フラグクラッシャー
3人のジョギングはまだ続いている。
サーシャが沈黙しているのでエリスとアリサも黙々と同じペースで走り続ける。
この二人の速度はマラソンランナー並み、一般人の全力疾走と同じ位の速度である。
そんな速度で遠くの夕陽を眺めながら3人は走っていた。
少ししてサーシャは顔を上げた。
「気になっていることがあるんですけど。」
「何かしら。」
3人とも余裕で会話している。
「前にマリア殿下があれのその後を話してくれたけど、
話題になったのは皇国出身者だけでしたよね。」
「それで。」
「ゲームであれの手先になったのって大半はこの国の人だったと思うんですが・・・」
ゲームでは各国には色々特徴がある。
この国は中世ヨーロッパ風で登場人物も欧州圏、金髪碧眼が多い。
対する皇国は古代中国がモデルになっていて黒髪黒眼、名前も中華風。
(2の舞台はケルト風であった。)
その言葉にアリサが答えた。
「それ多分私のせい・・・」
そう言って子供の時の子育て相談の話をした。
アリサ自身、少ししてあれ?この家ってあのイベントの関係者なんじゃと思ったそうだ。
「私のところも関わっている・・・」
エリスも続けた。
こちらは自分達の研究にすり寄ってきた貴族の中にイベント関係者らしき家があり、寄り家に相談。
結果幾つもの貴族家で当主の入れ替えが発生した。
その家では身分が下な相手から手柄の横取りとか悪用、成果の強奪とかをしていたらしい。
「そう言えば魔物寄せの薬を開発した家ってどこだっけ?話を聞かないけど。」
「そこ、悪質ということで潰された・・・」
エリスの言葉にサーシャはホッとしたようだ。
「良かった。これであの特異体に襲われる事件は起こらないのね。」
そして続けて言った言葉に2人は驚いた。
「3年程前、ワイルドバッファローの特異体に襲撃される事件があって、死ぬかと思ったんだよね。」
「大丈夫だったんですか?」
「うん、粋がっていた若手騎士は余計なことして大変だったけど古参の騎士と領民の協力で何とか仕留めた。」
それを聞いたエリスが「3年前、牛型の魔物・・・」と呟いている。
「どうかした?」
「それってスティーブンの回想イベントで出てくる尊敬する先輩が死んだって言う奴じゃない?」
「・・・一緒にいた若い騎士、尊敬されるような奴じゃなかったけど・・・」
「彼じゃなくて古参の騎士の方か、彼らがやられたことで出てきた別の部隊に居たんじゃない。」
「・・・それなら有り得る。そいつが馬鹿やったせいで酷く暴れたんで砦の方に救援を呼びに行ったから。」
救援が来る前に倒して美味しく頂いたんだけどね。とサーシャは笑う。
「美味しく頂く?」
「うん、特異体って普通のに比べて栄養も高いし美味しいんだよね。
牙とか毛皮とかも高く買い取って貰えるし。」
ここでサーシャは握り拳を掲げた。
「なのに!!!あの馬鹿、興奮させるから毛皮が傷だらけだし肉質落ちるし散々よ!!!」
ここで一呼吸
「あれが無かったら売値は3倍以上高くついたのに!
まあ、その時は結構な出張費貰っていたから、獲物は騎士団の物だから被害は無いんだけど。
おまけでお肉を一部貰ったんだけど、せっかくのお肉が固くなって台無しよ。
バッファローのお肉は美味しいのに。」
食べ物の恨みは恐ろしい・・・
聞くと記憶を取り戻す前から特異体の美味しさに気付いて両親や家族、領民を巻き込んでせっせと周辺の特異体狩りをしていたらしい。
入学前に体力がカンストする訳だ。
「最近は夏にポリー達3人でボアの特異体を退治して、これは美味しかったな。」
「ボア?」
「うん、気が付かれないようにそっと後ろから一突き。」
「暗殺者か」
アリサの言葉にサーシャは笑う。
「そうじゃないと暴れて肉質が落ちるのよ。毛皮も傷付くし。
まだ若い個体だったら猶更肉が柔らかくてジューシーだった。」
アリサとサーシャのやり取りにエリスは沈黙している。
それに気が付いてアリサが聞く。
「どうかしたの?何か気が付いた?」
エリスはアリサの顔を見る。
「今年の冬、東の農家で倉庫を荒らされたって被害が出たって話を聞いた?」
アリサとサーシャは首を傾げる。
「狙われたのは飼葉と種籾。冬で山に食料が不足したからだって言われていたけど。」
「それがあのボアだって言うの?」
そこでやっと次の冬に起こるスティーブンの猪退治イベントを思い出した。
「特異体は食べる量が多いから棲み処から群れを追い出すか自身が追い出される。」
「そうやって流れ着いたのが北東のあの村と言いたい訳?」
サーシャは暫く考えて言った。
「有り得る話ね。あれがそのまま成長すればあの姿になってもおかしくない。」
「サーシャ、今まで食べた特異体の情報教えて!」
「分かった・・・」
エリスの勢いに押されて頷くサーシャ。
夕食後、サーシャの記憶をリスト化したものを見てアリサは言った。
「特異体って昔は10年に一度出れば良い方だったけど。
最近多いのはサーシャのところが原因だったのね。」
「確かに実験で使う素材が手に入りやすくなって有難いと思っていたけど。」
とはエリス。
「美食家の貴族が特異体のお肉を買い漁る様になったから余所でも早い段階で討伐されるようになったのよね。」
エリスはリストをじっくり見ている。
「何か分かった?」
「多分だけど、2や3で起こる獣討伐イベント・・・半分以上は発生しなくなったんじゃないかな。」
「そこまで?」
エリスは黙って頷いた。
イベント発生フラグ、3人とも気付かぬうちに相当クラッシュさせていたようだ。
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特異体について
特異体は生殖能力が無く、種の限界を超えて成長する個体です。
特異体自体は昔から一定数生まれています。
体毛や角などに特徴があり、分るものがみれば直ぐに分かります。
通常は敵に狙われやすく群れからも追い出されやすいので早い段階で淘汰されます。
人里に出て被害を出すまでに育つのが10年に一度位です・・・
美味しいとバレて人間に狙われるようになったのでますます育ちにくくなったことでしょう。




