第14話 天使と悪魔
館は半壊。残骸。残骸。破壊の後。 辺りの建物も燃えている。激しい煙の山がいくつもそびえたつ。
無傷のバケモノ。その体が、ドロドロと溶けていく、熱した金が解けるように、
溶けたモノは地面に吸い込まれるように消えていく。
後には、リリスが残った。
リリスは、館に向かう。
瓦礫を一つ一つ、手で排除していく。どんな大きなコンクリートの語りも、重力を無視して放り投げる。
瓦礫の中から、女の体を見つける。崩れた建物の中にあったが、傷はついていない。粉塵で白く粉っぽくなっているだけだ。
体を抱き上げる。流れ出た血液が、固まり、接着剤のように、床と体を固定していた。
それを引き上げると、バリバリと、ガラスの結晶のように固まった血液が剥がれ落ちる。
リリスは涙を流していた。何も言葉を発しない。表情も変えない。歩く速度も、動く体も、一切感情的にはならない。
だが大粒の涙をボロボロとこぼしていた。リリス自身にも、なぜ泣いているかわからない。
女の死体を外に運ぶと、四大天使の一人、ガブリエルが立っていた。
「俺は止めろ、と言ったはずだ。悪魔が人間を殺すことは許されていない。お前は協定を破った。」
その声に、元同僚の情は無かった。業務を遂行する。仕事。そういった冷酷な声だった。
ガブリエルはスーツの内ポケットから銃を取り出す。女の掌に収まるような、小さな銃。弾は二発しか入っていない銀のデリンジャー。
それをリリスに向ける。
「この女を生き返らせてくれ。」
とリリスはガブリエルに言った。
ガブリエルは、呆れかえる。
「立場わかっているのか?」
「僕の命をやろう。」
リリスの言葉に、眉を顰めるガブリエル。
コイツは・・・いや、こいつは確かにこういうやつだった。
天の川銀河邪神防衛天使軍最高位階大天使元帥リリス、それがある事件で天使を辞めた。それが確か人間の女が原因だったはず・・・
最高階位の堕天使の命を手に入れる。それは地獄の勢力の大幅な戦力削減になる。
対価が人間の女一人。見たところ、死んだばかりだから、生き返らせることはたやすい。魂がまだ揮発しきってないからだ。
しかし、これは、子犬を助けてくれたら国を一つ丸々渡すような、あまりにも不均等な交渉。
ふむ・・・
ガブリエルは考える。銃を向けながら。
「一つ。聞こう。お前は今、正気か?」
・・・リリスは沈黙している。
考えている。
思考している。
抱きかかえている女の死体を見る。
リリスは答える。
「・・・わからない」
ガブリエルは、リリスの目を見て、答えた。
「いいだろう。生き返らせてやろう。」




