↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の吸血鬼は、宿敵を愛する  作者: さかさき まる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/33

第七話 押し付けられた善意

 朝の森は鳥の囀りと、太陽の光で満ち溢れていた。ステラは思わず軽くなる足取りのまま、小川が流れる森の奥へと進む。

 今日も母親は元気だった。厨房に立って、パンまで焼いてくれたのだ。ステラがこの前、本邸のお姉さまの厨房から拝借した小麦粉と卵で。

 だからステラは木苺を摘みに、外に出かけた。大好きな母親にジャムを作ってあげるために。


「砂糖は昨日の夜に、お姉さまの厨房から頂いたから……木苺の他にもブルーベリーはまだあるかしら」


 誰からも助けてもらえなかったので、ステラは森の恵みで生き抜いてきた。木の実や魚など、ステラの体力でも簡単に手に入るものはたくさんある。


「あれは、誰?」


 別館のさらに奥にあるこの森に、近づく人はいない。最近来たのは吸血鬼と、首がなくなった兵士だけだ。もしかして、森の茂みに自分で落ち葉をかけて放置したあの死体を探しているのだろうか。まだ、獣たちが食べきっていないから、誰かが来たらまずいのに。


 ステラは木の陰に隠れて、小川で手を洗っている男性を見つめた。彼は周囲を見渡して、何かを探しているようだった。

 金色の髪をしていた。身なりからして貴族のようだ。濃紺の上着に青い宝石の装飾、銀糸の刺繍が施されていて、見ているだけでお金持ちなのがわかる。


(あの宝石でも落としてくれれば、売ってお金にするのに……)


 ふと、男性が顔を上げた。優しげな顔立ちの彼は、翠の瞳を大きく見開いた。ステラは邪な気持ちがバレてしまったような気がして、足早にその場を後にした。


 ◇


 今朝は余計な邪魔が入って木苺もブルーベリーも手に入らなかった。木の根元に座り込んでいたステラは、ほとんど消えかけた細い月を見つめながら、ため息を吐いた。

 万が一、もしかしたら、そう思って毎日森の中に来ている。約束の夜にはまだ早いけれど、シリウスが気まぐれで来てくれているかもしれない。


「明日の朝はブルーベリーを探しに行こうかしら」


 つぎはぎだらけのワンピースの裾を直しながら、ステラは重い腰を上げた。彼は契約だと言いながら、ステラにあまり要求してこない。それがひどく不安なのだ。


「あなたは、今朝の……」


 後ろから声がした。ステラは、聞き慣れない声に振り向かずに逃げようとして、腕を掴まれた。


「な、なに!」

「違うんだ! あなたに聞きたいことがあるだけだ!」


 無理やり引っ張られて、ステラはよろめいた。


「あ……あぶなかったね」


 今朝の男性だった。彼は自分で引っ張ったからこうなったのに、まるで無償の善意であるかのように心配そうな顔をしてステラを支える。


「なんでしょうか、いきなり……」

「きみは別館の下働きなのかな? 僕は、ステラ王女殿下を探していて」

「王女殿下を? なぜでしょうか」


 思いっきり不審な目で見てしまった。自分が王女だと思われることはないという確信があったステラは、金髪の男性に堂々と探りを入れる。


「それは、色々あってね。それよりきみが別館で働いているなら、王女殿下にこれを渡してほしい」

「手紙、ですか……あなたは?」

「僕は、アンタレス王国の使者だ」


 アンタレス王国、先日聞いた名前だ。お姉さまの婚約者がいる、最近国王が暗殺された国だった気がする。握らされた手紙には、何度か目にしたことのある隣国の紋章が押されていた。


「これを、王女殿下にお渡しするだけでいいのですか?」

「ああ、できれば返事をもらってきてくれ」

「返事、ですか……」


 物腰柔らかく色々と要求してくる、アンタレス王国の使者。下働きに向ける笑顔にしては優しすぎる微笑みに、ステラは警戒を強める。

 彼は、三日後にまた来る、そう言ってこちらの返事も聞かずに踵を返した。厄介ごとの気配がして、ステラは手紙を捨てるかしばらく迷った。


 ◇


『病床に臥しておられるステラ王女殿下の援助をしたい。そして、今後も定期的に交友を重ねたい』


 アンタレス王国の使者からもらった手紙は端的にまとめると、そんな内容だった。問題は差出人がアンタレス王国の王太子、レグルス・フォン・アンタレスだったことだ。


「わたしって病床に臥してるんだ。それに、援助ってなに?」

「善意のお申し出に、そんな顔をして……」


 朝から不満そうに手紙を読んでいたステラの姿を見て、母が笑った。でも、仕方がないと思う。一番必要だった時には、誰からも助けてもらえなかった。

 母が元気になった今、援助の申し出なんか必要ない。ステラは押し付けがましい善意に、不満があった。


 今更、降って湧いた援助なんか信じられない。お姉さまの婚約者なんて、関わりたくもない。だいたい、交友って何をするのだ。


 何故ここまで、この手紙に苛立つのかわからないまま、ステラはちらりと視線を上げた。


 目の前で母が、幸せそうに紅茶を飲んでいる。


 そう、母を助けてくれたのは、シリウスだ。彼のおかげで、母は生きている。

 今夜、新月になる。ステラは小さく首を振って、押し付けられた善意を頭から追い出した。

 彼が望むことを叶えないといけない。それが今のステラの生きる理由なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。