昼休みのマナミ。
「ったく、もう! 翔のくせにむかつく! 誰に向かって口きいてるのよ。次に会ったら、ただじゃ置かないんだから……!!」
――昼休み。
マナミは翔のいる教室へと向かうため、廊下を歩いていた。
いつもならスマホで呼び出すのだが、今朝の一件もあってか応答はない。そのため仕方なし、彼女は数メートル離れた目的地へ向かっていた。
心中で、何度も翔のことを足蹴にしながら。
「あぁ、良いところにいたな。斎藤、少し時間良いか?」
「え? ――あ、武藤先生」
だが、その道中でマナミに声をかける人物があった。
その男性の名は武藤――マナミの所属する女子テニス部の顧問。経験者ではなく、あくまで顧問教員であるためか、ひょろっとした見た目をしていた。
そんな彼は眼鏡をくいっと上げながら、マナミを手招きする。
「なんですか? こんなところで……」
それに従ってやってきたのは、体育館倉庫の裏。
人気のない、日差しの差し込まないそこは、空気が湿って淀んでいた。
「お前、駒田と別れたんだってな?」
そこに到着すると、武藤はふいにそう口にした。
そして、
「え、なんですか? 別にまだ別れたってわけじゃ――」
「それなら、俺と付き合え。斎藤」
「――え……?」
否定しようとしたマナミの言葉を遮り、そう告げる。
髪を弄って暇つぶししていた彼女は唖然として、武藤を見た。するとそこに浮かんでいたのは、なんとも嫌らしい笑みだ。
「あの、先生? なんの冗談――」
「キャプテンになりたいんだろう? 推薦が欲しい、とも言っていたな」
彼は舐め回すように少女を見て、鼻息荒く続ける。
「それは、そうですけど……」
「なら俺と付き合え。そうすれば全部、手に入るぞ?」
――ジリ、ジリと。
マナミへの距離を詰める武藤。
「冗談でしょう? 先生、結婚してるしお子さんも……!」
「ははは、何を言うんだ。こうなったのは、お前がいやらしい身体つきをしているから、だろう? 毎日、俺に色目を使っていたじゃないか」
「ひっ……!?」
そこに至って、マナミは全身に鳥肌が立つのを感じた。
この教員の視線は、本気だ、と。
「い、嫌です! それにアタシ、まだ翔と別れたわけじゃ――」
少しずつ詰められる距離。
逃げ道を探しながら、マナミはこう叫んだ。
「助けて、助けなさいよ翔……!」――と。
同時に、武藤を突き飛ばす。
男性といえど痩身の彼は、いとも容易くその場に倒れた。
「く、まて……!」
「助けて、助けて翔!!」
追いすがる武藤に、逃げるマナミ。
昼休みの体育館倉庫の裏には、気色の悪い男が残されていた。
「許さない、許さないぞ……!」
そして、その男は呟く。
目を見開いて、マナミの駆けて行った方を睨むのだった。




