カタルシス
「見えるんでしょ。」
「色が。」
その言葉に、少し言葉が詰まった。
だが、すぐに答えた。
「ああ。」
「黒が。」
零はその言葉に絶望するようなわけでもなく、なぜか少し笑って言った。
「やっぱりそうなんだね。」
なぜ零が笑った顔でそんなことを言ったのか分からない。
零が話しかける。
「黒瀬さんもこんなに辛いことがあったのに、話してくれてありがとう。」
俺はすぐに違和感に気づいた。
黒瀬さん「も」?
その一文字だけが気になった。
「黒瀬さんってさ、優しいよね。」
「…違う。」
思わず否定した。
「でも、今さ、こうやってひったくり追いかけて、人を助けたじゃん。」
「最初は助けようとしたんでしょ?」
「…最初は、な。」
「俺は、もう誰も助けない。誰も信用しない。」
零は、こりゃダメだと思ったのか、少し首を傾げた。
すると、
「じゃあ、」
「黒瀬さんに魔法をかけます!」
意味が分からない。
どうしてその文脈からその言葉が出てくるか、魔法をかけるとは何なのか。
零は続ける。
「3、2、1!」
「黒瀬さんは、人を信用できるようになりました!」
終始意味が分からなかった。
でも、俺の心のどこかにあった何かが何かが、一瞬だけ、ほんの一瞬、軽くなったような気がした。
「あ、ここで別れるね。」
零はそう言った。
「じゃあな。」
ここで、俺たちは別方面へ別れた。
俺はまだ気づかなかった。
零の頭の上の黒の奥が、ドス黒くなっていることに。




