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怪奇Drip  作者: 因島あおい
20/21

#19『緋熊』

 










 「なんだい? これ」


 放課後の屋上。


 そこにはボク以外、人間は誰もいない。


 ボクはその隅っこで小羊たちが集めた欲望たちを一通ずつ眺めていた。


 どれもこれもくだらない、つまらない、しょぼい、そんな本気でない願いばかり。試験前はみんなイライラしているのか、それでも濃いい、面白いものが多かった。


 そんな中で一通、目を引くもの、いや興味が湧く手紙があった。


 別に彼女みたいな悲痛の訴えではなく、本気で叶えたい夢でもなく、ただただはじめは意味が分からず、それでいてその文面には妙に魅かれるものがあった。


 一種の魅力だ。


 「ふ〜ん」


 しかし、ボクは興味なさそうにため息まじりの反応を返す。


 返す相手もいないのに。


 見てる誰かもいないのに。


 「ケケケッ」「キキキッ」


 そんな天邪鬼なボクに、従順で無邪気で邪悪な小羊たちは三日月のような笑顔で[[rb:戯 > たわむ]]れている。


 その興味を魅かれた手紙。


  [ピンク色の熊のぬいぐるみの化物]


 赤字でそう書かれていた。


 自分の生み出したルールに従い、その消したいと願われた存在に思いを巡らせる。


 ピンク色の熊のぬいぐるみの化物。


 「なんだい? これ」


 ボクはこんな生き物知らない。


 不意に零れたその言葉に、小羊たちは首を傾げる。


 「ふ〜ん」


 どうやら、この子たちも知らないらしい。


 再び手紙に目を落とす。


 手紙というにはお粗末で、ルーズリーフの切れ端のようなものに殴り書きされた赤い文字。


 女性の字? かな?


 そしてこれが隠されていた場所。


 1F廊下の消化器の裏。


 それ以上は分からないか……


 「ちょっと調べてみるか」


 学校ももうすぐ夏休みだから、時間がないじゃないか。


 そんな愚痴を吐きながら、ボクは気分が[[rb:昂揚 > こうよう]]していた。


 「ケケケッ」 「キキキッ」


 それを見た小羊たちも嬉しそうに笑っている。


 夕日が落ちかけた誰もいないこの屋上で、不気味な笑い声が木霊する。


 初夏のねっとりした暑さは声を潜め、ただただ空気の成り行きを見守るのであった。

















 「さすがあやめ、学年2位とか化物じゃん!」


 (なお)が嬉しそうに笑いながら言う。


 一学期の期末テストもようやく終わり、あとは夏休みに突入するのを待つのみ…… という訳にはいかない。


 テストが終われば、結果が出る。


 結果が出れば、また何らかの結果が求められる。


 点数がでれば、その上の結果が求められる。


 順位がでれば、その上の結果が求められる。


 上には上がどうしてもいる。


 「直、それは褒めているの?」


 私は複雑な心境でありながら皮肉まじりに直に言う。


 そんな私のことなど知る由もなく、直はあっけらかんと言う。


 「オレなんてうしろから数えた方が早いし!」


 「う〜ん。それもどうかと思う……」


  『浅池(あさいけ) 直  総合点数324点 順位 89位/95位』


 私はそれ以上のコメントは言えなかった。


 主要五科目。数学、英語、国語、理科、社会。


 すべて200満点。


 私の通うここ水無月(みなづき)高校では、『生徒の勉学に対する自主性を向上させる』ために、全学年、全科目のテスト結果を廊下に貼り出される。


 賛否両論あるが、それに対し負けたくないとやる気を出す人も多少はいるらしく、それに対し止めようと言う声はあまりない。


 いや……


 あるけど、言えないだけ。言っているけど、届いていないだけかもしれない。


 少なくとも私はそれでやる気を出すような人種ではないのだけれど……


 いや…… 少し違う。


 「あいつ、また1位か……」


 ぼそっと言葉が漏れてしまった。


 「?」


 直は不思議そうに私を見ている。


 そうなのだ。


 別に上位にいたいとか、先生に認められたいとか、学校に対する姿勢でそんなやる気は持ち合わせていないけれど。


 でも……


 私にも負けたくない奴だってあるのだ。


 これは単なる、自尊心というよりも、敵対心といったそんなものだろう。











 「へぇ〜委員長、学年1位って頭良いんじゃん」


 「え!? 桃子(とうこ)さんボクの学力とか知らずに勉強教えてもらってたの? その方が驚きだよ! ボクが本当は数学も国語も英語も社会も理科もできない大バカもので、キミへ教えていたことが全てデタラメ、荒唐無稽(こうとうむけい)な妄言だったら一体全体どうするつもりだったんだい!?」


 八白(やしろ)がなにか長文を喋った気がしたけど、半分も聞き取れなかった。


 まだ彼のことを知って数週間くらいだけど、もう慣れた。


 たぶん、あまり意味があること言っていない。


 「いや、委員長には感謝してるよ。高校入ってずーっと90番代だったうちが、まさか20位以内に入れるなんてビックリだよ。正直引く」


  『結城(ゆうき) 桃子 総合得点818点 順位17位/95位』


 これは本当の気持ちだ。


 確かに今まで勉強なんてしていなかった。


 里崎(さとざき)先生の手助けもあったけど、まさか一週間でこんな結果になるとは思わなかった。


 「いやぁ〜そう言ってもらえると、貴重な試験期間をキミと過ごして本当に良かったと思うよ。やっぱり、人助けというか友だち助けって良い事だね。すごく気分が良いよ。委員長って役柄でいるとなかなか感謝されることなんてないからね。いいねいいね、じゃあ次は10番以内だね!」


 「いや、学校の点も大事だけど、大学受験の勉強の方が大事っしょ」


 まぁ、これで内申点上がって、推薦もらえればもうどうでもいいんだけどね。


 あーでも夏休みもどうしよう。


 やることないし。


 「あ、そうそう桃子さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 唐突に八白が言う。


 その瞬間、場の空気が変わった。


 八白を見ると笑顔だが、どうにも今までの飄々(ひょうひょう)としたものとは全然違う。


 彼を知って数週間で分かったことの一つ。


 彼は誰とも真面目に話しをしていない。


 が、たまに、不意に、本気になる。


 偽善者ではなく、悪人になる。


 本人に自覚があるか分からないけど、でも。


 この雰囲気のときに言うことが彼の本性だと。


 なんとかく、分かったのだ。


 「え? なに?」


 うちは普段通りに返す。


 一体、彼が何を言い出すのか少し恐々(きょうきょう)としながら。


 「桃子さん、『ピンク色の熊』って知ってるかい?」


 ……はい?

















 夏日が少しずつ強くなり、汗が制服に(にじ)み身体に張りつき、気持ちが悪い。それでも、もう少しで学校に行かなくてすむ。だって夏休みだからね、と心躍らせていたのは午前中の話。


 オレは少し落ち込んでいた。


 なんでかって言うと、夏休みが少なくなったからだ。


 補習。


 担任からそんなことを言われた。


 ついで言えば、補習で済んだだけマシとまで言われた。


 まぁ、あの結果を見れば頷ける。


 「はぁ……」


 「当たり前の結果」


 あやめは辛辣だった。


 あやめは長い黒髪を揺らし、涼しそうな表情でゆっくり歩く。


 足取りはオレよりも早い。


 「どーせ暇だから良いけどよ、他の人が遊んでる中で勉強するなんてすげぇ損してる気分だ」


 なにより暑い。


 それが一番嫌だ。


 「テスト期間遊んでるから、こうなる」


 ぐぬぬ……


 何も言えねぇ。


 「なにより、部活の連中と会っちゃうかも知れないだろ? オレ幽霊部員だから、なんか言われそう」


 オレはどうでもいい愚痴(ぐち)を吐く。


 「その心配はない」


 あやめは淡々と口を動かす。


 なんで?


 オレは疑問を抱きながら、あやめの答えを待っていた。それを察したのか、あやめは髪を掻き上げながら、無表情に、でもめんどくさそうに言った。


 「バスケ部は1年間の活動禁止」


 「あ、そうなの」


 そっか。


 例の火事…… やっぱり、そうなったのか。


 テスト前に会った体育館全焼騒ぎ。


 火元がオレの所属している女子バスケ部(幽霊部員だけど)の部室だったからか、タバコの不始末みたいなのを疑われていたのだ。


 ま、仕方ないよね。


 オレには関係ないけど。


 「それなら、直、貴方みたいに部活に関係していて関与していない人の方が疑われそうだけど」


 関係していて関与していない?


 またあやめは難しいことを言う。


 オレがポカンとしているのを見て、あやめはため息まじりにぼそっと呟いた。


 「補習、しっかりうけて」


 どういう意味だ?


 なんかすげぇバカにされた気がする。


 ま、バカだけどね。


 そんな時。


 ふと、あやめが歩くのを止めた。


 「ん?」


 あやめを見ると、いつもの無表情ではなく、真剣な表情で続く道を睨んでいる。


 道には何もない。


 舗装されたコンクリートと、まだ灯っていない街灯と、ところどころ消えかけた白線。


 誰もいない。


 オレとあやめだけ。


 「あやめ?」


 「直、しりとりをしましょう」


 「は、え??」


 そう言ってあやめは歩き出す。


 さっきよりは早足で。


 咄嗟のことにオレは頭が回らない。


 しりとり??? ってなんだっけ?


 一瞬そんなことを思うくらい、頭が止まっていた。


 「輪廻」


 あやめが言葉を出す。


 りんね? ってなんだっけ? いや、そうかしりとりが始まったのか…… って、輪廻!? 何それ?


 「ね、ね、ねずみ!」


 「未来予知」


 なになになに、みらいよち?


 「え、えっと…… 血! 血液の血!」


 「地域信仰」


 う、う、う…… う?


 え?


 道の反対側。


 オレたちは道の右側を歩いていた。


 その反対。左側。


 何か、もぞもぞ動いていた。


 その形はまるで……


「早く」


 あやめは短く、小声で言う。


 「う、う…… うかんむり!」


 「臨死」


 し、し、し……


 頭ではしりとりの言葉を考える。


 でも、目はどうしても向こう側を見てしまう。


 見たくなくても、見てはいけなくても。


 本能的なのか、好奇心なのか、ちらっと目で追ってしまう。


 「シーラカンス!」


 「水虎(すいこ)


 すいこ? すいこって何!? そんな言葉あんの?


 こ、こ、こ……


 「子犬!」


 「(ぬえ)


 ぬえって何!? 生き物? 食べ物? 何者!?


 え、え、え……


 「え、え、え……」


 「もういいよ」


 「え、え?」


 あやめは歩くのを止めていた。


 オレも止まった。


 瞬間、足の力が抜け、その場に座り込む。


 身体が熱い。


 気がついたら、体中汗がすごい。


 暑いからの汗ではない。これは…… あのときと同じ。


 変なものを見た時と、同じ。


 「大丈夫?」


 あやめは涼しい顔でオレを見下ろしていた。でもその額には汗がじんわり浮き出ていた。


 「あやめ? あれは……」


 「なにか、見た?」


 オレはその言葉に首を横に振った。


 「そう」


 あやめは短く言った。


 そしてオレの方に手を伸ばす。


 「早く、帰りましょう」


 「うん」


 オレはあやめの手を借り、立ち上がる。


 全身が自分のものじゃないかのように重い。


 「あやめ」


 「駄目」


 一言言い、あやめはスススと道を進む。


 何も言いたくなさそう。


 「いや、ちがう、教えて!」


 「……何?」


 あやめはまっすぐオレを見ている。


 その瞳は夕日のせいか少し赤みを帯びていて、どこか不気味だった。


 怖かった。


 「……水虎ってなに?」


 オレは言う。


 その質問にあやめは呆気に取られていた。


 少し間が開いて、あやめはほんのりとした笑みとともに言葉を漏らす。


 「河童(かっぱ)のこと」


 そう言った。


 そのままオレたちは、何事もなかったかのように帰った。


 オレが見たもの。


 本当はそれが本当かどうか聞きたかったけど、聞いたら怒られそうだった。


 だから聞かなかった。


 あれは何だったのか。


 あれは本当に動いていたのか。


 オレの見たものは、本当にそこにあったのか。


 オレはあれが


 ヒトの手に見えた。











 「『ピンク色の熊』と言えば、ノースちゃんかな? うちが小学生のときくらいに流行ったやつ」


 ボクはそんなキャラクターは知らない。


 ボクは桃子さんと喫茶店でおしゃべりをしている。


 試験期間の慰労(いろう)も兼ねてケーキセットを二つ注文したのだが、マスターの勘違いか手違いか、彼女の前にはケーキが、ボクの前には角砂糖が置かれていた。


 ま、美味しいから良いけどね、角砂糖。


 ボクは小瓶からヒョイと砂糖を取り出し、口に放り込む。


  ゴリッ


 その様子を桃子さんは驚いた表情で見ている。


 なんで? こんなに美味しいのに。


 それよりもボクのケーキは?


 「マスター、ボクもケーキセットを頼んだはずなんですけど」


 カウンターの奥にいるマスターに声を掛けるが、読書に熱中しているのかボクの声が届いていない。ひどいや。


 「で、そのノースちゃんって?」


 ボクは仕切り直すように彼女に問う。


 すると桃子さんはケーキ(レアチーズケーキ!)に伸びる手を止め、スマホをいじる。


 しばらくすると画像を見せてくれた。


 「ピンク色の熊って言ったら、これじゃないかな?他にもいるかもしれないけど、うちはこいつ以外知らない」


 そう答え、彼女はケーキを食べる作業を再会した。


 ケーキのないボクにお構いなしに切ったはしから口へ入れていく。


 へぇ〜、これが……


 愛くるしいような作られた顔。


 ピンク色の毛並み。


 背丈は30cmくらい。


 そして胸にはハートのマーク。


 なんて不気味な造形なんだろう。


 これを考えたクリエーターはきっと頭がおかしいに違いない。


 そんなことを考えていると、気がつけば目の前のお皿からケーキが消えていた。おいおい、少しは味わって食べなよ。あれ? というか2皿ないかい?


 桃子さんは満足そうに言う。


 「本当に美味しい! コンビニスイーツとはレベルが違うよ」


 そりゃそうだよ。


 ボクはしぶしぶ角砂糖をまた一つ口に入れる。


 うん、甘い。


 ボクは目の前に置かれていた珈琲にミルクと角砂糖を放り込む。


 スプーンでくるくる混ぜていると、怪訝(けげん)そうな顔で桃子さんが言う。


 「委員長って、案外こどもだよね」


 そう言って黒いままの珈琲を口に運んでいった。


 「いやいやいやいや、だって苦いより甘い方が良いに決まっているじゃないか。そうだろ? 現実だってこんなにせせこましく痛いのに、食事くらい美味しいものだけを食べたり飲んだりしたって、それこそバチなんて当たらないよ」


 そう言う前で桃子さんはズズズと珈琲を飲む。


 「分かってないね、苦いイコール美味しくないってのは間違いだよ」


 「彼女の言う通りです」


 気がつけばマスターが横に立っていた。


 黒髪ボブカットに黒いエプロン。


 なにより真っ黒な瞳。


 この店のマスターさん。


 まじまじと見れば本当に綺麗だな。


 いや、本当に……


 本当に……


 「あなたはもう少し人の気持ちを考えるべきです」


 そんなボクの気持ちをよそにボクは何故か苦言を呈された。


 「そうだよ。委員長はまわりが見えてないんだよ」


 何故か桃子さんも同調する。


 「ぇ、委員長?」


 マスターが小声で言葉も漏らす。


 桃子さんの言葉にマスターはなにか違和感を感じたみたいだ。


 笑顔が引き攣っている。


 なんでなんで?


 マスターは静かに深呼吸をし、言葉を整える。


 そして言う。


 「偶像に関わるのはやめておきなさい」


 偶像。


 目を瞑り語るその言葉はどこか重い。


 ボクはその言葉に心踊る。


 「ミイラ、仏像、日本人形、形代(かたしろ)、ぬいぐるみ、ダルマ、こけし、お面…… 他になにかあったかな? いまでこそ、鏡、武器、樹木等ヒトの形は成してないですけど、古来からいろいろありますよね、良くないものも。ここらへんって偶像崇拝信仰なにかありましたっけ? 無いのかな? ねぇマスターなにか知りませんか? いや知ってますよね? ね?」


 「私はなにも知りません」


 キッパリと断るマスターはいつの間にか持っていたポットで、桃子さんに珈琲のおかわりを注いでいた。いや、待って? ボクの方が常連なのに、なんで?


 桃子さんは嬉しそうにそれを受け取る。


 「ただ言えることが一つあります」


 マスターは何故かボクと目を合わせようとしない。


 「あなたが首を突っ込むと、ろくな事になりません」

















 アレは何?


 私は静寂に包まれながら一人、自問自答する。


 なにもないこの境内で。


 正装に着替え、ただただ何もない冷たい床に座る。


 誰もいない。何もいない。


 生き物も死に者もいない、この空間。


 落ち着く。


 心の研ぎ澄まし、夕方見た光景を思い出す。


 あの道の隅に転がっていた残骸。


 アレは動いていた。


 アレは死んではいなかった。


 アレからは生きているモノを感じた。


 でも……


 アレは死んでいないとおかしい。


 アレが生きていたらまずい。


 だったら、一体……


 「アレは何?」

















 八白は()ねていた。


 拗ねると言うか、急に店を出て行ってしまった。


 うちはまだ喫茶店で珈琲を飲んでいる。


 マスターはそれを気にすることなく、カウンターの向こうで本を読んでいる。


 なんて平和なんだ。


 うちはまた珈琲を(すす)る。


  ズズズ


 「はぁ、しあわせ」


 ふいに漏れた言葉に、少し嫌悪感を覚えた。


 幸せ…… か。


 少し前まで、うちは一切幸せではなかった。


 嫉妬とか序列とか気にくわないとか、そんなガキ染みた理由に苦しんだ。


 だからすべてから逃げた。


 (キング)様なんておまじない、嘘だと思ったけど、本当に救って欲しかった。


 そしたら文字通りすべてが灰になった。


 すべてが(ゼロ)になった。


 先生や警察には一瞬犯人扱いはされたけど、アリバイがあってうちは早々に除外された。


 幸運だった。


 一変した世界は今のうちにとってきっと……


 「あなたは勘違いしています」


 「!」


 気がつくとマスターはカウンターのこちらに座っていた。


 本は読んでいない。


 真っ黒な瞳に、整った顔立ちはまるで造られたもののような、とても不自然なものだとうちは感じていた。


 「あなたの選択は一部を除き正しい。でも正しいことが良いこととは限りませんし、正しいことが常に正しくはありません」


 マスターは難しいことを言う。


 うちに何を言いたいのだろう。


 「マイナスから零になっただけです。そして決してプラスではない」


 マスターは続けて言う。


 「あなたはたぶん大丈夫でしょう。だから言いますが」


 マスターはうちの目をまっすぐ見る。


 最初は怖いと感じたその眼差しはどこかあたたかく真剣で、難しい言葉が心にすっと溶けていく。


 まるで珈琲に溶かす角砂糖のように。


 みるみる消えて見えなくなる。


 「ピンク色の熊のことです。あなたのおともだちに馬鹿なことは止めるよう言ってください」


 ピンク色の熊。


 どうやら、マスターはやはり何か知っているらしい。


 忠告なのか、心配なのか、その言葉はまるで未来予知かのようにうちの心に刻まれていく。


 「熊は大丈夫です。が、その次が良くない」


 良くない。


 その言葉が頭に残った。


 良くないって、どういうこと? と聞こうとした時、マスターはうちの前にお皿を一つ置いた。


 「サービスです。冷めないうちにどうぞ」


 そこにはまんまるのドーナツが一つ。


 どうやら出来立てのようだ。


 「い、いただきます」


 一口食べる。外はサクッとした食感で、なかはふかふかだ。


 美味しい。


 でも、甘くない。


 ほんのりとした香りとあったか味と、卵の味。


 それだけだ。


 それでも、何故か美味しいと感じた。


 「美味しい」


 そんな言葉がふいに零れる。


 マスターは表情を変えず、カウンターの奥へ吸い込まれていった。


 うちはしばらく呆然としていた。


 マスターの言葉。


 八白の思惑。


 ドーナツの味。


 かなり不思議な、でもとても満腹なそんな気持ちだった。

















 朝。


 オレは水渡(みわたし)神社の前にいた。


 もちろんお参りではない。


 あやめを迎えに来たのだ。


 昨日のアレ。


 きっとアレはいけないものだったんだろう。あのときは何も考えられなかったけど、家に帰ってふと思った。


 また助けてられた。


 そうしたら、なんとなく、朝この神社に足が向いた。


 オレは神社の母屋(おもや)の方へ向かう。


 神社の木々が太陽から守っているのか鬱蒼(うっそう)としている。どこか湿っぽい。そのせいか、蝉や夏の虫の声もあまり聞こえない。


 この夏のはじめにこれだけ静かなところもあるのだろうか、と言うくらい静かだ。


 あやめの実家だから何も言えないが、本当に……


 「なんか不気味」


 思わず声が漏れる。


 無神経にも漏れた一言。


 「不気味という表現は、的は射てますが、少し乱暴ですね」


 いつの間にかいた長身の女性に聞かれていた。


 「!」


 全身の血の気が引いた。


 いわゆる巫女服で黒髪を結っているその女性は、なんというか普通の人ではないというかそれこそ不気味なオーラに包まれていた。


 巫女服ってことはここの関係者?


 オレは警戒し、その長身の女性から一歩距離をとった。


 「その反応は正解です。しかし、距離をとるならもっととった方がいいですよ」


 何を言ってるんだ?


 オレはその女性の言葉に頭をかき乱される。


 「安心してください。私はここの神主で、あやめの姉です」


 混乱した頭ではよく分からない。


 神主?


 あやめの姉?


 安心?


 いや、どこか安心できない。


 オレはいつ自分があやめを迎えに来たと言った!?


 なんで分かったんだ?


 オレの警戒は続く。


 「第一印象が悪かったですね。仕方ありません」


 そう言ってあやめの姉と名乗るその人は袖から一つ、なにか小さな包みを取り出した。


 それをオレの手のひらに置く。


 それは御守りのようではあったが、『御守り』の文字も、この神社の名前もなにも書いていない、ただ複雑な縫い目で出来上がった小さい袋だった。


 「これをあげます。あやめとは仲良くしてやってください」


 そう言ってニッコリ笑う。


 その顔にオレは


 恐怖しか感じなかった。


 「そうそう、あなた、傘はお持ちですか?」


 「え、あ、はい。折りたたみなら」


 いつも姉貴用のを持っているけど、なぜ?


 「それならよかった。あやめはあと少しで出てくる筈です。(しばら)く、そちらのベンチでお待ちください」


 そう言うとあやめの姉貴が右手でゆっくり指差した。


 その先には青い、お世辞にもボロいベンチがあった。


 オレはコクンッと首を縦に振り、そのベンチへ向かう。


 はじめからベンチなんてあったのか?


 そんな不気味な感情を持ちつつも、オレはベンチに座る。


 ひんやりしている。


 なんて言えばいいか、もちろんベンチに対して思うことじゃないけど……


 このベンチ、まるで死んでいるよう。


 死……


 「直?」


 ベンチに夢中? になっていると、いつの間にか目の前に制服姿のあやめがいた。あやめと会えて安心したのか、一瞬で緊張がほぐれて、おもわずあやめに抱きついた。


 あやめは固まっている。


 「直、痛いんだけど」


 「あ、ごめん」


 どうやら、オレの力が強すぎたらしい。あやめの細い身体では耐えられなかったようだ。


 少し息が苦しそうなあやめは、息を整え制服正す。


 「どうしたの?」


 オレはいったいどうしたんだろう?


 自分に聞いてみても、まったく分からなかった。


 何故だろう。急に不安になってしまったんだろうか…… 何故?


 考えても、よく分からなかった。


 オレはお茶を(にご)すかのように話題を変えた。


 きっとそれは


 あまり良くなかった。


 「あ、さっきあやめの姉貴に会ったよ」


 「え?」


 あやめは怪訝そうに言う。


 「何か、言われた?」


 え?


 表情は変わらない、が。


 あやめのその表情はどこかいつもの冷静さが無く、切羽詰まったというか怒りを押さえつけているというか、そんな負の感情が(あら)わになっていた。


 怖い。


 「えっと、傘、持ってるかって」


 「傘? 今日は晴れよ」


 あやめは短く言う。


 そう言うとあやめはまたいつも通りスススと道を進んでいく。


 オレは嘘をついた。


 あやめの姉貴からもらった御守りをポケットの中できつく握りしめ、オレは複雑な思いで学校へ向かったのだった。











 「あれ? 委員長は休みですか? じゃあ副委員長、号令を」


 担任のその言葉に、うちの心臓は早くなった。


 委員長、つまり八白が休み?


 体調不良、そんなわけがない。


 上辺だけだけど、あの八白が体調を崩すわけがない。


 他人に弱味を見せるわけがない。


 緊張、不安、恐怖。


 うちの中でいろんな感情が渦を巻く。


 冷房の効いた教室で、薄い嫌な汗が背中を覆う。


 なんだろう、この胸騒ぎ。


 うちは机の下でスマホを叩く。


 今日、休み?


 ほんの一言のショートメール。


 いつもならすぐに返ってくる。


 気持悪ってぐらい、早く。


 ……


 ……


 ……


 「来ないな」


 朝のホームルームが終わっても、返って来ない。


 それどころか、1限が終わり、2限も終わろうとしていた。


 が、返信はない。


 なに? これ……


 なんか嫌だ。


 うちは居ても立ってもいられない。


 そもそも授業も、期末試験が終わって先生もやる気がないのか、1学期の復習というか惰性の部分もある。


 うちのイライラはピークに達していた。


 最近はこんなことなかったんだけどなぁ〜


 「よし」


 うちは里崎先生に体調不良を訴え、帰路に着く。


 いや、別に帰るつもりはないけどね。











 「胸騒ぎがする」


 私は誰に言うでもなく、ポツンと口に出した。


 その吐いた言葉を再度自分の心に落とし込む。


 違和感はない。


 どうやら本心みたいだ。


 今日、あいつが学校を休んだのだ。


 そんなこと、今までなかった。


 あの連れている子どもたちにでも何かあったか?


 なんだろう。すごく気持ちが悪い。


 最近変だ。


 この町が変なのは昔からだが、学内で変なまじないが流行るし、昨日は不気味なモノを見るし、朝は直が姉さんと会ったと言うし、あいつが休むし。


 「……気分悪い」


 そんな私の気持ちを知るものは誰もいない。

















 どうすればいい?


 うちは途方に暮れていた。


 どこを探す?


 家も知らない。


 例のピンク色の熊がありそうなところも知らない。


 そもそもピンク色の熊って何?


 ノースちゃんなら、もうどこにも売ってないっしょ。


 それこそ、そんな熊がどこかの動物園にいる?


 いや、いないでしょ。


 とりあえず、うちは家に帰り、補導されないように着替えだけして町をふらふら歩いていた。


 途方もなく、この夏の昼間を、ただただ当てもなく歩く。


 商店街、公園、神社、山林といろいろと……


 「こんなん苦行だわ!」


 そんなわけでうちは根をあげていた。体力には自信があるけど、どうにもこの暑さじゃ体力とか関係ない。歩き回っていたときに見つけた公園に入り、そこのベンチに腰掛けていた。


 滑り台はおろか、ジャングルジムも、滑り台もない。砂場とちょっとした木しかないそんな公園。


 せめて水道があれば……


 うちはカバンからペットボトルを出す。


 歩き回って4時間くらいだろうか? ペットボトルに入っていたスポーツ飲料はほぼ尽きようとしていた。


 「はぁ、暑いわ。さすが夏、死ねるわ」


 うちは最後の一杯はゆっくりいただく。


 若干ぬるくなってるが、仕方がない。


 無いよりマシ。


 何もないと言えど、夏を象徴するかのように蝉の大合唱は今も行われており、その不愉快なリズムが脳内に響く。


 暑さも相まって、どうにもイライラする。


 「もう! 一体どこにいるんだか」


 うちはもう一度スマホを見る。


 まだ返信はない。


 普段なら心配なんてするわけがない。


 でも、やはり昨日のアレが……


 偶像に関わるのはやめておきなさい


 マスターの言葉が引っかかる。


 マスターは確かに『偶像』と言った。


 その言葉は生き物に使うかんじではなかった。


 カリスマとかスターとか、そういう生き物に使う感じではなく、八白の言う通り、仏像とか人形とか、形あるものに使う感じだった。


 少なくともうちはそう感じた。


 そもそもうちらは『ピンク色の熊』としか言ってないのだ。


 それなのにマスターはそれを『生き物』ではなく『形あるもの』と断定していた。


 ということは……


 「マスターは、『ピンク色の熊』を知っているどころか、見たこともある?」


 存在も知ってる?


 それなのに、あの場で教えてくれなかったということは……


 全身から吹き出す汗に嫌なものが混じる。


 ひんやりとした、その汗が少しずつうちの身体を冷やしていく。


 でも、それが彼を見つける唯一の手がかり……


 「まったくどこにいるかぐらい教えろよ!」


 そんな言葉を吐いた。


 刹那。


 蝉の音が消えた。


 「え?」


 うちの目の前には


 角の生えた白髪の子どもが二人。


 三日月のように割れた口元。


 真っ黒な目玉。


 こちらをじっと見ている。


 どう見ても普通じゃない。


 静寂に包まれた空間はまるで白昼夢のようだが、身体を伝う汗や心臓の鼓動が、ここが現実であることを教えてくれる。


 夢の方が良かった。


 うちはその場から動けない。


 その異形の子どもたちはうちに近づいてくる。


 く、くるな。


 声が出ない。


 うちの半分くらいしかないこの子どもたちからは、何故か狂気しか感じなかった。


 「来て」「来て」


 子どもたちが喋った。


 透き通った軽い声はうちを更なる恐怖に陥れる。


 「いつきのとこ連れてく」「いつきのとこ連れてく」


 いつき、いつき……


 「いつきって…… 八白のこと?」


 たしか、そんな名前だった気がする。


 その言葉に子どもたちは首を縦に振る。


 張りついた笑顔でキャッキャッと笑う。


 熊は大丈夫です。が、その次が良くない


 マスターの言葉を思い出す。


 きっと八白はそれを探している。


 うちは覚悟を決め、立ち上がる。


 「連れてって、(いつき)のところ」


 そう言うと


 「ケケケッ」「キキキッ」


 そう笑う異形の子どもたち。


 そのままテテテと走り出す。


 うちはそれをゆっくり追った。


 できる限り、ゆっくりと。











 「里崎先生、八白樹はお休みですか?」


 帰りのホームルームが終わり、教員室に戻る先生に私は聞いた。


 先生がそんな質問をしたからか、とても驚いた様子であった。


 「や、八白委員長? そう、みたいね。連絡は来てないのだけど」


 連絡が来てない?


 それは変だ。


 ああ見えて、そう言う普通のことはしっかりしている。


 普通を装うことに手は抜かない。


 そのあいつが、休む連絡をしていない?


 「里崎先生、家に連絡は?」


 「いえ、していないわ。委員長のご家庭、母子家庭でお母様もほとんど家にいないのよ」


 「……それは」


 それはどういうことだ?


 普通の不良生徒ならサボりということで連絡しないことは分かるけど、一応、紛うことなく優等生の彼が無断で休んでいるのに、何もしていない?


 変だ。


 私は先生の言葉に違和感を覚えた。


 「委員長、変なところあるでしょ? もし明日も来なかったら家まで行ってみようかと思うのだけど」


 「変なところ?」


 私の違和感は不信感に変わる。


 彼は普通の人に対しては、変に振る舞うことはしないのだ。


 変に論理的に不作法に振る舞うのは、何かある人に対してだけ。


 「先生、何か委員長のことで隠し事してませんか?」


 「なに言っているのよ! そんなわけないじゃない!」


 先生はあからさまに動揺している。


 「ゴメンね。万月(よろづき)さん、職員会議があるから。私も少し心配だから帰りに家に行ってみるわ」


 そう言い残し、その場から逃げるように去っていった。


 おかしい。


 おかしい。


 おかしい。


 「何か、嫌な予感がする」


 誰も拾えないその呟きが廊下に落ちる。


 嫌な予感は当たるもの。


 誰かがそんなこと昔に言っていた。


 そんなことを、私はしっかり思い出していた。

















 あれからどれくらいたっただろう。


 うちはなんの疑いもなく、異形の子どもたちの後を着いてきていた。別に変な異空間に迷うことなく、普通の道を普通に歩いてきた。


 そして今は森の中。


 森と言っても、山の奥とかではない。


 同じ町内にある公園の池のほとりにある森だ。


 池の回りがランニングコースになっている、この町で一番広い公園でバスケ部の時もたまに練習で使ったっけ?


 利用する人もかなりいる公園だけど、その中でも一番鬱蒼としていて、うちもこんなところ知らなかった。


 なんとなくだけど、誰も寄りつかない、寄りついてはいけないってかんじの場所だ。


 人通りのあるランニングコースからそんなに入り込んでいるわけでもないのに、どう言うわけか、暗い。


 そんな暗いところ。


 うちの捜し者はその茂みの影にいた。


 「八白?」


 不意に口から声が漏れる。


 それに気がついたのか、八白はうちの方を見る。


 振り向いた瞬間、いつもの張りついたような笑顔。


 「あれあれ? 桃子さん? なんでこんな何もない辺鄙(へんぴ)なところに? 学校は? 授業は? まだ16:44だよ? ギリギリ授業中だよね? どうしてこんなところにいるのかな? ボク? ボクはどうせこの時期の授業なんて眠たくなるだけだし、それならもっと時間を有意義に有効に使おうって考えて昨日から町中くまなく、そのピンク色の熊を探しまわっていただけだよ」


 うちは呆然としていた。


 昨日からって、喫茶店出てからずっと? じゃあメールが返ってこなかったのは、単純に電池が切れてたから?


 身体の疲れも、夏の暑さも忘れ、うちは大きなため息を一つついた。


 心配して損した、が一つ。


 彼は一体何やってるんだ、が一つ。


 異形の子どもたちは不気味に楽しそうに笑っている。


 「あれ? マジ? 桃子さん、もしかしてこの子たちに連れて来られた?」


 「そうよ。この子どもたちは何?」


 異形の子どもたちはキャッキャと戯れている。


 「願ったから」「願ったから」


 そう無邪気に言う。


 願ったから……


 その言葉の意味はよく変わらない。


 「あー、そっかー、なんだそれ…… まったく、仕方ないなぁ」


 そんな訳が分からないこと言うと、八白は彼の横にあるスペースにうちを促す。


 「早く早く、見つかっちゃうよ」


 見つかる。


 うちはその言葉に背筋が凍る。


 急いで八白の横にしゃがみ込んだ。


 あなたが首を突っ込むと、ろくな事になりません


 そんなマスターの言葉が脳裏によぎる。


 「ほらほら、桃子さん。ここから何が見える?」


 うちの不安を余所(よそ)に、八白は問いを投げ掛ける。


 何が見える?


 うちはしゃがんだ状態で茂みからむこう側を見る。


 見てもそこには何もない。


 ただただ鬱蒼とした森、木と木の間に生い茂った草木、倒れた樹木、地面を覆う葉っぱ。


 普通の森の風景。


 それ以外に……


 ?


 なにあの。


 あの小さいの……


 うちは目を凝らしてそれをじっと見る。


 木の下に何か白いものが落ちていた。


 ぬい、ぐるみ?


 小さすぎてよく見えないが、小さい何かの動物のようなぬいぐるみがそこにポツンと落ちていた。ずいぶん雨風にさらされているのか、汚れて、そして少ししぼんで見えた。


 「あれが、なに?」


 うちは恐る恐る八白に聞く。


 八白はいつもの笑顔で、でも本当に楽しそうに言う。


 「あぁいうのが、ここら辺一帯に落ちてるんだ」


 「は?」


 ここら辺一帯って……どういう?


 「ボクも見た事無いものに対しては何も分からないよ。ただなんとなく、感覚的にこの公園が怪しいと思ったんだ。何か居そうって思ったんだ。そんなこんなで歩いていたらこの公園のこの森の一帯だけ、あんなかんじのぬいぐるみや人形、ロボット、フィギュアが置いてあるんだよ。ただ置いてあるのか、お供えしてあるのかはわからないけど、少し気になってね。匂うんだよ、こういうの」


 八白は淡々と語る。


 「『偶像崇拝』だよ。意味がないものでも、形があれば何だって神様になれる」


 八白はニヤリッと笑う。


 その表情はどこか狂気に満ちていた。


 内心恐怖した。


 でも、その一方で彼はこういう人間だと思えた。


 なんでだろう? 勘?


 「しー」「しー」


 子どもたちが指を口元に当てていた。


 その視線の先。


 茂みが動く。


 その中からガサガサと大きいぬいぐるみがゆっくり現れた。


 それはうちの知るノースちゃんの姿そのものだった。けど、少し違う。


 まずノースちゃんは歩かない。


 それは良いとして、なんだろう…… 色が少し濃いい気がする。


 そもそもノースちゃんはピンク色(なんでそんな色をしているのかは知らない)をしているのだ。いま、うちらの前をのし、のしと歩くそいつはそれよりも濃い、赤色というか、赤よりも深い赤色をしていた。


 でも胸のハートも含め、姿形は同じだった。


 「ん?」


 茂みから見えるノースちゃんは何かを持っていた。


 赤黒い、ハンドボールサイズの歪なもの。


 なんだろ? あれ……


 ノースちゃんはそれを


 近くにあった白いクマのぬいぐるみに押しつけた。


  ぐちゃっ


 何かが潰れたような、押し込まれたようなそんな不快な音とともに、その塊は消え、かわりに白いぬいぐるみは赤く汚れていた。


 「まさか……」


 八白の表情が曇る。


 それは八白には珍しく、どこか不安そうな、そんな表情だった。


 「桃子さん、逃げるよ」


 そう言って、八白はうちの手を引く。


 「え?」


 うちは八白の行動に驚いた、わけではない。


 別のことに声を上げた。


 その赤く染まった白いクマのぬいぐるみ。


 動いたのだ。


 手足をバタつかせるが、頭でっかちの大きい頭が邪魔で上手くバランスが取れないようで、それでも必死に直立しようとしていた。


 命を得たように。


 生きているように。


 「桃子さん!」


 八白の声に呼び戻された。


 ハッとしたとき、手遅れだった。


 辺りの殺気に気がついた。


 うちらの回りには無数のぬいぐるみや人形が立ちあがっていて、それぞれがじーっとうちらの方を見ている。


 「ハッ、最悪だよ」


 最悪。


 そう言いながらも、楽しそうに笑っている八白。


 「ケケケッ」「キキキッ」


 つられてか、異形の子どもたちも笑っている。


 「わ、笑ってる状況じゃ……」


 ない。


 そう言おうとしたとき。


  ガサッ


 うちのうしろに赤色の腕が見えた。

















 「あやめ、どうしたんだろう?」


 汗をかきながらオレは一人で帰路につく。


 帰るよとあやめに声を掛けたんだけど、用事があると一言言われた。


 めずらしい。


 そんなこと言うと怒られそうだったので、すごすごと一人で帰ることにした。


 でも、気になる。


 「あら、また会いましたね」


 「え?」


 そこにはあやめの姉貴がいた。


 しかし朝会った時は巫女服姿ではなく全身真っ黒なスーツ姿だった。声をかけられて数秒は誰だか全然分からなかった。


 「え、あ、どうも」


 オレは緊張からか恐怖からか、受け答えがしどろもどろになる。


 「あやめは一緒じゃないのね」


 「あ、はい。なんか用事があるとかで」


 「ふ〜ん。あの子が用事……」


 めずらしい。


 そんなことをボソッと呟くあやめの姉貴。


 「お姉さんは、こんなところで何を?」


 「そうね。ちょっと喫茶店に寄った帰りよ」


 「その姿で、ですか?」


 思わず口に出てしまったその言葉に、あやめの姉貴はクククッと声を殺して笑う。


 やっぱり怖い。


 「この姿はちょっと人に会うから、そのためよ」


 人に、ね。


 笑顔なのにどこか闇のあるその表情。オレは堪らずこの場から逃げたくなった。


 「そうね。そろそろ来るから早く帰りなさい」


 来るって何が!?


 なんだろう。この人の言葉、全て含みがあって、バカなオレじゃあ理解出来ない! すごく気になるんだけど。


 しかし、そんなオレの気持ちに構う気など無いようだ。


 「またね、直さん」


 そう言い残し、あやめの姉貴は背中を向け去っていった。


 オレはしばらく、ぼんやりとその背中を見届けることしかできなかった。


 「な、なんなんだよ。まったく」


 今度あやめに会った時、姉貴のこと聞いておこう。


 話して、くれるかな?


  ポツ ポツ ポツ


 「あ」


 雨だ。


 オレはかばんから折りたたみ傘を取り出し、ゴソゴソと差した。


 そろそろ来るって、このことか?


 あやめの姉貴の言う通りだ。


 夏の雨。


 オレはどこか胸騒ぎを覚えながらも、よく分からずそのまま帰ることにした。


 「ん?」


 雨の音が傘の中で反響する。


 あれ?


 そんなリズミカルな音を聞きながら、オレの頭はドロッとした怖さに襲わる。


 あやめの姉貴が去った方を見るが、そこには誰もいなかった。


 オレ、あやめの姉貴に名乗ったっけ?











 ボクはどうかしていた。


 ピンク色、というよりは緋色(ひいろ)に近いセンスの悪いクマのぬいぐるみ。


 なんだったっけ? ノースちゃん?


 いや、名前なんていまはどうでもいい。


 そのぬいぐるみが桃子さんの胸、つまり心臓の方に手を伸ばしていた。


 ボクは気づいていた。


 さっき、この緋色のぬいぐるみが、白色のぬいぐるみに入れていたもの。


 あれは動物の心臓だ。


 それが人間なのか、犬なのか、猫なのか、鳥なのか、ヌートリアなのか、そんなことは知らない。


 でも、分かっているのは、この緋色のぬいぐるみが白いぬいぐるみに心臓を入れたら、白いぬいぐるみが動き始めた。


 それだけで十分。


 この緋色のぬいぐるみは危ない。


 この緋色は単なる怪奇じゃない。


 そう思った。


 その矢先。


 目の前の緋色は、桃子さんに手を伸ばしている。


 心臓に手を伸ばしている。


 瞬間。


 この後、何が起こるか頭の中に流れ出す。


 めり込むぬいぐるみの腕。


 赤い心臓。


 血塗れ。


 いけない。


 いけない。


 いけない。


 また。


 「ケケケッ」「キキキッ」


 スローモーションの世界の中で、小羊たちの嘲笑が響く。


 三日月のように裂けた口から零れる声。


 「なにが欲しいの?」「なにがいらないの?」


 悪魔の囁き。


 ボクは知っている。


 こいつらこそがきっと単なる怪奇じゃないことを。


 でも、ボクは


 凛として答える。


 「出口が欲しい、あいつはいらない」


 刹那。


  バキバキバキバキ


 恐ろしい音を立て、小羊の一匹の姿が変わった。


 人とも羊とも、獣とも悪魔とも敬称できないそれは、灰色の化物と化していた。


 あまりの出来事にボクも理解が追いついていない。


 それは緋色のぬいぐるみも同じらしく、桃子さんに伸ばす手を止めてこちらを警戒していた。


 「ガガァァァぁぁぁぁぁぁぁぁあアアアア!!」


 地響きのような咆哮が森に木霊する。


 その灰色の化物の爪が緋色のぬいぐるみに勢い良く伸び


  ビリビリビリッ


 ぬいぐるみは赤色の何かをまき散らしながら無惨に宙を舞う。


 ボクも桃子さんも呆然していた。


  ビチャッ


 落下したそれの片腕は失く、そこから真っ赤に流れる液体。


 血?


 一体どうなってる。


 好奇心と恐怖が入り交じりながらその状況を見ている。


 すると。


 小さいぬいぐるみたちが灰色の化物に群がっていた。


 動きを封じているように。


 緋色のぬいぐるみがこれ以上傷つかないように。


 灰色の化物はそれを振り払うように暴れる。


「あ」


 その隙に緋色のぬいぐるみが森の茂みの方に逃げていくのが見えた。


 追わなきゃ……


 足が出ようとした瞬間。


 服を掴む手があった。


 見てみるとそれはもう一匹の方の小羊。


 「出口」


 そうボソッと呟く。


 その瞬間。


  ポツ ポツ ポツ


 大粒の雨が地面に降り注ぐ。


 空気中に水分がしみ込む。


 すると、ぼんやり、それでもあっという間に霧が立ち込め一面真っ白になった。


 真っ白の中。


 うしろの方だけ明るく、道が見えた。


 出口だ。


 そう、ボクは欲しいもの。


「ほら、桃子さん、立って」


 放心状態の桃子さんを支え、ゆっくり出口へ向かう。


 うしろから聞こえる化物の怒号は


 公園から出るまで響き渡っていた。

















 私は一人。


 「どうなったかな?」


 私は誰もいない教室でひっそりつぶやく。


 教室から見える外は雨模様。


 今日、傘は持ってきていない。


 だって、予報では雨が降るなんて言ってなかったし。


 置き傘なんてしてるわけない。


 雨は嫌だなぁ。


 ま、濡れたって構わないけど。


 私は一人。


 私は待っている。


 早く時間にならないかな?

















 「あぁ、ビックリした」


 そんな簡単な感想にボクは(がら)になく驚いている。


 ここはいつもの喫茶店。


 桃子さんはいま白いシャツと黒いパンツ姿、いわゆる店の制服だ。


 放心状態の桃子さんをこのまま帰すわけにも行かず、喫茶店に連れて来た。マスターは雨と泥でぐしゃぐしゃになった桃子さんを見るや否や、ボクを殺すような目つきで睨みながら、桃子さんを奥の部屋に連れて行った。


 ボクもそれなりにドロドロなんだけど……


 ボクはタオルをいただき、桃子さんは着替えをいただき、ついでにあたたかい珈琲までいただいている。


 「お代はあなたからいただきます」


 え?


 「はぁ、しあわせ」


 桃子さんは珈琲を飲みながら、そんな一言を漏らす。


 ボクの前にも珈琲が一杯。


 それと角砂糖の小瓶がニつ。


 ミルクはない。


 小羊たちはボクの横でスヤスヤと眠っている。


 二匹ともだ。


 公園を抜けたあと、変身した一匹は何事もなかったかのようにボクらのあとを追ってきた。


 何事もなかった。


 そんなわけはなかった。


 あー、とても怖かった。


 そして、とても楽しかった。


 そんな複雑な心情。


 ボクは珈琲を一口啜る。


 「あれ? 何も入れないの?」


 おっと、忘れていた。


 でもまぁ、いいか。


 今日だけ。


 「ねぇ、八白、あんたなんでノースちゃん探してたの?」


 不意な質問にボクは暫く考える。


 あれは手紙からだ。


 きっと言わないべきなんだろうけど……


 ここまできたら関係ない? 言うべきか?


 そんな気持ちを察してか、桃子さんは言う。


 「ま、言えないならわざわざ聞かないけどさ。もし誰かがあんたにアレ探してってお願いしたんだったら、そもそもおかしいなって」


 「え?」


 おかしいって?


 「だってそうでしょ? ノースちゃんはピンク色だけど、あれはどう見てもピンクじゃないよ。どっちかって言うと赤色」


 赤色。


 ボクは緋色って格好つけて思ったけど、確かにそうだ。


 あれはピンクか赤かと言われれば、誰がどう見ても赤と言う。


 「あんた最初『ピンク色の熊、知ってる?』ってうちに聞いたからノースちゃんって答えたけどさ。アレ、ノースちゃんかもしれないけど、ピンク色の熊じゃないよね。そもそも」


 ボクは唖然とした。


 そうだ。


 桃子さんの言う通りだ。


 もし、本当にアレを消して欲しいなら『ノースちゃんのぬいぐるみの化物』か『赤色の熊のぬいぐるみの化物』と書くべきだ。


 仮にノースちゃんを知っていても、あの色を見てわざわざ元の色、つまりピンク色とは言わない。


 ということは、この差出し人は今のアレの色を知らない? むしろ昔の色しか知らないってことか?


 ちょっと待て、アレがいつ生まれたか知らないけど、あの色や状態から見て少なくとも数年は経っている。


 でも、手紙のおまじないがはじまったのはここ2〜3ヶ月前。


 おかしい。


 じゃあ、あの手紙は


 一体、誰が書いたんだ?











 私は一人。


 傘も差さず、夜の道をゆっくり歩く。


 雨の日は空気が澄んでいて気持がいい。


 駅の近くなのに人通りはほとんど無く、かわりにLEDの青白い街灯が行き先を照らしている。地面に溜まった雨が反射し、いつもより明るく思えた。


 その夜道のポツンと。


 オレンジ色のライトが見えた。


 あたたかい光。


 私は(はや)る気持ちを抑えつつ、でもできるだけ早足で光の方に向かう。


 そのライトが照らす扉。


 そこには『Bakery Jam』と書いてある。


 中から甘い香りが(あふ)れ出ている。


 彼女に言われ出した手紙。


 きっと、彼のもとに届いている。


 私のミッションは事無くして成功したのだ。


 彼がどうなったかは、彼女がきっと教えてくれる。


 もしかしたら、ご褒美がもらえるかもしれない。


 心が高鳴る。


 早く美味しいジャムパンが食べたい。


 私は雨に濡れていることなんてお構いなしに扉を開いた。


 扉を開けた瞬間、私の脳は甘い香りに溶けていった。

















 「里崎先生……」


 私は雨の夜道を一人立っていた。


 冷たい夏の雨が私の身体から熱を奪う。


 いや、それ以上に不信感というか不安というか、どす黒い気持ちが私の心を凍らせていく。


 私はあいつが、八白樹が先生の弱味でも握って堂々と学校をサボったぐらいのことを思っていた。また変なことをはじめると考え、今度は先手を打とうとした。


 それぐらいの軽い気持ちで先生を尾行した。


 そのはずだったのだけれど。


 「ここは、最悪」


 先生の入っていった店。


 きっと、この街のどこよりも良くない。


 そう感じる。


 私は物音を立てないよう細心の注意を払い、その場から遠ざかる。


 一歩一歩。


 気味の悪いライトが見えなくなるまで、ゆっくり。


 私は暗闇に身を隠す。


 ブルーライトとオレンジライトが入り交じる夜のパン屋。


 ここに魅入られた者は


 きっとただでは戻れない。

















 「あら、本当に美味しい」


 いつも通りの落ち着いたジャズが流れる店内にはじめましてのお客様が一名。長身の女性がカウンターに座り、縁 (よすが)あおいの珈琲に感想を零す。


 初夏といっても気温は30℃を超えている今日の日の昼間に、その女性は真っ黒の手袋をし、真っ黒な喪服のようなスーツに黒いネクタイを着こなしている。どこか異様なオーラをまとっており、とても普通のOLには見えない。長い黒髪を首のあたりで結っており、顔とその首筋は薄白い。


 その黒尽くめの女性はホットであろう黒い珈琲を静かに飲んでいる。


 汗など微塵もかいていない。


「本当に、とは失礼です」


 縁は静かに、そして不服そうに言う。


 縁はカウンターのむこう側に凛と立っていた。まるでその黒尽くめの女性と距離を取っているかのように。


 「ふふふ、冗談です。気にしないでください」


 黒尽くめの女性は笑顔を作り謝罪の弁を述べる。


 しかし、その表情は全く笑っていない。


 そのままゆっくり、ゆっくり珈琲を口元へ運んでいく。


 「最近、奇妙なものをよく見ます」


 縁が呟く。


 「奇妙?」


 その言葉にピクンッと反応した黒尽くめの女性は珈琲カップをソーサーに置き、縁の次の言葉を待っているようだった。


 「心、というよりは命ですかね。それを持つ偶像があちこちで見られます」


 「偶像……ねぇ」


 「はい。偶像です」


 そうすると、縁は棚の上から手のひらサイズの赤いボールみたいなものを取り出してカウンターに置いた。


 それは、だるまだった。


 ところどころ赤茶色に汚れており、その片目は読めない文字が書いてあるお札でしっかり隠れていた。


 不気味な雰囲気を放つそのだるま。


 黒尽くめの女性は不思議そうにそれを見ている。


 「八百万(やおよろず)の神々とはよく言ったものです。昔はよくある話ですが、今この時代は違います」


 だるまは動かない。


 いや、それきっと当たり前のこと。


 「信仰が無いのに生き続ける神は『神』ではありません。それはただの『偽者』です」


 偽者。


 その辛辣な表現に黒尽くめの女性の表情が曇る。


 眉間にしわを寄せ、何か考え込んでいるようだった。


 「そんな『神』でもない、ましてや『創り者』でもない、そんな命だけ(さず)かった『偽者』が、至るところで見受けられます」


 縁は淡々と言葉を綴る。まるで神様を弁護し、偽者を憎んでいるかのようなそんな雰囲気であった。


 そして。


 「さくら、あなたは何か知りませんか?」


 さくらと呼ばれたその黒尽くめの女性は珈琲を啜る。


 その口元はうっすら笑っている。


  カツンッ


 音をたてソーサーにカップがおさまる。


 カップの中の珈琲は飲み干されており、カップの白い底がぼんやり浮かびあがる。


 「あおいさん、私は存じ上げません」


 凛とした一言。


 さくらは続ける。


 「それにもし、万が一、仮に、その偶像が『偽者』だとしても良いじゃないですか。『神』がいるから信仰が生まれる、という時代は終わりました。信仰から生まれる『神』がいたって悪くはないでしょう?」


 神が先か。


 信仰が先か。


 そんな正解が見えない議論。


 しかし、どうやらそれに決着をつけるつもりはないようだ。


 「ご馳走様でした。仕事がありますので、ドーナツのサービスはまた今度の機会にいただくとしましょう」


 そう言うとさくらはテーブルにお代をピッタリ置く。


 縁はため息を吐きながら、首を振る。


 諦めか、落胆か。


 はたまた他の感情か。


 いまこの場にいる誰にも分かるはずがない。


「さくら、神職のあなたがそんな格好で一体どこへ行くのですか?」


 縁のその言葉にクククッと笑うさくら。


 何がおかしいのか分からない。


 そんな表情の縁はカウンター越しにさくらを見つめる。


 さくらは人差し指を立て、口元に当てる。


 そして、意地悪そうに言う。


 「もちろん。神様に()いに行くのです」


 神様は無限にいらっしゃいますから。


 そう言い放ち、靴をカツカツと鳴らし、店の外へ出て行く。


  ガランッ ガランッ


 乱暴に閉まる扉。


 残された縁は、カウンターのむこう側から悲しそうな表情でその扉を静かに見つめていた。


 カウンターに残った珈琲カップ。


 縁はお盆を手にこちら側に来る。


 カウンターのこちら側。


 空っぽのカップを見て、縁は一言言葉を零した。


 「あなたは以前、私のことを変わってしまったと言いました」


 縁はソーサーからカップが落ちないように慎重にお盆に運ぶ。


 カチカチと音を立てお盆に帰るカップ。白い肌にさくらの妖艶な口紅の赤色を残したまま、震えるのを止めた。


 静寂の店内。


 縁はぼやく。


 「それは、あなたも同じです。さくら」


 悲しみにも怒りにも似たその声色に、店内の間接照明が揺れる。


 いや、それきっと単なる勘違い。


 いや、でも、もしかしたら。


  ポツ ポツ ポツ


 屋根を打つ雨の音が店内に静かに落ちていく。


 夏の雨が、降り始めた。






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