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「ちょっと、サイズが合わないかも」
加美由のパジャマを着た佐織は、袖を捲りながら苦笑いを浮かべた。
仕事から帰ってきた都子は、佐織が泊まってくれるのをとても喜んだ。夕飯の際も、いつものように饒舌に話した。佐織も、都子に負けじとおしゃべりした。まるで、恵理が帰ってきたような賑やかさだった。
加美由のベッドの脇に布団を敷くと、佐織は飛び込んだ。
「何か、修学旅行みたい」
佐織は、両足をバタつかせた。
「そう思わない」
加美由は何も答えずに、部屋の電気を消した。
窓の外では、虫たちが気持よさげに歌っていた。月明かりで、部屋は淡く照らされている。
加美由の、鼻を啜る音が続く。音は徐々に大きくなり、咳が混じる。やがて、嗚咽が漏れ始めた。
「恵理、恵理」
加美由の、弱々しい涙声が響いた。
「ねえ、加美由」
佐織が、加美由の背中に声をかける。
「去年の夏の大会の後に、一緒にレストランに行ったでしょ。その時ね、恵理さんに、加美由の試合見に来ればいいのに、って言ったんだ」
加美由は、佐織のほうを向いた。
「そしたら恵理さん、行かないって。何でって訊いたら、私が行くと加美由が緊張して打てないだろうからって」
実際、恵理の言うとおりだった。
恵理に良いところを見せようと余計な力が入り、本来の打撃ができないことが多かった。
「きっと、加美由も、私が来ることを望んでいないって」
加美由は、目を見開いた。
「そんなこと、ないよね」
加美由がうなずくと、佐織は吹き出した。
「まったく、そういうところはそっくりだよね。性格は真逆だけど、さすが姉妹だなって感じ」
佐織は、クスクス笑った。
少しの沈黙の後、佐織が続けた。
「加美由」
「ん」
「恵理さんは、きっと良くなる。そしたら、試合に招待しよ」
佐織は、ゆっくりと手を差し伸べた。佐織の微笑みに導かれるように、加美由も手を伸ばした。
手を握ると、佐織のぬくもりが伝わってきた。
加美由は、咳きこみながら咽び泣いた。
「ほら、もう泣かないの」
加美由の手を強く握って、佐織は諭した。
双眸から、涙を溢れさせながら。
翌朝。遠くから聴こえてくる足音で、佐織は目を覚ました。
布団から身体を起こした佐織の眼前に、ジャージ姿の加美由が立っていた。
「ランニングしてくる」
「大丈夫」
加美由は、うなずいた。
「佐織の、おかげだよ」
部屋を出て行く加美由の背中は、いつもの大きさに戻っていた。
窓を開けた佐織は、走り出そうとする加美由を呼びとめた。
「気をつけてね」
佐織が言うと、加美由は微笑んだ。
遠ざかっていく加美由を眺めながら、佐織は空に向って思いきり背伸びをした。




