3.部活での出来事。
「……部活、行きたくないなぁ」
マナミは廊下を歩きながら、そう呟いた。
部活に行けば当然、武藤と顔を合わせることになる。
そうなれば、体育館倉庫裏でのおぞましい出来事を思い出してしまうだろう。身から出た錆とはいえ、彼女の足取りは必然的に重くなった。
「でも、次期キャプテンが目の前なんだから。頑張らないと……!」
いつもなら翔に荷物を持たせて歩くが、そんな余裕すらない。
マナミは深く息を吸い込んでから、思い切り吐き出した。そして、部室の扉を開く。努めて普段と変わりないように、先輩と後輩、両方ににこやかに挨拶した。
「今日もよろしくお願いします!」
――だが、すぐに異変に気付く。
「え……?」
部室の空気が重い。
先に来ていた部員がみな、マナミを睨んでいた。
「あの、どうしたんですか……?」
あまりに異質な空気に、彼女の背筋は凍る。
嫌な予感がした。
「行きましょう、みんな」
「え、あの! キャプテン!?」
そんな直感があった瞬間に、キャプテンを務める女子がそう言った。
マナミの声は届かない。誰にも、他の誰にも、彼女の声は届かなかった。全員がマナミの言葉を無視して、次々に部室の外へと出ていく。
「どういう、こと……?」
ただ一人取り残されたマナミ。
しかし、さらなる恐怖が彼女を襲うのだった。
◆
――ダブルスの練習。
前衛として身構えていた時だった。
後方でサーブを打つのは後輩の一年生。将来有望とされている彼女は、入部当初からマナミとペアを組んでいる相棒だった。
だから、マナミも少し気を抜いていた。
その時だ。
「きゃっ……!?」
顔のすぐ横を、後方からボールが抜けていったのは。
「え、なに。いまの……?」
このくらいなら、ダブルスの練習をしていればたまにあること。
しかし、この瞬間のマナミには予感があった。自分はいま、後方から狙われていたのではないかと。それでも、何も訴えることはできない。
偶然に、偶然が重なっているだけだ。
彼女はそう、必死に自分に言い聞かせた――その直後だった。
「――――っ!?」
――ゴツン、と。
今度は狙い過たず、ボールが後頭部に直撃した。
軽い脳震盪を起こしたのだろう。マナミはその場にへたり込む。
「うぅ……!」
これは、いくらなんでもダメだ。
相手は後輩なのだから、自分が指導しなくてはならない。
「ちょっと、アンタ――」
そう、思って声を上げた。だが……。
「――――え?」
息を呑んだ。
なぜなら、そこには彼女の知る後輩とは異なる誰かが立っていたのだから。
いいや、正確に言えば。そこにいるのは、間違いなく後輩だった。だがしかし、自分を見る目や、態度がまるで別人。
感情のこもらない瞳でマナミを見る後輩。
それに違和感を覚え、彼女は周囲を見回した。すると――。
「あ…………」
――震えた声が漏れた。
誰もが、同じ目をしていたから。
誰もが、マナミのことをゴミでも見るかのような目で見ていたから。
「なに、これ……」
六月の湿った空気が、足元に絡みつく。
自然と、マナミの呼吸は荒くなっていくのだった。
◆◇◆
「くくく……」
そんなマナミの様子を見て、笑う人物がいた。
その人物は木陰にたたずんで、ただただ愉悦に浸っている。
「お前が悪いんだァ……」
そして、ねっとりとした口調でこう言うのだ。
「私のモノにならない、マナミがなァ……」――と。




