第9話 血
扉が勢いよく開く。
「ご主人様、侵入者が・・・!」
「なにか騒がしいと思ったら、ふむ、抹消部隊を呼べ。処理させろ。」
抹消部隊。それはジンキ子飼いの施設部隊。彼自身だけでなく、政治家や大企業の社長など、権力者の問題を抹消するために動く部隊。
どの国にも、どの街ににも、どの時代にも、絶対に無くなることは無い、問題のもみ消しという需要。
非合法の破壊工作。追及する人間は、警察署長の立場を利用し、逮捕し投獄するなり抹消するなり、自由自在。
ジンキがこの街でバカでかい屋敷を所持していられるのは、そういった闇の仕事の膨大な収入源があったからだ。
警察署長の立場、裏の仕事をしている以上、人から恨まれることは当たり前なので、侵入者と言われて、心当たりがありすぎて、
全くだれかわからない。いちいち確認するのも意味が無い。抹消するのが一番早い。
「まったく、無粋な。」
そう言うと、ジンキは自分の胸に刺さったナイフを抜く。
ジワリと血が滲み出るが、吹き出たりはしない。傷口は浅い。ジンキの胸の筋肉が厚い故に致命傷ではなかったのだ。
ジンキが視線を落とす先には、テーブルの上に、女が倒れていた。女の胸にはナイフが刺さっていた。
「惜しかったね。後一センチ深く刺していれば私は死んでいただろうね。女の力では肋骨を超えるのは難しいだろうが。」
ジンキはソファーに腰を下ろす。
女の胸からは、ドクドクと血があふれ出している。心臓の鼓動に合わせて、流れ出た血が、体を伝い、テーブルを伝い、床に滴り落ちる。
「その出血だと、後1分だろうね。その前に失血性ショックで意識を失う。血液の20%、900mlを失うと・・・まぁいい。
君が生の最後に思うことは何だい?刺した場所は、肺を避けているから話すことは出来るはずだ。」
警察署長ジンキは、目を輝かせながら、ワクワクして女の言葉を待つ。
「だれが・・・言うか・・・」
「それも真実の一つだね。」
女は動かなくなった。
血が噴き出す脈動も止まった。
「ふむ・・・まぁ、いいだろう。ああ、今日は楽しかった。この子は本当に良い子だった。この体も高く売れるだろう。
金持ちには、こういう性癖のヤツも多いからな。」
ジンキが女の死体を見ながら、ゆっくりと冷めたコーヒーを飲む。
美しい。とジンキは思った。なぜ女はこんなにも美しいのだろう。と思った。
ふう。と一息ついた瞬間、
背後にある扉が、爆破されたように吹っ飛んだ。
扉は窓ガラスを突き抜け外に落ちる。
風が強く吹き込む。
ジンキが強く振り向くと、そこには男が居た。
執事が言っていた侵入者だろう。全く何をしているんだ。
その男は、オレンジ色のスーツ、青い髪。青い目。そして、手には何も持っていなかった。
どうやってあの扉を破壊したんだ。どこかに爆弾を持っているのか?手榴弾?
とジンキは警戒し、後ろに下がり、腰のホルスターから銃を取り出す。
しかし、男はジンキを見ることなく、女の死体に近づいた。
男は、何の表情も崩さず、ただ、見ていた。
何も動かない。この女の知人か?しかし、もし親類、友人、恋人なら、普通、激昂するはずだ。
だがこいつは何もない。本当に、朝、電車を待つサラリーマンのような、感情の無さ。
しかし、リリスは無感情ではなかった。
リリスの感情は、強い力となって、空気に伝わり、部屋のガラス、陶器、壁紙、家具、照明に伝わり、ひびが入り、火も無いのに焦げていく。
リリスは、怒っていた。




