2.セーラと食堂へ。
――昼休み。
マナミから連絡が入っていたけど、俺はそれを無視した。
もう別れたんだ。二度とかかわらないと決めたんだ。だから、これからは新しい道を歩もう。そう心に誓っていたのだから。
「カケルくんは、何食べますか?」
「え、そうだな……」
俺はセーラに誘われて、食堂を訪れていた。
券売機の前でボンヤリと立ち尽くし、考え込む。
「いつもは、アイツの指示でパンを買っていくだけだったからな」
「アイツ、って誰ですか?」
「あぁ、気にしないで。こっちの話だから」
セーラは不思議そうにこちらを見て、小首を傾げた。
そんな彼女に俺は苦笑いを返す。そして、気持ちを切り替えるように一息ついてから、券売機に書かれたメニュー一覧を見る。
「カレーに、ラーメン。オムライスに……あとは、丼ものか」
「カケルくん。わたしカレーを頼むので、オムライスにしてくれませんか? 二人で半分こしましょう!」
「え、あ、うん。分かった」
俺は思いがけない提案に頷いた。
とりあえず食券を購入して空いている席に座り、呼び出されるのを待つ。
「そういえば、セーラは海外の学校に通っていたんだよね?」
「はい! 父の仕事の都合で、日本にくることになりまして」
「そうなんだ。なんの仕事をしている人なの?」
「え……。あー、それは秘密なんです!」
「秘密……?」
何気ない会話のつもりだったが、彼女の反応に首を傾げた。
秘密にする職業とは、いったいなんだろうか?
「まぁ、深くは訊かないよ」
「ありがとうございます。カケルくん」
俺が言うと、セーラはホッとしたように微笑んだ。
とりあえず変な地雷は踏まない方が良い。眼鏡を外してレンズを拭く――そんなフリをしながら、ラブコメ指数を確認した。
【ラブコメ指数――600】
よかった、どうやら選択は間違えていなかったらしい。
俺は息をつきながら、眼鏡をかけなおした。
「さて、そろそろ出来るころかな? ――あ、やっぱり!」
厨房の方を覗き込むと、ちょうどカレーとオムライスが用意されていた。
食券の番号を確認しながら、俺はその二つを手に席に戻る。そしてセーラにカレーを差し出すと、彼女は心底嬉しそうにこう言った。
「わぁ、憧れの日本の学食! 日本のカレーです!」
「憧れだったの?」
「はい!」
スプーンを手に取り、少女は鼻歌交じりに語る。
「わたし、日本のアニメとか大好きだったんです。だから、こういう食事の風景に憧れてて――あと、今朝みたいなことも……」
「今朝?」
「あ、いえいえ! なんでもないです!」
こちらが訊き返すと、セーラは顔を真っ赤にした。
そして、おもむろに……。
「はい、カケルくん。半分こ、です」
「へ…………?」
自身が口を付けたスプーンにカレーをすくい、こちらの口元に。
眼鏡がずれ落ちる。すると、見えたのは――。
【ラブコメ指数――1050】
今までで、一番大きな数字だった。
「はい、あーん……」
セーラの幼い顔立ちが、どこか妖艶にすら見える。
そんな、不思議な時間だった。




