2 試合後
試合終了後、宮田はユニホームを着たまま、一人ロッカーに残っていた。
他の選手はみな宮田にねぎらいの言葉をかけて、ロッカーを出ていった。しかし、宮田はずっと無言のまま、手にしたバットを見つめていた。
静まり返ったロッカールームのドアが静かに開いた。
「宮田、ここにいたのか」
球団編成部長の西口信男がロッカーに入ってきた。
「試合後の記者会見なら、広報にちゃんと断ったはずですよ」
「わかってるよ。それにしても惜しかった。あのファウルがホームランなら、最高の引退試合だったんだがな」
「何か用ですか」
宮田が西口の方を向いて、不機嫌に言った。
「ああ、そうなんだが、今日は、やめておこう」
「いいえ、かまいませんよ。どうせ聞くなら、早い方がいい」
「そうか」
西口は少し考え込んだが、「わかった。君の今後についてなんだが――」
「俺は他球団で野球を続ける気です」
「ちょっと待ってくれ。その体でどこの球団が獲るって言うんだ」
「テストを受けます」
「テストを受ける?バカなことを言うな。走れない、守れないじゃ、小学生にも勝てんぞ」
「随分なこと、言いますね。俺はこれでも三冠王三回も取って、球団に三度優勝をプレゼントした」
「君の功績は認める。だから、球団としてもそれなりの地位を与えるつもりでいる。もちろん、君が望むならだがね」
「それなりの地位とは?」
「これはまだ口外するなよ。女子プロ野球のことは君も知っているな」
「ええ」
「昨年から、うちのチームのグループ企業が参入しているスター・レイカーズの成績が奮わなくてね。建て直しのために君に監督を務めてもらいたいとオーナーは考えておられるんだ」
「お断りです」
宮田はきっぱりと言った。
「おいおい、まだ詳しい話も聞かずに」
「聞かなくたって、わかりますよ。言いたくはないですが、女子プロ野球なんてプロ野球と比べたら、子供の遊びだ。選手は皆ソフトボール上がりで守備はへたくそ、野球のルールもまるでわかっちゃいない。ファンを集めてるっていったって、制服女目当てのマニアだけでしょう。現に最近では観客も減って、スポンサーが下りてるって話じゃないですか。そんなチームの監督になるなんてごめんですね」
「女子プロ野球のレベルが低いのはわかっている。しかし、だからこそ、君のようなプロ選手が技術指導して、レベルを上げていこうとは思わないのか。オーナーとしては君をただの監督ではなく、全権監督として任命しようと考えておられるんだ」
「オーナーの考えはわかっていますよ。女子プロ野球の人気が低いから、俺を監督にして人寄せパンダにしようと思っているんでしょ」
「……」
西口は頭を掻いた。「まあ、本音はそういうことだ。ただ君にとってはチャンスと思うがね。君が立派に女子チームの監督を務めあげ、チームを優勝に導いてくれれば、オーナーは数年後には我がチームの監督にと考えておられる」
「その前に女子プロ野球から撤退と言うことはないですよね」
「うーん、まあ、それは業績次第だが――」
さすがに西口は口を濁した。
「正直だな、あんたは」
「引き受けてくれるか?」
「今はそんな気分じゃない。他を当たってくれ」




