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第4話 探しに行こう



リリスは棒を拾い、砂浜に模様を描く。簡単な渦巻きを二つくっつけたような形。


そこに近所のスーパーで買ってきたワインを一滴。


すると、その染みがじわりと広がり、渦巻き状に広がっていく。


その中心から、くるくると、これも渦巻き状に、形がせりあがってくる。


それは人の形になる。髪の毛はあずき色、くるくると巻いている。ピンク色のドレス。赤い宝石。


「リリス?何の用よ。こっちはヒマなのよ。」


「アスタロト。君に探してほしいものがある。」


「いくら出す?」


「聖ヴァーツラフの王冠にはめられていたルベライト。」


「それで?何を見る?」


「人間の女だ。」


「名前は?」


「…知らない」


「写真とか無いの?」


「無い。」


「私を呼んでまで探したいのに、名前も知らない写真も無い。って何よそれ。」


「探してくれ。」


呆れかえるアスタロト。


「あのねぇ、私は何でも見れるわ。この世のすべてを見れる。砂漠から砂粒一つを探す事だってできる。けどねぇ、


顔もわからない名前もわからないじゃ探しようがないわよ。」


「どうしても見つけたいんだ。」


「ダメ。無理。帰るわ。」


てをひらひらさせ、そのまま渦巻きとなって消えるアスタロト。


砂浜に一人残されるリリス。


少し考える。


今度は三角を描く。三角の中に〇。そこにコインを一枚。


木の枝で地面をたたくと、砂が盛り上がり、サラサラと中から人間が出てきた。


今度は男だ。男の姿。オレンジ色のマフラー、ダークブラウンのジャケット、ズボン。真っ赤な髪の毛。青い目。


その男は、目を合わせず、したを見ている。


「何のようだい?ボクは忙しいんだが。」


「人を探してほしい。名前はわからない。写真も無い。ただ、昨日、この場所にいた女だ。」


「足跡を辿れるところまでだけどね。対価は?」


「チャールズ2世5ギニー金貨三枚」


「いいよ。じゃあそれで。」


男の名はマモン。地面に落ちているモノを探して歩いている悪魔。


地面に落ちているモノを拾うことに至上の喜びを感じる悪魔。変人の悪魔版。変魔である。


その性質ゆえ、地面は彼の世界であり、地面で起きたことを認識することが出来る。


この場合、見えない足跡をたどる。それがマモンの力である。



静かな町を歩く。海岸から西に、夜中に男が二人、地面を見つめながら。


電灯に照らされ、真冬の町を。


歩く。歩く。歩く。町の中腹に入ったころ、マモンはアパートの前で止まる。


「ここに入ったね。」


「ここに彼女が住んでるのか。」


「さあね。恋人の住処かもしれない。」


マモンとしては、ちょっとからかっただけだが、リリスは表情を一切変えないまま、顔をこちらに向けることもせず、


恐ろしいほどの殺気を放つ。あまりの圧に窓ガラスにひびが入る。


それに気づかないふりをして、マモンは地面を注意深く見つめる。藪蛇だったな、と反省しながら。


「このアパートから、出ている足跡がある。それを追ってみよう。」


夜の町は、本当に静かだった。店は閉まってる。子供も老人もいない。人間の痕跡は、家の窓から漏れ出る明かりでしか確認できない。


田舎の港町なんてこんなものだろう。


「足跡が消えた。」


マモンは立ち止まり、リリスに報告する。


「ここは・・・」


リリスとマモンが止まったのは、バス停だった。


「つまり、バスに乗った。だから足跡が見えない。ってことか。」


リリスはバス停の時刻表を見ながら言った。


「そうだね。ボクにはこれ以上はわからない。」


他人事のように淡々と返事をするアモン。


「いや、この町のバス停はそこまで多くない。」


「全部探せと?」


「そうだ。」


リリスは声を荒げることも無く、淡々と話す。だが、物腰柔らかで大人しそうな立ち振る舞いからは考えられないほどの意思の強さ、


面倒なヤツに巻き込まれた。とマモンは思った。


アパート近くのバス停から、しらみつぶしに、次のバス停、次の次のバス停、と歩いて足跡を探す。


足跡を探す、と言っても、様々な人間の痕跡がある中で、一つの足跡を探すのは容易ではない。


時間がたてば痕跡は薄れていく。


となると、今日、午後、と絞り込めば、だいぶ絞りこめはする。都会のように足跡で埋め尽くされるわけじゃない。


探せはするが・・・マモンは内心、本当に面倒だと思いながら、地面を見ながら歩く。


4つの目バス停を探しても無い。そろそろ諦めたらと、思い振り向いてリリスを見ると、相変わらずの無表情。そして見つかるまで探せという


無言の圧力。


そこからまた一時間ほど歩いて、12個目のバス停。もうほとんど町はずれ。山と牧草地と、町の境目みたいな場所まできた。


ここに無かったら隣町まで歩かされるな。と思っていたが、あった。


「おい、見つけたぞ。ここだ。」


リリスがほんの少し大きく目を開く。


「ご苦労、これが報酬の金貨だ。」


リリスがスーツのジャケットから物理法則を無視して、金貨を取り出して渡そうとする。


しかしアモンは受け取らない。


「どうした。報酬だ。」


「地面に捨てろ。」とマモンは答える。


リリスは言われるまま金貨三枚を地面に投げる。


それをアモンは拾う。


拾った後、リリスを振り向くことなく、アスファルトの地面が砂と化し、そこに沈んで消えていった。


「なんなんだ。」


リリスはマモンのこだわりに呆れながらひとりごちた。




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