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冬本番となり、グラウンドには霜が降り始めた。
室内練習場を持たない成田東高の冬の練習は、外野の芝生を利用してのキャッチボール、ノック、近所の公立体育館にある器具を使ったウエイトトレーニングが主なメニューであった。
グラウンドが霜で使えないので、バッティング練習は外野の芝生でのトスバッティング程度しかできず、物足りない部員は自費でバッティングセンターに通ったりしていた。
岩見は、冬のあいだは大まかな練習メニューだけを決めて、後は部員達の自主性に任せるようにした。一歩間違うとだれてしまう危険性も孕んでいたが、大平工戦の勝利で改めて野球の面白さを実感した部員たちは、だれることなく積極的に身体を動かした。
加美由はこの冬を、身体を鍛え直す絶好のチャンスととらえていた。大平工戦でも感じた根本的なスタミナ不足を補うために、徹底的に走り込みをしようと考えた。
暇さえあれば、とにかく走っていた。
日課の朝のランニングは距離を一、五倍に増やし、自転車通学から徒歩での通学に切り替えた。練習のアップのときも、他の部員たちよりも多く走った。練習後は自転車の佐織をとなりに従え、制服をリュックに入れて背負い、ユニフォームやジャージのままで家までランニングした。
「そんな恰好で街中走って、恥ずかしくない」
「全然」
加美由は息を弾ませながら、テンポよく走った。
「頑張るねえ」
佐織は、苦笑いするしかなかった。
玄関のドアを開けると、恵理が階段に座ってタバコを燻らせていた。
「おかえり。うわっ、冬だっていうのにまた汗だく。はい、そのままお風呂へ直行しなさい」
恵理は、風呂場を指差した。空腹が限界まできていた加美由だったが、しかたなく着替えを取りに二階へ向かった。
風呂から上がってパジャマに着替え、リビングに入ると、食卓には二人分のミートソーススパゲッティが並べられていた。
加美由がそれをぼんやりと見ていると、台所から恵理がボウルに入った野菜サラダを運んできた。
「お父さんとお母さんの分は」
「お父さんは今日から三日間出張、お母さんも今日は職場の慰安旅行で一泊。朝、言ってたでしょ」
「そうだっけ」
「まったく」
恵理は、肩をすくめた。
加美由が席に座ると、恵理は大きなおにぎりが三つ載った皿を目の前に置いた。
「スパゲッティだけじゃ、お腹空いちゃうでしょ。炭水化物祭りになっちゃうけど」
そんな素敵なお祭りならいつでも大歓迎だ、と加美由は思った。
空腹に耐えかねた加美由は、スパゲッティをかき込むようにして食べ始めた。その様子を、恵理は右手にフォークを握ったまま、微笑ましく見つめていた。
「食べないの」
スパゲッティをあっという間に平らげた加美由は、恵理が食事に手をつけていないのに気がついた。
「逞しくなったねえ」
「何が」
「身体」
確かに、最近、少しパジャマがきつくなった気がしていた。
「毎日、飽きずに走っているもんね」
恵理は、目を細めた。
「もうちょっと、女らしくしたほうがいいのかな」
恵理の透き通るような白い手を見ながら、加美由は呟いた。
「大丈夫。そのうち嫌でも女らしくなるから」
「そういうもんかな」
「そういうもんだよ」
加美由の食べっぷりを見て、ようやく食欲が湧いた恵理は、フォークにスパゲッティを巻きつけ、ゆっくりと口へ運んだ。すでに加美由は、二個目のおにぎりを食べ終わろうとしていた。
「退院して、何か月だっけ」
加美由が訊ねると、恵理は指折り数え始めた。
「半年くらいか。何で」
「これだけ長い間調子良いのって、久しぶりじゃない」
「そう言われてみればそうかも」
体調不良のときは自分の部屋に引きこもって、一歩も外に出ないことも珍しくなかった恵理だったが、再び大学に行き始めたのはもちろんのこと、最近では友人と遊びに出掛けることもあった。
「ずっと続いてほしいな」
「そうだね」
三個目のおにぎりを頬張る加美由を見て、恵理は静かに微笑んだ。




