27.襲撃
「る、ルリハ様っ!?」
「よし」
私は気持ちを奮い立たせ、顔を笑みの形にする。うまく笑えているかは分からないが、確かに笑顔でヴィスキオ様を見上げた。
「心配かけて、ごめんなさい。でも、私、自分で望んでこの場に来ました。だから、大丈夫」
私は自分に言い聞かせるように、大丈夫、を繰り返す。
ヴィスキオ様は心配そうな顔をしているが、私は彼から視線を外して、真正面からけが人を見つめた。
「遅れました。私も治癒にはいります」
そう宣言し、私も指示をもらって、けが人の治癒を始めた。
私の治癒魔法はシエロ様から見ても精度が段違いだと、保障してもらっている。
実際に重傷者へ実行するのは初めてだが、うまくいくはずだ。
私は肩から腰にかけてザックリと切り傷を負っている男性に近づく。どうすればこんな傷を負わされるのか、私は自分もケガを負ったような気持ちで顔をしかめながら、膝をついて男性の体にそっとふれた。
「もう、大丈夫ですよ」
集中し、魔力を練り上げる。
高まった、と思った瞬間に――放出。
黄金色の光が手のひらを介して、男性の傷を包み込んだ。
光が晴れた後には、すっかり綺麗になった肌が見える。
「ふう」
私は無事成功したことに胸をなでおろし、ふと、ポカンと口を開けた救護班の1人と目があった。
なんだろうかと首をかしげ、自分がやらかしてしまったのかもしれないと焦り始める。
「ご、ごめんなさいっ。私、なにかやっちゃったの――」
「すごい、すごいすごいすごい!! 班長!! すごい人見つけちゃいましたーっ」
今度は、私が呆気にとられる番だった。
丸眼鏡をかけた彼女は、興奮した様子で救護班の班長に叫んで報告する。
ボサボサ頭の班長は、ああ? とうろんげな目を一瞬だけこちらに向けた。
「いいから手を動かせボケナス!! それに、すごいって具体的には」
そう言いながら、私が治癒した人を見つめてピタリと動きを止めた。
「すっげえな!!」
「でしょーっ!」
そして次に、私に鋭い視線を向ける。
「おいあんた!」
「は、はい!」
「見ねえ顔だが応援か!? 次はあっちの、重傷者を頼む!!」
「は、はい!!」
私は急いで指示された方へと駆ける。
どこがすごかったのか、正直私にはピンとこない。それでも、頼られたことは素直に嬉しく思え、こんな状況にもかかわらず頬が緩んだ。
治癒を必要としている人のところまで行くと顔を引きしめ、集中力を高めた。
「うああぁっ」
治癒を始めてしばらくしたとき、何かが迫るような地響きを感じて私は頭を上げた。
そして、目に映った光景に頭が真っ白になる。
――魔物が、すぐそこまできていた。
黒い霧を固めて形を成したような漆黒の体。魔物は、漆黒の体を持つ動物のような見た目をしていた。動物の種類は様々で、ウサギやイヌのようなものからクマのような巨体な魔物もいる。
なにかが腐ったような嫌なにおいが鼻を刺した。
おそらく前線で捕えきれなかったのだろう魔物たちが、救護班のいるこの場所を襲ってきていた。
「くそ! 魔物がこっちまで来るなんて!!」
「荷物をまとめて、後退するわよ!! けが人を前に!!」
全員急遽、移動を開始するが、魔物の速度に敵わない。こちらにはけが人もいるのだ。
彼らを見捨てることも出来ず、私たちはみるみるうちに追い詰められていく。
「魔物が、もう……っ」
誰かがそう叫んだ瞬間、私は煌めく剣戟を、見た。
「みなさん、もう少し走ってください!! 我々がここで魔物を引き留めます!!」
そう叫んだのは、剣を手に華麗な手つきで魔物を切り捨てるヴィスキオ様だった。
ヴィスキオ様は私たちに背を向け、魔物に斬りかかる。私たちの護衛をしてくれていた人たちもヴィスキオ様に続いた。
魔物は斬られると一時的に動きを弱らせるが、瘴気を取り込み再び立ち上がる。
魔物を倒すためには、瘴気を浄化しないとどうにもならないという言葉を思い出した。
ヴィスキオ様たちも【浄化の雫】は持参しており、一部の魔物はそれで浄化できるが、現存する【浄化の雫】はほとんどが前線に持って行かれている。
この場をなんとかできるほどの在庫はなかった。
「おい、あんたなにしてんだ!?」
「あ……」
「早く後退しろ! 作ってもらった時間を無駄にすんな!!」
ヴィスキオ様を置いていくことができずに立ち止まっていると、乱雑に肩をつかまれた。
そう言われるが、私はただ視線を揺らす。
ヴィスキオ様と、救護班の方向とを順に目をやり、くちびるを噛んだ。
「ごめんなさい!」
「おい!?」
私が選んだのは、ヴィスキオ様の方向だった。




