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最終話「消えて魔法少女」

 突入寸前のみんなは、いつもよりピリピリしていた。誰も何も喋らない。微妙な空気になる。

 なんだか嫌だな、音が濁ってて。もっと楽しくしようよ。

「みんな、笑ってよ! そんなんじゃ楽しくないよ?」

 いつもみたいににっこり笑ってみせる。でも、誰も反応しない。バディのフェルマータさえ、目を逸らした。通信機で繋がってるエチュードも、苦笑いをするだけ。

 なんでみんな俯いてるんだろう。あたしはこんなにワクワクしてるのに。

『総員、準備をしろ。突入まで、十、九、八……』

 司令がカウントダウンを始めた。まあ良いか。あたしもみんなと同じように銃を構える。

 『二、……一。突入しろ!』

 楽しい楽しい戦いの幕が今、上がった。


 見渡す限りのドール。遠距離魔法を得意とする魔法少女たちが先制攻撃を仕掛ける。

「うわー! 倒し甲斐あるー!」

 これからこのたくさんのドールを蹴散らせるのかと思うとワクワクが止まらない。

 魔法銃を構え、弾丸をばら撒く。今回の作戦のために拳銃型から軽機関銃型に改造した、お手製の魔法銃。もちろん威力はバツグン! なにこれ楽しー!

 視界の端で誰かが倒れた気がした。それに続いてバタバタと何かが倒れていく。

「……? まあいいや。フェルマータ、そっちお願い!」

 フェルマータの返事はなかった。返ってきたのは静寂。

 あたりをちゃんと見ると、立っている魔法少女は最初の半分くらいだった。

『想定より消耗が早い……皆さん、ドールマスターだけを狙ってください!』

 耳から聞こえる、焦った声。ようやく許可が出た。これで心置きなくドールマスターを倒せるんだ!

 足元に転がる魔法少女たちを飛び越えて、不自然に空間が出来ている中心部を目指す。

「……こないで」

 さっきまでドールがいっぱいいたのに、ここだけはドールも何もない。ここだけを守るための配置みたいだ。

「あれ、君がドールマスター? 随分ちっちゃいんだね!」

 これがドールマスター。まるで子供じゃん。あはは、こんなやつが大災害を起こしたなんて信じられない。こんな簡単に殺れて良いんだ。

「ねぇ、ママはいつかえってくるの?」

 銃口を向けても尚、動かない。幼い声があたしにまとわりつく。

「そんなのあたしが知るわけないよ。あたしのママだって帰ってこないんだから」

 そう言うと、何故かドールマスターは笑った。不気味なほどに口角を上げ、目を細める。ホラゲーに出てくる人形みたい。

「じゃあ、ぼくとおんなじだね! ねぇ、あそぼう?」

 突然、足を掴まれた。ひんやりとした感覚が、暑いこの時期には助かる。って、違う違う。即座に上体をひねり、背後にいるドールを撃つ。すぐに塵となり、あたしの足が解放される。

「ごめんね、あたしはこの遊び方しか知らないから」

 ドールマスターは不満そうに口を開いたけど、声を発する前に銃弾を撃ち込む。

「次は仲間として会えたら良いね! ばいばい!」


 あっさり討伐できちゃった。なあんだ、大したことないな。帰ろっと。

 銃をしまった途端、ガクンと視界が揺れた。手と足から、赤い火花のようなものが飛び散る。輪郭が、散っていく。見ると、他の魔法少女も同じようになっていた。

 なんで? なにこれ? 怖い。嫌だ。

 本能的に、消えることを悟った。理由は分からない。分からないけど、あたしの天才的な頭脳がそう訴えている。

『任務完了だ。死体を回収して生還しろ』

 ねえ、待ってよ。司令、どうすればいいの? こんな時の対応って、ガイドブックに載ってたっけ? いやだよ。あたし、ここで終わりたくない。

 あっという間に火花は胸まで迫ってくる。なんで。なんでみんな笑ってるの? あたしは全然楽しくないよ。

 嫌だ、死にたくない。まだ生きていたい。いつかママは帰ってくるんだもん。ねえ、待ってよママ。

「あたしはまだっ……生きてるのにっ!」

 ズルズルと床を這って、中央で叫ぶ。ありったけの魂を込めて、叫ぶ。

 死にたくない。まだ一位でいたいよ。司令、助けて。あたしがいないと魔法少女の宣伝が出来ないでしょ? だから、早く来てよ。

「嫌だあああああ!」

 もう音が聞こえないよ。寂しい。……独りにしないで。


『――二十年に及ぶ魔法大災害の根源は原因不明のまま、自然消滅しました。これにより、魔法緊急警戒命令も解かれ、人々が自由に外を出歩けるようになり――』

 

 世界は何ら、変わらない。少女たちは、消えた英雄となった。


                ――消えて魔法少女

最後まで読んでくださりありがとうございます。拙いところもあったと思いますが、あなたに読んでもらえたことが幸いです。

少女たちのことを、覚えていてください。

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