3 新助っ人
一週間後。楓の瑞香への密着指導は依然続いていた。
「随分、うまくなったな」
スターレイカーズ練習用グラウンドに、茜を連れて現れた宮田は、朋美の外野ノックを危なげなく捕球している瑞香を見て、感心した。
「楓たちのおかげよ」
千鶴が言った。「捕球だけじゃなくて、野球ルールとか、状況判断までしっかり教えてるわ。プロ並みとはいかないけど、守備だけなら使える目処は立ったわね」
「そいつはよかった」
「厄介者を連れてきたわりには他人事ね。正直、不満もあるわ。協調性がないから、楓と朋美以外の選手との折り合いは悪いし、態度は反抗的だし。一体、どういう子なの、あの子は?」
「根性あると思わないか?」
「え?」
「野球経験がまるでないのに、死にものぐるいで野球選手になろうとしている。全ては今の生活から抜け出すためだ」
「ハングリーさを買ってるわけ?」
「どうせ今シーズンかぎり監督業だ。やるなら、面白いメンバーを集めないとな」
「で、彼女は?」
千鶴が茜を見て、言った。
「廣橋茜だ。今日からうちのチームの選手だ」
「嘘、だって、アローズの選手でしょ。よく出したわね」
「彼女は死球がトラウマで、打撃が出来なくなってしまった。だから、守備要員として無償で獲った」
「まぁ、確かに守備は期待できるけど……無償でくれたってことは、全く打撃に期待できないってことよね」
千鶴が溜息をついた。
「廣橋です。よろしく」
茜はお辞儀をした。
「よろしく」
「そういえば、俺がいない間、チームは最悪だったようだな」
「四試合、惨敗よ。美登里の怒りもバースト・モードに入ってるわ。監督が戻ってきた今日あたり、何かあるかも」
「おいおい、恐ろしいこと言うなよ」
その時、グラウンドの外に一台の黒いリムジンが止まった。
「ほうら、お嬢様がお見えよ」
リムジンの運転席から先に運転手が降り、後部座席のドアを開ける。
そして、紺のスーツ姿の朝野美登里が現れた。
美登里はベンチの宮田の姿を見つけると、恐い形相に変わり、猛然とグラウンドに突入してきた。
「監督!」
美登里は宮田の前に息を弾ませながら、言った。
「おう、久しぶりだな」
宮田は美登里の勢いにやや圧倒されながらも、挨拶する。
「視察から戻られたのなら、真っ先にオーナーのわたくしに報告するのが義務ではなくて」
「球団事務所には連絡したぞ」
「わ・た・く・し・にです」
美登里は強調して言った。
「悪かったな。今日は私服のようだが、どうしたんだ?」
「お話しする前に選手全員を集めます。横山さん、選手を集めて」
「はいはい」
千鶴はベンチを出て、グラウンドで練習中の選手を笛を鳴らして、呼び集めた。
ベンチに選手全員が集合する。
「遅いですわ。プロなら、三分で集まりなさい」
美登里は文句を言った。
「それでは、全員揃ったところで、今日はスター・レイカーズのオーナーとして話があります」
美登里は選手たちを見回した。
「この四試合、わたくしは監督より指揮を預かり、チームの実力を見せていただきました。正直、失望しました。打てず、守れず、走れずで四試合連続、二桁失点、打線も四試合で取った得点はたった七点。あなたたち、プロとして恥ずかしくないんですの?わたくしはチームを預かるオーナーとして情けなくなりましたわ」
「四番打者が打てなくてはね……」
千鶴がボソッと言った。
「横山さん、言いたいことがあるなら、はっきり、おっしゃったら?」
「確かにうちのチームは最悪だけど、その中にあんたもいるってことを忘れないでよね。特にその五試合はあんたが四番を務めたのよ。オーナーとしてより選手として責任を感じたら?」
「言いますわね。それなら、こちらからも言わせてもらうけど、あなたはチームで一番の高給をもらってますのよ。それで、オープン戦の成績が打率.三〇七、本塁打一、打点八。これでは詐欺もいいところですわ」
「何だって。こっちはシーズンに向けて調子を合わせてんだ。オープン戦の成績でごたごた言われたくないね」
「おい、喧嘩はやめろ」
宮田が止めに入った。
「監督!」
美登里が監督を睨みつけた。
「な、なんだ?」
「抑え投手を欲しいとおっしゃいましたね。一人、連れてきましたわ。竹川、連れてきなさい」
車のそばに待機していた竹川に命令すると、竹川は車の後部座席のドアを開け、一人の少女を下ろした。身長は一四〇センチと低く、ストレートな長い黒髪で色白の童顔。体は非常に細い。
少女は竹川と手を繋いで連れられ、美登里のそばにやってきた。
「おい、この子、小学生じゃないのか?」
「立派な一九才ですわ。芙美村纏です。ご挨拶なさい」
美登里に言われ、纏をひょこっと頭を下げる。何か挨拶をしたようだが、声が小さくて、何を言っているのかほとんど聞こえない。
「体、弱そうだが、どんな投手なんだ?」
「一日九球だけ、医者に投げる許可をもらいました」
「医者って、この子、病気なのか?」
「無理な運動が出来ないだけですわ。九球あれば、一イニングは抑えられるでしょ」
「そんなにいい投手なのか?」
「実力はわたくしが保証します。いよいよ、一週間後に開幕戦。後は監督にお任せしますわ」




