16_魔物寄せ その1
少しして先程の食堂に主なメンバーが集まる。
「魔物寄せねえ。森ならともかくこんな街中で使って意味があるのかね。」
「忘れたのか。ここはケルヌ、獣の国だ。
神獣や聖獣に訓練された獣の数は我が国の比ではない。
それに獣相を持つ者が多くいる。」
もしそれらが王女の馬車を襲ったら・・・戦争になってもおかしくない。
サーシャや団長の腕なら多少の獣なら何とかなるだろう。
が襲ってくる獣は誰かの友人、家族だ。
それらを殺さずに無力化できるかというと不安はある。
下手に傷付けたり殺したりすれば飼い主の側は罪に問われ、また大事な存在を傷付けられたことで恨みを買う。
どっちにしても碌なことにならない。
そこへ真っ青な顔の支部長と宿の支配人がやってきた。
「誠に申し訳ありません!」
支配人が土下座する勢いで頭を下げた。
「謝罪はよい。分かったことを話せ。」
団長の言葉に支配人が言うには今朝、マイルズ家の制服を着た使者が新作の魔物除けを持ってきたのでそれを出発前に振り掛けたということらしい。
支部長に団長は視線を向ける。
「確かに今回の荷に魔物除けの新作はあります。
が、確認も済んでいないものを持ってきたりしません。」
そもそもそんな使者は出していないとのこと。
「使った魔物除けは確保したか。」
「はい、こちらです。」
瓶には半分以上残っているのでサーシャが1滴手に垂らして確認する。
「この臭い、間違いないです。」
春先の王女襲撃犯が使ったものと同じだとサーシャは言った。
「あれか。」
あの事件で実行犯が持っていたのはそれだけで検証に向かった騎士達は現物を確保できていなかった。
「一部を取り分けて国に送れ。」
「残りはどうします?」
「ケルヌ側に引き渡す。」
そんな会話をしている内にケルヌ側の使者が宿にやってきた。
時間になっても王女達が出てくる様子が無いので確認しに来たらしい。
「事情は分かりました。」
「申し訳ない。調査が一段落するまで王城に行くのは取りやめる。
状況については夕方に一度報告する。」
「承知しました。その魔物寄せ、こちらで預かりたいのですがよろしいか。」
「ああ、国に送る分とこちらの調査用に一部取り分けた残りはお渡しする。
ただ、それを振り掛けた飾りを持って厩舎の近くを通ったら訓練された筈の馬が暴れたのでな。
取り扱いには注意して欲しい。」
「承知しました。」
そう言って使者は瓶を念入りに包んで城に戻っていた。
その様子を見ていたクレスが言った。
「なあ、これを受け取った人って振り掛けた人を同じか?」
「はい、そうです。」
答える支配人。
「そいつ、拘束してあるのか?」
「はい・・・一室に閉じ込めてありますが・・・」
「そいつ、何か暗示でもかけられていないか確認した方が良い。」
団長と部下の騎士は目を合わせると部下は部屋を出ていく。
「俺達が新しい装備を手に入れたら必ず慣らしをする。
余程の緊急事態でもない限り即実戦に使ったりなんてしない。」
サーシャや団長達が頷く。
「支部長さんも言っていただろ。
確認が済んでいないものは使わないって。
なのにそいつ、知人でもない制服を着ていた奴が持ってきて指示したというだけでそんな怪しげなものを使ったんだ?」
真面な奴ならあり得ないだろとクレスは言う。
「当宿屋で働くものにそんな教育はしておりません。」
支配人の言葉に皆が頷いた。
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