1.下校中。
「えぇ、カケルくん。あの世界的に人気なアイドル、ココロちゃんを知らないんですか!?」
「あ、うん……。あいにく、名前くらいしか」
家の方向が同じということで、セーラと俺は一緒に下校。
その道中の会話の中で分かったのは、彼女は日本のサブカルチャーが好きだということだった。アニメにアイドル、そしてゲームなんかにも詳しい。
ゲームとアニメならついていけるが、アイドルは専門外。
俺は申し訳なく思いながら頬を掻いた。
「ココロちゃんは、あの某動画サイトで日本人一位の再生回数を誇っているネットアイドルです! ダンス動画にそのメイキング動画、時にはゲーム実況も!」
セーラはそのココロちゃん、というアイドルに心酔しているらしい。
ずいぶんと鼻息荒く熱弁していた。
「ははは、それなら今日の夜に見てみるよ」
「はい! ぜひ!!」
俺はほんの少し気圧されながら、そう答える。
すると彼女は、本当に嬉しそうに微笑んだ。そのネットアイドル――ココロの歌なのだろう曲を鼻歌で、楽しそうに口遊んだ。
たしかに、どこか心の安らぐメロディー。
なんとなくだが、空に浮かぶ雲を見上げていた。その時だった。
「セーラお嬢様、お待ちしておりました」
不意に、そんな男性の声が聞こえたのは。
「え……?」
見ればそこにいたのは、黒服にサングラスをかけた外国人らしき人物。
まるで身体に針金でも入っているのではないだろうか。そう思わされるほどに、背筋がピンと伸びていた。そんな彼を見て、セーラはふっと息をつく。
「こなくていい、って言ったのに……」
「お嬢様に何かあれば、お父様が悲しまれます」
「それは、たしかにそうなのですけど。ここは日本なのですよ?」
「関係ありません。私どもの役目は、お嬢様の身を危険から遠ざけることです」
そうやり取りして、セーラは小さく首を左右に振った。
こうなっては仕方ないだろう、という雰囲気。こちらを見て、少し寂し気に微笑みながら、彼女は礼儀正しく一礼した。
「カケルくん。今日は楽しかったです! ――また、明日」
「う、うん。また明日」
手を振ると、手を振り返すセーラ。
そして黒服の男に守られながら、去って行ってしまった。
「良いところの、お嬢様――って感じなのか?」
二人が見えなくなってから、俺は首を傾げながらそう呟く。
しかしこの日本で、あのように厳重に警備される令嬢なんて想像できない。世の中は分からないことばかりだ、などと変なことを考えてしまった。
「まぁ、とりあえず。家に帰って動画を見てみるか」
俺は気持ちを切り替える。
ひとまず、セーラにおススメされたアイドルの動画を探すこととしよう。




