第16話 自己紹介
唖然とするガブリエル。何が起きたかわからない女。本人もびっくりしているリリス。
沈黙が続く。それを破ったのは、空からの光。
真夜中の真っ暗な空が、青空になるほどの輝き。三本の光の柱。
それがリリスの目の前に降りてくる。
「何しに来た。」
ガブリエルが不機嫌そうに言葉を投げる。
「そいつは許された。」
緑のロングスーツの男が答える。
「自己犠牲か。」
ガブリエルがその答えで理解する。
「説明して!わからないわ!!」
女が叫ぶ。
当然だ。
緑のロングスーツの男が振り向いて答える。
「君が今回の中心だったな。すまなかった。私達は四大天使。私はミカエル。そこの黄色いのがラファエルで紫色のがウリエルだ。」
「黄色いので済ますな。」
ラファエルが不満をこぼす。
それを無視してミカエルは続ける。
「そこにいるのは元天使のリリス。神に反逆し、天界を追放されて悪魔になった。」
女はリリスの顔を勢いよく振り向いてみる。
こんな優しそうな、大人しそうな立ち振る舞いなのに?と思った。
「そのリリスが、自己犠牲をもって、君を救った。それは、尊い行為だ。故に、天界に戻ることを許され、私たちが迎えに来たのだ。」
ガブリエルが割って入る。
「まてまて、俺の契約はどうなる。」
ミカエルが答える。
「神の名のもとに失効だ。」
ガブリエルは口を開け、文句を言いたそうにするが、そういわれちゃ反論できない。まったく、という顔をして呆れかえっている。
大きな白い羽の生えたリリスが、女の横に立ち、こういった。
「なら僕は天界には行かない。この人と一緒にいる。」
「ダメだ。これはもう決まったことだ。」
ミカエルが厳しい口調で答える。命令には忠実な軍人のような性格が滲み出ている。
リリスは、表情の変化こそないが、すさまじい殺気を放ち、こう答えた。
「たとえ、今ここで、君たち四人を殺してでも、僕は、行かない。」
ラファエルが面白そうに笑いながら言う。
「こいつはこーいうやつだよ。天使の時も悪魔の時も。何も変わらねー。」
ウリエルは何もしゃべらない。興味が無いようだ。
「四大天使を一人でとは大きく出たな。」
ミカエルも殺気を放つ。ただの人間の女には耐えがたい寒気。普通なら失神してしまうだろう。
だが、それでも、女は一歩前に出て、リリスの腕をつかむ。
「ダメだよ。私もあなたと一緒に痛いけど、私も、貴方に生きていてほしい。」
女は何も知らない。しかし、この五人が戦えば、ただじゃすまないことはわかった。
リリスは一瞬停止し、目を閉じ。力を抜く。
「わかったよ。降参だ。僕の負けだ。」
両手を胸の前に上げ、あきらめのポーズをとる。
「そうか。」
ミカエルが答える。
気が付くとラファエルとミカエルはもうどこにも居ない。帰ったのだろう。
「行くぞ。」
ミカエルがリリスを催促する。
リリスはそれを聞き、答える。
「待ってくれ。最後に一つ。聞いておきたい事がある。」
ミカエルとガブリエルは、それくらいならいいだろうと、それを許すことにした。
リリスは女の正面を見て、こう聞いた。
「最後に、君の名前を教えてほしい。」
「はっ」
だれよりも早くミカエルがそれを聞いて笑った。
「君が笑うところを初めて見たよ。ミカエル。」
リリスがミカエルと出会ってから数千年。本当に初めて見たのだ。あの頭の固いミカエルが笑うところを。
「まさか、名も知らぬ少女を助けるために、自らの命を差し出す悪魔が居たとはな・・・」
ミカエルが感情を表に出す。これは本当にめったにない事だった。
ミカエルは後ろを振り向くが、まだ肩が動いている。まだ笑っている。
女がリリスの手を両手で握り、目を見て、優しく話しかける。
「私の名は・・・・・・・・・・・・よ」
その名前は、ミカエルとガブリエルには聞き取れなかった。
とても小さな声だったからか。それとも、愛する者にしか伝わらないのかも。そうガブリエルは思った。
はっ、俺もロマンチストになってしまった。と自分の考えのばかばかしさを、自分で笑った。
「僕の名はリリス」
「知ってるわ。」
「ありがとう。」
「さようなら。リリス。」
「さようなら。」
悪魔と天使が消えた。
人が人生で経験する不思議な体験、それの何回分だろう。一生どころか、百回生まれ変わってもこんなことは無いだろう。と女は思った。




