戦闘で使用された通信術式に似ていますが、今回は広範囲へ向けて発信されています」


「通信? 誰に向けて?」


「王国軍の各部隊へ向けた命令、あるいは布告と考えられます」


 ノアが入口へ向かうと、洞窟の外から低い音が響いた。空気が震え、遠くの山々にまで届きそうな魔力の波が広がっていく。ミレアが音声の一部を解析すると、やがて人間の男の声が聞こえてきた。


『王国軍より通達する。洞窟一帯を占拠した魔物勢力は、直ちに武装を解除し、王国の管理下へ入れ』


 ノアの表情が険しくなる。


『魔物が独自の国家を名乗ることは、王国の秩序と安全を脅かす行為である。要求に従わない場合、王国は討伐軍を派遣し、当該勢力を排除する』


 広間にいた魔物たちがざわめいた。


 さらに、声は続いた。


『これは最終通告である。期限までに降伏しない場合、王国は全面的な軍事行動を開始する』


 通信が途切れた。


 しばらくの間、誰も言葉を発しなかった。


「……やっぱり、話し合うつもりはないんだね」


 ノアが呟くと、ルナは静かに頷いた。


「人間たちは、私たちが国を作ること自体を認めたくないんだと思う」


「少なくとも、今の王国はそう考えているようです」


 ミレアが答えた。


「ただし、通達の内容から判断する限り、王国側はクロノアを単なる魔物の集落ではなく、組織的な勢力として認識し始めています」


「認めてくれたわけじゃないけど、無視はできなくなったってことか」


 ノアは複雑な気持ちになった。国を作ったことで、魔物たちが以前よりまとまったのは間違いない。しかし、それが人間側にとって脅威と受け取られるなら、戦争は避けにくくなる。


 ガルドが斧を肩に担ぎ直した。


「なら、答えは決まっている。攻めてくるなら、迎え撃つだけだ」


「無闇に戦うつもりはありません」


 レグルが続ける。


「しかし、降伏すればクロノアの自治は失われ、魔物たちの暮らしも脅かされる可能性が高い。防衛の準備は必要です」


 セラは召喚石へ視線を落とした。


「副団長の選定を急ぎましょう。次の戦いでは、軍団長だけでなく、各部隊を現場で動かす指揮官が必要です」


 ノアは深く頷いた。


「うん。戦争になるからこそ、ちゃんと準備しないと。私たちは、ただ強い魔物を集めればいいわけじゃない。みんなが生き残れるように、戦い方を考えないといけないんだ」


 ルナが前へ出た。


「ノア。召喚を始めて。私は、クロノアを守るために必要な仲間を迎えたい」


「分かった」


 ノアは最初の召喚石を手に取った。


 魔力を流すと、石の表面に赤い光が走り、中央に小さな亀裂が生まれた。石が砕けると、炎のような光が広間へ広がる。熱気が渦を巻き、やがてその中心に一体の魔物が姿を現した。


 全身を赤茶色の鱗に覆われた、二足歩行のトカゲ型魔物だった。背中には短い角が並び、太い尻尾が床を打っている。体格はガルドより一回り小さいが、脚と腰の筋肉が発達していた。現れた直後、その魔物は周囲を見回し、真っ先にガルドへ視線を向けた。


「ほう。お前が一番強いのか?」


 召喚されたばかりの魔物が、いきなり口を開いた。


 ノアは目を丸くした。


「えっ、しゃべった!」


 ミレアがすぐに鑑定する。


「種族は『紅牙戦竜』。高い突進力と近接戦闘能力を持ちます。知性も高く、召喚直後から人間の言語を使用できるようです」


 紅牙戦竜はガルドを見上げ、口元を吊り上げた。


「俺はバランだ。強い奴に従うのは嫌いじゃない。だが、弱い命令に従うつもりもない」


「言うじゃないか」


 ガルドも笑った。


「なら、どれだけやれるか見せてもらおう」


「いいぜ。お前が本当に強いならな!」


 バランはその場で身構えた。今にもガルドへ飛びかかりそうな勢いだったが、ノアが慌てて間に入った。


「ちょっと待って! ここで戦わないで!」


「なんだ、人間……いや、ダンジョンマスターか。俺を呼んだのはお前だろう?」


「そうだけど、召喚した直後に喧嘩を始めるとは思わないよ!」


「強さを確かめるのは大事だろう?」


「それはそうだけど、場所を選んで!」


 バランは不満そうに鼻を鳴らした。


「分かった。だが、いつかガルドとは勝負させてもらうぞ」


「望むところだ!」


「ガルドも乗らないで!」


 ノアの叫びが広間に響いた。


 緊張していた魔物たちの間から、思わず笑い声が漏れた。新たに現れたバランは、強い相手を見ればすぐに勝負を挑む、かなり扱いにくい性格らしい。だが、単なる乱暴者というわけでもなさそうだった。相手の強さを認めれば、素直に従う可能性もある。


「この子、攻撃軍の副団長候補にできるかな?」


 ノアが尋ねると、ミレアは少し考えた。


「戦闘能力は十分です。ただし、現時点では指揮能力が不明です。部隊を任せられるかどうかは、訓練で確認する必要があります」


「じゃあ、まずはガルドの下で訓練してみよう」


「俺が面倒を見るのか?」


 ガルドが嬉しそうに笑った。


「任せておけ。こいつを立派な副団長にしてやる!」


「俺は誰かの子分になるために来たんじゃないぞ!」


「なら、実力で俺を認めさせてみろ!」


「面白い!」


「だから、訓練は明日から!」


 ノアは二体の間に割って入った。副団長候補を一体迎えただけで、すでに広間は騒がしい。だが、こうした個性の違いが、軍団の新しい力になるのかもしれない。


 ノアは残りの召喚石を見つめた。まだ三軍団分の候補も必要だ。すべてがうまくいくとは限らないし、召喚した魔物が期待どおりの能力を持つ保証もない。それでも、戦争に備えるなら一歩ずつ進むしかなかった。


 ルナは新たに現れたバランを見て、静かに告げた。


「クロノアは、これから大きな戦いに向かうことになる。でも、強い者が弱い者を押さえつける国にはしない。みんなが自分の役割を持ち、仲間を守れる国にする」


 バランは一瞬だけ黙り、ルナを見つめた。


「……小さい王様だな」


「よく言われるよ」


「だが、言っていることは嫌いじゃない」


 バランは牙を見せて笑った。


「いいぜ。俺がどこまでやれるか、見せてやる」


 その言葉を聞き、ノアは小さく息を吐いた。


 副団長候補の選抜は始まったばかりだ。そして王国は、クロノアを討伐するための軍勢を集めている。次の戦いが、前回よりも厳しいものになることは間違いない。


 ノアは召喚石を一つずつ確認しながら、次に迎える仲間のことを考えた。今度はどんな個性の魔物が現れるのか。頼れる参謀か、気難しい職人肌か、それともポヨンに負けないほど予測不能な存在か。


「……お願いだから、せめて話を聞いてくれる子が来てね」


 ノアの願いに応えるように、手元の召喚石が淡く光った。


 その光が何を呼び寄せるのか、まだ誰にも分からない。

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