特待クラス その1
ケルヌを出た先の国の首都の宿屋。
格式は程々に良く少し王城から離れた場所にある宿屋が1週間程前からとある一団の貸切となっていた。
宿屋の主人夫婦以外の従業員は課題を与えられ各所に散っている。
とあるものは食材探し。
別の者は別の宿屋で修行。
何人かは食器や寝具、調理器具、家具等宿で必要となるものの修理や新調するために職人街に出掛けている。
はたまた農家で農業体験をしているものなんていうのものもいる。
それに掛かる費用の一部は貸切にした一団が負担している。
「ザッシュは頑張っているようですね。」
宿屋の一室で主人夫婦は届いた息子からの報告書に目を細めていた。
最初に貸切の話を聞いた時、従業員一同で世話をするものと思っていた。
が、話を持ってきたマイルズ商会の役員より、主人夫婦以外、出ていくように言われて激怒したのも記憶に新しい。
詳しい話を聞くと別に辞めろと言う意味ではなく守秘義務やら色々あるので一時的に別のところに移って欲しいということだった。
こちらから斡旋するので別のところに研修に行かないかと提案された。
何でマイルズ商会の御用達の宿にしないのかというと宿の規模と立地で適当なところが無いからと答えが返ってきた。
貸切開始日当日、宿の備品は全て倉庫に預けられた。
その後徹底的に掃除され、品の良い家具が持ち込まれる。
それから3日後。、宿の主人夫婦は見違えるほど磨き上げられた室内を見る。
「これを買い取らせて頂けないでしょうか?」
宿の主人の言葉に役員は首を横に振った。
「これらの大半はオーダーメイドの非売品です。」
そんな宿の一室で二匹の猪は陽だまりでお昼寝をしていた。
その横で必死に与えられた課題をこなすハンスとフラン。
時間内に書き上げたレポートの採点を待つ二人にクレスは茶菓子とお茶を持ってやってきた。
「お疲れさん。」
「有難うございます。」
本日の教師役はトレイシー。
ケルヌではあまり使われることのない魔道具についての講義とそれらについてのレポートである。
必死に頭を使って書き上げた二人は甘い茶菓子を口に運んだ。
「疲れました・・・」
机に突っ伏す二人にフィルとセルロンがやってきて構えと言っている。
ハンスの膝を占拠した白いウリ坊はご機嫌だ。
採点前のハンスのレポートを軽く読んだクレスは元の場所に戻す。
「着眼点は面白いけど捻りは足りないね。
指摘内容、確か効果を上がるために必要な魔力量が想定以上に多くなったんで不採用だったと思う。」
「そうですか・・・」
残念そうなハンスにフランが言葉を挟む。
「クレスさんって騎士科ですよね。」
「そうだよ。」
「それでわかるんですか?」
「騎士科でも魔道具は使うからね。
まあ俺の場合はトレイシーやエリスさんから色々話を聞いてるからだけど。」
ほっと息を吐く二人にクレスは言った。
「まあ、今回の課題、文官科の1年前期の選択科目の内容だよ。」
「と言うことは騎士科じゃ習わない?」
「取らない奴が多いけど、兵站や開発希望なら取るかな。」
「・・・」
「これ必要なんですか?」
ハンスの言葉にクレスは答えた。
「騎士科所属ならいらないけど、君達王女の護衛ということで特待クラスを目指すという話だったよね。」
「・・・はい・・・」
「護衛じゃなくてもフィルやセルロンと一緒に居たかったら特待クラスじゃないときついよ。」
「どういうことです?」
「君達、高位貴族扱いだから一般クラスだとそっちの寮に入ることになるけど、
そっちだとフィルはセルロンは厩舎、同じ部屋には無理だ。」
「それはそうでしょうけど・・・」
「メヌエルじゃ神獣や聖獣はいないから、猪は狩りの獲物だ。
安全を考えたら特待クラスの森じゃないと不味い。」
「そっちだと安全なんですか?」
「特待クラスには王族とか居るから部外者は敷地に入った時点で罰則の対象になる。
ついでに客人の相棒を傷付けるような不心得者は特待クラスには入れない。」
そう言ってクレスは安心させるように笑う。
「かって鷲やら鷹やらを室内で飼っていた王族が居たし、猫や犬も居る。
女子寮には水槽で魚を育てている生徒もいるそうだ。
流石に馬は厩舎にいるけどね。」
「大丈夫なんですか?苦手な人もいるでしょう。」
「広いからね。
王族用に共用部分も含めて独立している建物もあるし。
今の男子寮に動物が駄目な奴はいないから一階の広めな部屋に入ることになると思うよ。」
レポートにチェックを入れながらトレイシーが口を挟んだ。
「それ、俺もびっくりした。
訓練の手伝いで中に入ったら普通に部屋を貸して貰えたんで。
聞いたら特待クラスって上位何人というんじゃなくて一定レベル以上の成績を取ったものなんで1学年の人数のばらつきが大きいみたいだ。」
「女子の方は年に大体2~5人だから一纏めにしているけど、男子の方は大きく4つ位の寮に分散している。
大体派閥単位で文官や騎士、学年とか関係ない。」
「派閥・・・」
「王家派、貴族派2つにその他かな。その他が一番人数が少ない。」
「何で?」
「高位、それも王家や公爵家の支援も無い一般平民や低位貴族が特待クラスに入ることが殆どないからね。
君達は僕と一緒に来年の入学までその他寮に入ることになるよ。」
「はい・・・そう言えば部外者禁止なのに何でクレスさんは特待クラスにエリアに入れるんです?」
「騎士爵だからね。特待クラスの護衛騎士扱いで入っている。
お陰で前期、2年どころか3年、騎士科卒業に必要な授業の殆どを取る羽目になった。」
「げっ・・・そう言えばサーシャさん、1年で淑女科卒業に必要な授業を全部取ったって言ってましたね・・・」
「特待クラスって言うのはそういうところなんだよ。
大体1年で騎士科、文官科の卒業に必要な授業を全部取る。
女子の場合はそれに淑女科の必修教科が追加される。」
「卒業に必要なじゃないんですね。」
「ああ。淑女科は貴族夫人となるための学科だからね。
文官や騎士志望の女学生はお茶会や夜会の主催向け授業は必須とされていない。」
その言葉で誰を指しているか分かった。エリスだ。
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