第13話 真実の真実
「内的空間支配だ。」
突然声がした。いや、突然目の前に男が現れた。いや男か?
肌は白く、黒い長髪。暗い青色のスーツ。そして恐ろしいほどの赤い目。
それが、この狭いコクピットに、突然現れた。
上下さかさまに、体を折り曲げ、顔は私の鼻に触れそうなほど近い。まつげまで見える。気持ち悪いので私は顔をのけぞる。
私の頭の上に腹を乗せているが、重さは感じない。どうなっているんだ。
「なんだお前は。」
また物理法則を無視した人間が現れた。どうなってる。本当にどうなっているんだ。
「私の名はガブリエル。四大天使の一人。いや、天使を一人と数えるのかは知らんが、彼はリリス。悪魔だ。」
たしかに、そう考えればすべて説明できる。もはや疑ってる時間は無い。今は受け入れておこう、とジンキは思った。
「内的空間支配とはなんだ。」
「我々の体の内側は我々の世界。すべてを支配できる。地上界の物理法則もな。故に、外的な影響は一切受けない。
どんなエネルギーも触れた瞬間0にできる。」
ジンキはそれを聞いて、なら、と思った。
なら、もう絶対に勝てないではないか、と。
どうすれば、と四大天使ガブリエルと名乗る男に聞こうと思ったが、すでに消えていた。
モニタにはそのガブリエルが外で空中に浮いてリリスと呼ばれるバケモノの顔の前に停止している。
収音装置をオンにして会話を聞く。
「元同僚として忠告しに来た。やめろ。人間を殺すことは許されない。」
「・・・」
リリスは答えない。
ガブリエルは、だろうな。と、こうなるだろうな、と。諦めたように目を伏せ、消えた。
怪物となったリリスが動き出す。
ジンキは、ありったけの武器を打ち込む。機械巨人の体に設置されたガトリング、ミサイル、カノン砲を。
これらは、巨大人型兵器が何処まで既製品の兵器を使用できるかのテストとして設置されたものだ。
威力自体は既存のもとなんら変わりはない。
目標物15mの物体ならば、戦車だろうが戦艦だろうが粉々になるだろう。
だが、その破壊的運動エネルギーの雨の中を、リリスは何の影響も無く歩き出す。
それはとても恐ろしい光景だった。目の前に死が迫ってくる。
何をしても止まることは無い。
トラックが突っ込んでくるのを子供が小石を投げて止めようとしている光景がジンキの頭に浮かぶ。
怪物リリスが持っている赤い棒の先に四角い刃物が付いた、鎌のようなものを振り上げ、そして振り下ろす。
それは、全く届いていない。空振り。
それがジンキには恐ろしかった。これまでさんざん物理法則を無視した超常的な現象を見てきた。
ならば、これにも何か意味が・・・と考えていると、デモンストレーション右手首から先が取れた。
いや切断された?手首を見ると、鋭利な断面図になっていた。水圧カッターで切ったような、金属の断面が真っ平で、ぴかぴか光っている。
無理だ。逃げなければ。そう思うのが遅かった。今まで生来の危険察知能力で生き延びてきたジンキも、相手が悪魔では、分が悪かった。
怪物リリスが、鎌を振る。オーケストラの指揮者のように、片手で、腕だけ動かし、上げる。下げる。左右に振る。
そのたびに、機体の末端部から切り離されていく。腕、肘、肩、足首、膝、足の付け根、機体の両手足は切断され、仰向けに倒れこむ。
リリスがゆっくりと、その胴体に足を乗せる。ジンキのいるコクピットに、こつん。と音が響く。
マイクからではない、機体そのものから響く音。
ジンキのモニタには何も映っていない。壊れて機能不全に陥って真っ暗になっている。
何も見えないコクピットに、ミシミシと音が響く。前から、後ろから。横から。下から。
機体のフレームそのものにものすごい圧力がかけられている。
すると、ミキ、ミキ、とゆっくりとコクピットが歪んでいく。
その歪みに、足が挟まれる。不味いと思っても、どうにもならない。
今度は壁が肩に迫る。次は頭だ。
全身が、壁によって圧迫され、骨が折れ、激痛が走る。
「ごげっ・・・」
鎖骨が折れ、骨が肉に突き刺さる。信じられないほどの激痛。
叫び声を上げようにも、肺が圧迫され、呼吸ができない。声が出ない。
ジンキの頭には、一つの考えが渦巻いていた。
自分は、死ぬとき、何を思う?今まで何人もの最後の言葉を聞いてきた。恨むもの、嘆くもの、拒絶するもの、助けを求めるもの、
私が死ぬとき、私は何を思わせるのか。
圧力で呼吸ができない。痛みしかない。痛みだけの世界。
頭蓋骨が、ギリギリと押し付けられる音が頭の中に響く。
何を思う!?私は何を考える!?人が死ぬときの真実とは!?
私が長年追い求めていた真実は・・・!
「し・・に・・・た・・・く・・・な・・・い・・・」
パキッ




