2 通告
その夜。
キャンプ地の旅館で休んでいた茜の部屋を水元監督が訪ねた。
水元の姿を見て、布団で寝ていた茜は起きようとするが、水元が止めた。
「監督、どうもすみませんでした。私、あんなことになってしまって……」
茜の声は涙声だった。顔色も深く沈んでいる。
「気にするな」
水元は落ち着いた声で言った。
「私、ボールが目の前に来たら、急に動けなくなってしまって……その後は自分でも……何でこんなことになるのか……」
「……」
「私はどうなるんですか……」
「今日は休め。今後のことは明日、考える。いいな」
「はい」
水元は茜の部屋を出た。
廣橋はもう駄目かもしれんな……
数日後、一軍キャンプのメンバーから外され、監督から二軍行きを命じられた茜は、帰宅を前に、旅館近くの公園で野球をしている小学生たちの様子をベンチに座って、遠巻きに見ていた。
「横に座っていいか」
ふいに声をかけられ、茜が声の方を見ると、缶ジュースを二つ、手に持った宮田が立っていた。
「あなたは……」
「スター・レイカーズの監督、宮田だ。隣に座っていいか?」
「はい」
「ジュース、飲むか?」
「すみません」
茜は宮田からジュースを受け取った。宮田は茜の横に座る。
「体の方はもういいのか?」
「え、ええ。元々、怪我はしてなかったので……」
茜は元気なく下を向いた。
「水元監督と話をした。君のうちのチームへのトレードが正式に決まった」
「私、まだ何も……」
「いち早く私から伝えようと思ってね」
「私はもう駄目ですよ。ボールが恐くて、もう打席に立てない」
「いいさ」
「え?」
茜が驚いて、宮田を見る。
「セカンドをきっちり守れるなら、打つ必要はない。打席の一番端にでも立っていればいい」
「でも……」
「そのことで、他の選手に文句は言わせない。後は君の決断だけだ。もう一度、勝負するか、このまま、引退するか」
「……わかりました。そのトレード、受けます」




