第10話 悪魔対抹消部隊
ジンキは窓ガラスをぶち割り外に飛び出す。ここは二階。下の芝生に落下する。
ジンキには才能があった。正常化バイアス。地震が来ても、大丈夫だろう。煙が見えても、火事じゃないだろう。という、
日常は日常のまま続くだろう。という本能的な心理的機構。
故に、人は逃げ遅れ、対応が遅れ、死ぬ。しかし、いちいち大げさに反応しても、日常を送ることに支障をきたす。
ジンキは、危険を察知してから、行動に移すまでが異常に早かった。それが今日まで、表の世界と裏の世界で生き延びてきた理由だ。
警察署長のあらゆる人間を見た。善良な人間、邪悪な人間、病気の人間。何人も逮捕し、殺し、人間と深くかかわってきた。
その経験から、リリスを見た瞬間。こいつは人間じゃない。と確信した。
なにかはわからない。おぞましい、何かが人間の形をしている。と直感した。
逃げなければ。二階から落ちたジンキは、体中を地面にぶつけ、激しい痛みに襲われる。骨も折れたかもしれない。
しかし、そうなると分かったうえであの男から逃げなければ、と判断したのだ。
ジンキが窓から落ちるのを、ちょうど到着した抹消部隊が発見する。
ジンキは痛みをこらえ、門の方へ走る。
「お前ら、一番デカい武器は何を持ってきた。」
抹消部隊は非公式の部隊。構成される人員も、軍人崩れの犯罪者が多く、非常にガラが悪い。
装備はこの国の軍隊のモノを流用している。防弾チョッキ、マシンガン、ブーツ。いわゆるオーソドックスな軍人スタイル。
その隊長が、警察署長が走ってくるのを見て、素早く迎え出る。
「荷台にRH40(心の救済)がありますよ。自動装填式グレネードランチャーです。現在流通している40mm弾薬ならすべて使用できます。
低速と中速を切り分けることができ120m毎秒のMV弾では平坦な弾道で有効射程は最大900m。マガジン式で弾は3発入ります。」
「説明はいい、今すぐあの二階にありったけをぶち込め。」
「あなたの屋敷に?」
「私の屋敷だ。構わん。」
隊長の命令が発せられ、4人の部下がテキパキと兵器を用意する。
二階に向けて発射しようとしたとき、リリスが二階から飛び降りてくる。
子供がちょっとした段差を飛び越える程度の感じで、地面に落ちても、何の反動も無いようだった。
「アレだ。アレを撃て。」
「了解。」
抹消部隊の内、二人がグレネードランチャーを発射する。
距離は70M。門より前から、館までの距離。
発射音のコホッという音が響く。
二発の弾はリリスに直撃。
ズオオンという鈍い爆発音が響く。爆発音は館の壁に反射し、妙に響いて間延びして聞こえる。
爆風で館の窓ガラスは全て割れ、白い爆発煙が広がる。そしてパラパラと爆発で飛び上がった土や瓦礫が雨のように降り注ぐ。
煙が風で流されるまで、1分。固唾をのんで見守るジンキ、抹消部隊の五人。
「なんだ・・・あれは・・・」
抹消部隊の一人が言葉を漏らす。
それを見た瞬間、ジンキは走り出す。何のためらいも無く。
リリスは傷一つついていない。てくてくと歩いていく。門に向かって。
抹消部隊が、アサルトライフルでリリスを撃つ。乾いた発射音が響く。
タタタタタタッタタタタタタッ
だが、着弾音がしない。リリスに触れた瞬間。弾はその場に落下する。
芝生の上に落ちる音。ぽすっ。という音だけだ。
こんな相手は経験が無い。銃が聞かない。グレネードランチャーも無傷。まっすぐ向かってくる。
どんなに撃とうが、何の影響も与えられない。
遂に、目の前にその男が来た。
まるで現実感が無い。
抹消部隊はライフルを構えたまま、固まっている。その背中には、とてつもない冷や汗を流しながら。
男が口を開く。
「あの男はどこへ行った。」
ボス、警察署長ジンキのことだろう。
隊長が答える。
「わからない。逃げたのかも。」
本来、ボスを売るということは、自分が消されることを意味する。
しかし、今ここで、この男に逆らえる事ができるわけがない。
こいつは人間じゃない。人間じゃないなら、なんなんだ?わからない。わからないが、俺は俺たちはこいつには勝てない。
それだけが圧倒的な現実として今ここにある。
「ふうん。」
リリスは抹消部隊には何の興味も無く、辺りを見回す。
その時、地面が揺れた。
「なんだ・・・?」
抹消部隊の面々があたふたする中、何も動かないリリス。
地面が揺れ、地面が割れた。噴水を中心に、地面が、ゆっくりと避けていく。
機械仕掛けの建築構造。中からは、巨大な機械の塊がせりあがってきた。
抹消部隊の隊長が叫ぶ。
「まさか・・・あれは・・・」




