第6話 インタビュー。
「君を招待したい。」
と言われた。
オーディションの主催者。舞台のスポンサー。
合格発表の後、知らないおじさんが私にこう言った。
見るからに高いスーツ、高い靴、高そうな時計。
今日はあの人との約束があるから、断ろうかとも思った。けど、芸能の世界は、こういうお偉いさんの機嫌を取っとかないと、仕事がもらえない。
私は迷った。迷ったけど、選択肢はなかった。
全く売れてないダンサーの私がこの世界で生き残るためには行くしかない。
なるべく早く切り上げて帰ろう。そうしよう。と思った。
でも、もう夕方。高そうな車に乗せられて、隣の街まで来てしまった。
着いたのはすっごいお屋敷。噴水がある。もうお城と言ってもいい。いやお城は言い過ぎだ。
バカでかい玄関扉を通り、バカでかい廊下を歩き、バカでかい応接間に案内された。
専属の運転手、本物の執事。本当にこういう世界があるんだ、と、少しワクワクもしている。
応接間に案内された。革張りのソファー。革が分厚すぎて逆に座り心地が悪い。気持ち悪い。不愉快。
紅茶を用意された。細かい細工の入ったカップ。金のスプーン。何もかもが違う世界。
憧れる。憧れるけど、何か嫌な感じがする。まるで、金持ちであることを演じてるような、妙な気持ち悪さ。
結構待つ、20分ぐらい経ったんじゃないかな。もう帰ろうかな。うーん。
帰ろう。そう思い、立ち上がろうとすると、ノックする音。執事がドアを開ける。
あのおじさん。主催者が入ってくる。
「こんにちわ。私はこの街の警察署長をしている、ジンキです。我が館にお越しいただきありがとうございます。」
「は、はぁ・・・」
大げさだ。不愉快な大げさ。
「私は君のような、輝く人間の話が聞きたくてね。これはそのお礼だよ。」
そう言うと、私のソファーの対面に座り、箱を取り出した。
「開けてみたまえ。」
言われたとおりに開けると、中にはナイフが入っていた。高級そうな、過度に装飾がされたナイフ。
「あの・・・こんな高価なもの、いただけません。」
知らない人から過剰に高いモノを送られても、困る。私はこの人のことを何も知らないのだから。関係が無いのだから。
いや、警察署長ってことはこの街の隣の町も管轄で、関係なくはないけど?とは思うけど。
「いや、それは必要なものだよ。もっていたまえ。」
「わかりました。ではいただきます。」
ナイフが必要?いやー、こんな装飾ゴテゴテナイフ、何に使うんだ。魚でも捌くか?
執事がコーヒーを運んでくる。私には紅茶のおかわりだ。
警察署長ジンキは一口、飲んだ後、カップを置き、話し出す。
「そう・・・インタビューだ。私は趣味でインタビューをしている。私は仕事の都合上、どうしてもウソつきばかりと話すことになる。」
警察が対応するのは犯罪者、一般市民。まぁ、ウソつきと言えばウソつきなのだろうか。
「だから、たまには、本当の話を聞かないと、耐えられないんだ。この仕事は。」
金持ちの道楽なのだろうか、しかし舞台のスポンサー。機嫌を損ねるわけにもいかないし、話すだけなら、と思った。
それからインタビューが続いた。
「なぜダンスの道を?」
「踊るのが好きだったから。孤児院で育って、娯楽が何にもない場所だった。そこに巡業に来た劇団の、踊りを見て、
なんだかよくわからないけど、とにかくすごい。ってずっと頭の中で繰り返し思い出して、それをマネして踊ってた。
踊ると、体中に血が巡って、生きてるエネルギーが満ちる感じがする。それがずっと好きでダンサーになって生きようって思った。」
他にもいろいろ聞かれた。将来どこかの劇団に所属するのか?とか、俳優になるのか?舞台俳優になるのか?とか、
警察署長ジンキの聞く姿勢は大まじめで、本当にこういうことが好きなんだなぁ。と思った。
それは当たっていた。
この男は、そういうことが好きだったのだ。




