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加美由  作者: 白崎由宇
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 岩見の元には、他校からの練習試合の申し出が殺到した。

 昨年はオファーを出しても断られることが多かったのに、えらい違いだった。山根の入部でチーム力が上がったのもあるが、やはり加美由の存在が一番の理由なのだろうと思った。

 客寄せパンダ的なものか。

 岩見は不満だったが、チーム力を上げるには試合を重ねることが不可欠なので、こうしてオファーがくるのはありがたいことだった。

 夏の大会に向けて、週末は練習試合が組まれることが多くなった。連戦で疲労も溜まりやすそうだが、部員たちは昨年以上に試合ができるという喜びで、疲れを見せることはほとんどなかった。

 成田東は竹下、山根の両輪の活躍で、僅差での勝利を重ねた。十二試合を戦って、八勝三敗一分。うち完封勝利は二試合あった。昨年の夏の大会でベスト十六の強豪校にも勝利し、チームは着実に力をつけてきているように見えた。

 だが、肝心の打撃については、課題を残したままだった。

 一試合の平均得点はわずか三点。四番の小宮は徹底的にマークされ、相手チームがまともに勝負してくることはほとんどなかった。

 岩見は懸案の五番に吉岡を置いたが、コツコツ当てて単打を重ねる吉岡に怖さはなく、相手のピッチャーは思う存分投げ込んできた。

 逆に五番失格の烙印を押された横山は、七番に降格してからのびのびと打席に入るようになり、打率はレギュラーの中で小宮に次いでチーム二番目だった。だからといって簡単に五番に戻すと、また力む悪癖が出そうなので、打順をいじることができなかった。

 貧打線の中で勝利に大きく貢献したのは、紛れもなく加美由だった。

 代打での出場のみだったが、十一打数八安打五打点。打率は七割を超え、同点、逆転のタイムリーも放った。裏を返せば、加美由が打たなかったら平均得点は二点台に低下、勝ち試合も三つは落としている計算だった。

 もちろん、夏の大会は加美由抜きで戦わなくてはならない。岩見は、部員たちが勝利に酔いしれて己の力を過信することを危惧した。

 加美由も、ヒットを量産しているにもかかわらず、心はまったく晴れなかった。

 相手チームは、お目当ての加美由が出てくると、指笛を鳴らしたり、手を叩いたりしてからかった。下品な野次を飛ばす者がいたり、ニヤニヤしながら力のない球を放るピッチャーもいた。中には山なりの球を三つ続けたピッチャーもいて、これには普段冷静な加美由も憤慨し、バットを一回も振らずに見逃し三振でベンチに戻った。

 その日の夜、加美由は食事のときに、恵理にそのことを話した。

「馬鹿だね、加美由は」

「へ」

「何で打たないの」

「だから、相手が私のことなめてるから」

「それじゃ、ずっとなめられっぱなしだよ」

「え」

「打たれて悔しくないピッチャーなんていない。どんなに手抜きして投げた球だって、打たれたら絶対に悔しいはずだよ。顔はヘラヘラしてても、心の中ではちくしょうって言ってる。本当に悔しくないのは、本気で投げた完璧な球を、完璧に打たれたときだけだよ」

 野球未経験なのに、どうして恵理はピッチャー心理がわかるのだろう。加美由は改めて、恵理のことをエスパーだと思った。

「打って、打って、打ちまくれ。そうすればきっと、本気で投げてくれるピッチャーに出会えるはず」

 恵理の言葉で気持ちを入れ直した加美由は、その後もヒットを連発したが、全力でぶつかってきたピッチャーは一人も現れなかった。


 夏の大会を目前にしたある日、大きなニュースが舞い込んできた。

 昨年の夏に敗れた幕張中央が、練習試合の申し入れをしてきた。

 幕張中央は昨夏、県準優勝、今年の春の大会も準優勝で、夏の大会はAシード。ライバルの船橋商業と並んで、今年も文句なしの優勝候補だった。

 強豪校ともなれば、練習試合は県外の甲子園常連校とやるのが通例となっており、県内でもごく一部の強豪校しか試合をさせてもらえなかった。こちらから申し入れしても、断られるのが当たり前だった。それが、向こうから申し入れをしてきたと聞いて、部員たちは驚きを隠せなかった。

「山根が、兄貴に根回ししてくれたんですよ」

 小宮は、得意げに言った。

「根回しは言いすぎですが、ダメもとで兄に試合ができないか、と持ちかけたのは事実です」

 山根は、淡々と答えた。

「相馬先生から、直々にオファーがあった。山根の兄貴を通じて、うちが最近強くなってきていると聞いたらしく、ぜひともと言われてな。正直、俺も驚いている」

 岩見は、頭をかいた。

「向こうは去年よりさらに強くなっている。エースの松原はかなり成長しているし、打線も相変わらず強力だ。だが、やるからには臆することなく勝ちにいくぞ。いいな」

 岩見の檄に、部員たちは力強く返事した。

「去年のリベンジだね」

 佐織は、興奮気味に言った。

 加美由は、昨年の松原のピッチングを思い返していた。

 唸りを上げる剛速球が、脳内で鮮やかに再生される。

「あの太ったピッチャー、すごかったよね。打てそう」

「その前に、試合に出られるかどうか」

「え、なんで」

「だって、もうすぐ夏の大会だよ。私が出るよりも、他の選手を出して経験させたほうが絶対にいいよ。もし私が監督だったら、そうする」

「そうかもしれないけど、やっぱ見たいなあ。加美由なら、打ってくれそうな気がする」

「またホームラン打って、とか言わないよね」

 佐織は、慌てて首を横に振った。

「もう懲りた。二度と言わない」


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