第8話 歩くリリス
リリスが屋敷についたのは、日が暮れてからしばらく経った後だった。
巨大な門の前に立つ。それを、軽く、こつんと、足で触れる。全く速度は無い。
触れた瞬間、鋼鉄の、100キロはありそうな門が、トラックに正面衝突されたかのような勢いで吹っ飛んだ。
リリスは、何もなかったように、てくてくと、歩いていく。
門と館の間には噴水がある。リリスが噴水の前にたどり着くと、足でちょんと噴水の台座に触れる。
その瞬間、噴水が爆発したように砕け飛ぶ。
水が噴き出し、ちぎれた水道管から、辺りに水をまき散らすが、リリスに当たっても、リリスのスーツは濡れることは無い。
そのまま、てくてくと歩いていく。
館から執事が飛び出してくる。明らかに異様な光景。男が一人、こちらに向かって歩いてくる。後ろには、砕けた噴水と、砕けた門。
執事は館に戻り、主人である警察署長に報告に行く。
リリスは気にすることも無く、扉の前に立ち、また同じように、足で小突いて、爆破する。
長い廊下を、樫の木の重い扉が、四度五度と跳ね返り落ちる。
広い館の中。リリスは、左側に人影を見たので、左へ進む。
淡々と、ゆっくりと。
歩く途中途中に、扉がある。その扉を一枚一枚、丁寧に、破壊していく。
そのたびに、爆弾が爆発したような、爆音が館に響き渡る。
リリスが追っていた影は、館で働くメイドだった。
メイドは怯え切って床にへたり込み泣いてリリスを見ている。
リリスは何の表情も変えずに、メイドの前に立ち、質問を投げた。
「ここに、今日、女が一人、来ているはずだ。知らないか?」
メイドは全身を震わせ、リリスを見つめ、声までも震わせながら答える。
「はい・・・お客様が一人・・・応接間・・・こちらとは逆の部屋・・・二階・・・」
メイドは過呼吸になり、顔が真っ青になっている。激しい呼吸。流れ出る汗。
それを見ても、リリスは何の興味も持たず、すぐに振り返り、去って行く。
リリスは館玄関入り口にあった階段を目指すことにした。
それを見て、メイドは近くにあったガラスの窓から、逃げ出した。
もう何も考えていない。逃げなければ。ただそれだけがメイドの思考だった。




