第12話 激突
リリスは巨大なバケモノの足に手で触れると、そのままずぶずぶと、沼に沈むように入っていく。
それをジンキはモニタで見る。もちろん驚くが、もうこいつは物理法則を無視する、とわかっているので、いちいち狼狽えない。
ジンキはスイッチを入れ、機体の脈動を上げる。高音と低音が同時に鳴り響く。
金色のバケモノは動く気配が無い。
デモンストレーションの足を動かし、そのまま、単に、蹴る。
全長30メートルの鋼鉄の巨人が、蹴る。それだけで、大抵のものは粉砕する。戦車もだろーがコンクリートのビルだろうが。
長方形の角ばった、第二次世界大戦の戦車の様な足で、
昆虫のような、流線形の細身の体のバケモノを蹴る。
普通に考えれば、バキっと折れてしまいそうな質量差だが、とても奇妙なことが起きる。いや、起きなかった。
「!?」
物体というモノは、押せばその力と同じだけ押し返される。壁を手で押せば、その分だけ押し返される。だから動かない。
もし押す力の方が強いなら、物体は動く。形が変わる。これを仕事をする。という。
機械の足で蹴れば、音がする。衝撃が発生する。地面が変形する。自分の足が変形する。などの仕事が発生する。しかしそのどれでもない。
デモンストレーションで蹴った。当たった。しかし、
無音、衝撃が無い。地面も変化が無い。自分の足も何も変化が無い。
あり得ない。どうなっているんだ。
デモンストレーションは背中に背負ってた棒を取り出す。
「これを使えば稼働時間が一気に減るが、もはやこれしかない。」
その長い棒を、槍のように構え、金色のバケモノに向ける。
ジンキはコクピットの中で、せわしなくスイッチを上げ下げし、何かのメーターを上げていく。
遠く離れた場所。離れるために走り続けている抹消部隊の隊長が振り向く。
「あれは原始分解電撃機!!」
部下が問いかける。
「なんですかあれ。」
「超高電圧で触れた場所の原子結合を切断しすべての物体を崩壊させるとんでもない兵器だ。」
「でもあんなの見たことないですよ。」
「まずデカすぎる。あのサイズじゃないと機能しない。そして2秒しか持たず再使用不能。本体のエネルギーも使い果たす。
確かにどんなものでも破壊できるが、戦争でそんな状況に出会うことは全くないので、廃棄された兵器だ。」
「詳しいですね。」
「兵器開発チームにいたからな。コンペに負けたのが納得できなくて審査員の車を原始分解したせいでクビになってボスにやとわれた。」
「うあっ。」
部下が手で目を覆う。
遠くで途轍もない輝きが周囲を照らす。
まるでそこに隕石が落ちたかのような、激しい光。激しい雷鳴。
物理的にこれで破壊できない物体は存在しない。もしそんなものがあったら、物理法則を無視している。
ジンキはそう思った。そう思った瞬間、嫌な予感がした。
コイツは今までさんざん物理法則を無視している。
もし、これが通じなかったら、打つ手が、無い。
煙が晴れる。
無傷。
本当に、焦げ一つついていない。
どうなっている。それまで頼もしかったコクピットの中が、急に、棺桶に入っているような感覚に陥った。




