第六話「さみしがりしょうじょ」
何もないこのお部屋に、何が残っているんだろう。ふと気になって、だだっ広いお部屋を見渡す。首が思ったより動かなくてあまり見渡せなかった。つまんないの。
頭の上で何かが動く気配がした。直後、ぽんぽんと頭を撫でられた感触がした。
そうだ、このお部屋には大きな「ドール」がいるんだった。ぼくは独りじゃなかったんだ!
「サミー、ママはいつかえってくるの?」
目の前に座っているサミーはびくともしない。仕方ないから、横のカナに聞こう。
「ねぇカナ、ママはいつかえってくるの?」
しばらく考えた後、カナはヘンな声で話し始めた。
「きっト、すぐにカェってきますヨ」
なんでカナはちゃんと喋れないの? なんでママはいないの? なんでパパもいないの? カナは前にも同じこと言ってたのに、ママは帰ってこなかったじゃん。
「カナのうそつき」
そう言うと、カナは崩れて塵となってしまった。そうだ、うそつきなんて消えてしまえば良いんだ。良い子のサミーさえ居ればいいんだ。
「……ばいばい」
今日はサミーとおままごとをする。本当はカナとするつもりだったけど、うそつきとは遊びたくないからサミーとするの。
「サミー、ごはんができたよ」
もちろんここにご飯はない。だから、カナだったものを使う。カナが崩れたときに出てきた塵を水に薄めるとほら、スープになった。
「はい、あーん」
サミーの口にスプーンを持っていく。サミーはお口が上手く開けないみたいだから、ぼくが口にねじ込んであげる。そしたら食べられるよね?
「どう? おいしい?」
「……」
サミーはいつも通り、何も喋らない。
「そっか、おいしいんだ。……いいこだね、サミー」
喋らないってことは美味しいってことだよね。サミーは良い子。カナみたいに嘘もつかないし勝手にどこかに行ったりしない、すごく良い子。
「サミー、あたらしいおともだちほしいよね? ぼくがつくってあげるよ」
何も答えないサミーに少し苛ついたけど、黙ってるってことは欲しいってこと。ちゃんと言えば良いのに。
気付いたら、隣に新しい子がいた。この子が新しいお友達。
「なまえは……カナ!」
カナと名付けた子は、名前を呼ばれるなり嬉しそうに頷いた。
「ほら、これでもうさみしくないね。サミーと、ぼくと、カナもいる」
サミーの手とカナの手をとり、重ねる。冷たい手と手が重なったらもっと冷たくなった。
ママはいつまで経っても帰ってこない。パパも、仕事に行くとか言ったきり帰ってこない。
なんで? ぼくのこと嫌いになったの? ……ううん、そんなわけない。ぼくはママとパパが大好きだもん。
……そうだ、ママとパパのドールを作れば良いんだ。
「きみはママ、きみはパパね。……ほんとうのママみたい」
早速ママとパパとおままごとをする。でも、ママはこんなふうに笑ったっけ。パパはお料理なんてしたっけ。
違う。ママはそんなに優しくなんてない。パパは仕事でいつも家にいないんだよ。みんな、ちがう。
「……もっとつくらないと」
何体も作る。たくさんのママとパパができた。でも、どれも違う。
「ちがう。ママはこんなふうに笑わない。パパはそんな顔しない」
また作り直す。またママとパパができる。また、違う。
「ねぇ。もっとやさしくして。ちゃんとぎゅってして」
だんだんドールが増えて、部屋が狭くなっていく。座る場所がなくなって、立ったまま続ける。どんどんドールが増えて、身体を動かすことすら難しくなる。でも、ドールを生み出すのはやめられない。やめたくてもやめられない。
「……こんなにいるのに、なんでママとパパはいないの?」
ぎゅうぎゅうになるほど居るのに、本当のママとパパは居ない。そう認識した瞬間、また孤独を感じた。
嫌だ。ぼくは独りじゃない。だって、ドールがいるじゃん。ぼくの分身なんだから、ぼくと仲が良いのは当たり前。好きなものも一緒。
どうして、どうしてこんなに心臓が痛いの。ああ、頭も腕も、全身が痛くなってきた。
心臓をとれば楽になるのかな。思い切って腕を切り落としてみようか。いやいや、ママとパパから貰った大事な身体なんだから、できるはずないよ。
痛いときはどうするんだっけ。痛みを飛ばす魔法の言葉があったはずなのに、思い出せない。いや、そもそも知らなかった。
痛みの失くし方、お友達の作り方、孤独の埋め方、魔法の制御の仕方。
誰も、何も教えてくれなかったじゃん。
――ドールマスターのおはなし




