表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/6

躊躇いの終止符

昨日、少しだけ思った。

もしかしたら、俺でも何か変えられるかもしれない。

そんなはず、ないのに。


朝、教室に入る。

何気なく視線を上げた、その瞬間。

やっぱり、零の上には、黒。

そんな事実は、俺の考えもお構い無しに変わらなかった。

いや、なんなら少しだけ濃くなっているような気もした。

(……なんでだよ)

昨日、笑って言ってたじゃんかよ。

「魔法」とかくだらないこと言って。

というか、なんで俺、誰にも善意を向けないって自分で誓ったくせに、あいつのこと気にしてんだよ…。

零が俺の視線に気づくと近づいてきた。


「おはよう。黒瀬さん」


「あ、もしかして、色、濃くなってる?」


またその笑顔だ。


「……で」


「ん?」


「……なんで、そんな笑顔でいられんだよ」


思ってたことをぶちまけた。

零は表情を変えないまま言った。


「あのね」


「私、別に死にたいわけじゃないんだ。ただ、生きる理由が見つからないの」


生きる理由が見つからない?

いや、何か少し分かる気がする。

でも、自殺を考えてる奴に同情なんてしてはいけないと、俺はすぐに考えを改めた。


「おい。一時間目始まるぞ」


「そうだね」


俺たちは席に戻った。


一時間目が終わった後、零はまた話しかけに来た。


「昨日、面白かったね」


「ひったくり追いかけてさ、ちょっとドラマみたいだった」


そう言って、零は笑う。


「……さっきも言ったけどさ、なんでお前普通でいられんだよ」


一瞬、空気が止まる。

でも零は、すぐにいつもの調子で首を傾げた。


「普通って?」


「……」


言葉が詰まる。

何て言えばいい。

これ以上、頭上の黒について言及したくなかった。

すると零は、少しだけ視線を逸らして言った。


「優しさってさ、」


ぽつりと。


「時々、残酷だよね」


「……は?」


「だってさ、」


「助けられた側が、幸せになるとは限らないじゃん」


軽い口調のまま。

でも、その言葉だけがやけに重かった。


「……何が言いたい」


「別に?」


零は笑う。


「ただ思っただけ」


「黒瀬さん、優しいからさ」


「違うって言ってんだろ」


反射的に否定する。

すると零は、少しだけ目を細めた。


「じゃあ、なんで昨日助けたの?」


「……」


答えられない。

ただ、体が勝手に動いただけだ。

理由なんて、後付けでしかない。

沈黙が落ちる。

その中で、俺は考える。

関わるな。

見ないふりをしろ。

あいつは黒だ。

どうにもならない。

今までだって、そうだった。

でも、昨日、あいつは笑った。

俺に向かって、「魔法」とかくだらないこと言って。

そう思った瞬間。


「ねえ、黒瀬さん」


零の声。


「また見ないふりをするの?」


「…っ」


言葉に詰まる。

図星だった。


「それは、黒瀬さんにとっては優しさ?」


その一言で、全部止まった。

逃げ道が無くなる。

(……ああ、クソ)

どっちだ。

関わるか、捨てるか。

その一瞬の躊躇いがやけに長く感じた。

そして、


「……うるせえよ」


気づけば、口に出していた。


「知らねえよ、そんなの」


「でもな」


視線を上げる。

初めてまともに零を見る。

その頭上の黒が、はっきりと見えた。


「見て見ぬふりが、できなかったんだよ」


言い切った。

もう、引けなかった。

零は一瞬、驚いた顔をした後、ふっと、小さく笑った。


「そっか」


その笑顔だけには、隠し事なんてないように感じた。

でも、その頭上の黒は、少しも薄くなっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ