第15話 変化
ガブリエルは、銃を胸にしまう。
そして空中に浮いて、ゆっくりとリリスが抱きかかえる女の死体の元に行く。
地面と水平になったガブリエルは、胸の傷口に指を突っ込む。
ずぶり、と入った指を、そのまま横に動かすと、傷口も一緒に移動する。
指を体の外に出すと、その後の肌には、何の傷も残っていなかった。
「さて、では魂を呼び戻すか。」
ガブリエルは、地面に戻り、自分の右手を、左手の手刀で切り落とす。
真っ赤な血がドクドクと流れ出す。しかし、その血は地面には落ちない。全く逆。空に向かって落ちていく。切られた右手は地面に落ちている。
最初の血が空高く落ち、見えなくなったころ、ぽつぽつとm雨が降ってくる。赤い血の雨。
赤い血の雨は町中に広がっていく。街が赤く染まる。
リリスは、何の反応もせず、ただ立っている。死体を抱きかかえたまま。
ガブリエルが右腕を前に付きだすと、雨が一瞬で止まる。
「さて・・・どうかな?」
街に降り注いだ赤い血の雨が、光のような速さで、閃光となりガブリエルの右手の切断面に帰ってくる。
シャワーを逆再生したかのような、異常な光景。
ほんの数秒で街から赤は消えた。
そして、ガブリエルは右手を拾い、付け直す。
右手が動くことを確認した後、死体の胸に手をかざす。
すると、死体はひとりでに、何も触れていないのに、皮膚が裂け、脂肪が裂け、筋肉が裂け、骨が開き、肺が移動し、心臓が露出する。
ガブリエルの右手の掌に、穴が開き、そこから、血が一滴、雫となって落ちる。
リリスはそれを見つめている、。
雫が心臓に触れると、開いていた体はすぐに閉じ、傷も無い綺麗な表面に戻る。
今まで土褐色で、固まっていた冷たい肉の塊だったものに、血が巡る、体温を取り戻す。鼓動が聞こえる。
「・・・・っふぁはっ・・・」
女が目覚める。呼吸を取り戻す。
「???」
当たりを見渡す。リリスに抱きかかえられたまま。
機械の残骸。燃える街。破壊された館。破壊された噴水。破壊された門。
「・・・」
まだ言葉が出ない。
警察署長ジンキにナイフを突き立てた。その後、逆に自分が刺された。体から力が抜ける。血が無くなる。
会いたい。あの悪魔に会いたい。
それが最後の記憶だった。意識を失う。と思った。
その次の瞬間、目の前にはその悪魔が居た。
辺りを見回して、考える。なぜ?どうして?なにが?それらは一つの答えを出す。
「あなたが助けてくれたのね。」
私のためにやったんだ。全部。きっと。このひとは。
「助けたのはオレだよ。」
ガブリエルが不満をこぼす。
「すまない。間に合わなくて。すまない。もうお別れだ。」
リリスは、女に優しく微笑んで、悲しそうに言った。
「えっ・・・どうして?何が?どうなってるの?」
リリスにおろされ、自分の足で立つ女。
ガブリエルが間に割って入って説明する。
「お前を生き返らせる代わりに、こいつは命を差し出した。お嬢さん、これは契約だ。絶対に覆らない。」
ガブリエルがリリスの胸に人差し指を当てる。
女が何か言おうとするが、リリスは首を振り、それを止める。
「いいんだ。僕がやりたいことをやっただけなんだ。それだけなんだ。」
女の目からは涙があふれる。
「ダメだよそんな・・・」
女はガブリエルを止めようとする。が、ただの人間が、四大天使の圧力に対抗できる訳が無かった。
ガブリエルが一目見ると、女は金縛りにあったように、声も出せない。指一本動かせない。
「では、」
ガブリエルがリリスの胸に指を入れようとする。
「うっ・・・」
リリスはよろめき、膝から崩れ落ちる。
「おい、俺はまだ何もしてないぞ。」
ガブリエルは何が起きたかわからなかった。本当にまだ何もしていないのだ。
女の金縛りが解ける。
「どうしたの!?何をしたの!?」
ガブリエルに食って掛かる。
そうしていると、
うずくまったリリスの背中が、スーツの中が、もぞもぞ蠢く。
あまりの光景に、言葉を失うガブリエルと女。
バリッと布の裂ける音が響く。
白い何かがリリスの背中から湧き出た。
いや、これは。この形は。
「羽・・・?」
女は驚きながら見たままを言った。
羽だ。
大きな、とても大きな白い羽がリリスの背中から生えていた。




