持論の狂い
「黒瀬さん?」
「いや、何でもない」
久しぶりに口を開いた気がする。
「そう」
零はそれだけ言うと、自分の席に戻っていった。
その日の放課後、零に少し違和感を覚えながら帰宅した。
家に帰ると、
「あら、お帰り。今日早かったじゃないの」
「うん……まあね」
一つ、気になったことがあった。
零のことだ。
零の頭上には黒が浮かんでいた。
自殺を意味する色。
ただし、この色だけは厄介だ。
いつ死ぬのか、俺にも分からない。
でもそんな暗い顔やそういう素振りは見せなかった。
俺が見てきた中で、色が見えたヤツは、いつもとは違う行動を取る。
急に新しい趣味に目覚めたり、今まで小遣いを溜めてきてたやつが、急に全額出して遊びだしたり。
自分の死に気づいているかのように。
でも実際問い出すと、全員否定した。
そしていつからか、人は皆、そんな感じだと思うようになった。
でも、零だけは違った。
一瞬どこかわびしい表情を浮かべたりはするが、それ以外はいつもとは変わらなかった。
俺は、そのわびしい表情に何か引っかかった。
まるで、零は自分の中の何かを隠しているみたいに。
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次の日、零の頭上の黒は、ほんの少しだけ濃くなっていた。
「おはよう。今日寒いね」
「えっ?あ、うん」
また話しかけてくる。
まあ、挨拶くらいならいいかと流した。
一時間目の後、
「黒瀬さん、数学ノート取ってなかったよね。見せてあげるから書いて」
「いや、大丈夫」
話しかけてくる零に嫌気が差しはじめてきた。
「内申点に響くって」
「俺そんなの気にしてないから」
仲良くしたって意味ないと分かっているのに、勝手に言葉が出てくる。
昼休み、また零が話す。
「今日、放課後時間ある?」
「ない」
即答した。
「そう」
零は少し笑った。
また、その笑顔が少し引っかかった。
普通の笑顔なのに、どこか無理をしているような。
「じゃあさ」
零は続けた。
「帰り道、途中まで一緒に帰らない?」
「……は?」
思わず聞き返した。
「方向、同じでしょ?」
確かに同じだ。
(なんで俺なんだ。)
「別に誰と帰ってもいいだろ」
「でも、黒瀬さんがいい」
即答だった。
その瞬間。
天音の頭上の黒が、ほんの少しだけ揺れた気がした。




