1.少し時を戻して。
【ラブコメ指数】について分かったのは、これが自分に対する相手の恋愛感情――ないしは、恋愛発展の可能性であること。というのも、先ほどの女子転校生はまるで漫画のように、俺の隣の席にやってきたからだ。
「あの、これからよろしく……お願いします!」
「う、うん。よろしくね」
俺に満面の笑みで語りかける転校生――御剣セーラ。
金色の滑らかな髪に小さな髪飾りを付け、吸い込まれるような蒼の瞳をしている。制服は他の生徒とは違い、どこか異国情緒あふれるものであった。
すらりとした体躯の、小柄で可愛い花のような美少女だ。
「あの、それと。今朝はごめんなさい!」
「こっちこそ、ごめんね。急いでたから……」
「わ、わたしも道に迷ってしまって……えへへ」
恥ずかしそうに笑うセーラ。
そんな彼女に表示されている数値を、眼鏡を外して確認してみた。
【ラブコメ指数――520】
やはり、上昇している。
俺はそれを見て、自分の仮説にさらなる自信を得た。
「やっぱり、おかしかったんだ。――今までの方が」
窓の外に目を向ける。
春の日差し降り注ぐ中に、小鳥が舞っていた。
俺はそんな小鳥に自分を重ねて、内心で強くガッツポーズをする。
「マナミはもう関係ない。俺は、自由なんだ」
◆
――休み時間。
さて、自由時間になるとセーラの周囲には人だかりができた。
特に男子生徒が多かったが、やはり皆、美少女転校生という存在には興味津々なのだろう。隣の席の俺でさえそれに混ざることができなかった。
「でも、指数は変動なし――か」
窓際の壁に背を預けながら、俺はセーラに表示された指数を確認する。
見つめていると、にこやかに応対している彼女が、ちらりとこちらに手を振った。不意にそんな愛らしい姿を見せられ、思わず頬が緩む。
「あの、駒田くん……?」
「ん、キミは……」
そうしていると、声をかけてくる女生徒がいた。
長い黒髪を三つ編みにして、眼鏡をかけた女の子だ。たしか先ほど教室に入った時に、ラブコメ指数が270を示していたはず。
名前はたしか、坂上このみさん。
「坂上さん、だったよね」
「そ、そうです! よかった、名前覚えてもらえてた……」
モジモジとしながら、彼女は頬を赤らめる。
それだけで、何やらラブコメ指数が上昇していた。
「その、今朝は大変でしたね」
「マナミのこと? そうだなぁ。でも、今日で終わりだよ」
「あ、やっぱり……。えっと、駒田くん――」
俺の答えが契機となったのか、さらにラブコメ指数は上昇。
坂上さんは、深呼吸一つ。何かを口にしようとした。
「授業始めるぞー! 席につけー!」
だが、そのタイミングで。
次の授業の担当である武藤先生が、教室に入ってきた。
「あ、あはは。それじゃ、またね!」
「うん、また」
ざわつくクラスの中。
俺と坂上さんは言葉を交わして、それぞれの席につくのだった。




