3 喧嘩
十五分後、楓たちがシャワーを浴び、更衣室で着替えて、選手寮に戻ると、どこからか男の子の泣き声が聞こえてきた。
「何だろう」
声は食堂の方から聞こえた。
「誠だ」
瑞香は顔色を変えると、食堂の方へ走っていった。
楓も後に続く。
食堂に入ると、女子選手たちに囲まれて、順子や誠、幸二が泣いていた。
「おい、何やってんだよ」
瑞香が選手の中に割って入った。
「この子、あなたの弟でしょ」
選手の一人、磯口真祐美が言った。
「ああ、そうだよ」
「この子、私たちが試合に行ってる間に私の部屋に勝手に入って、口紅で壁や床に落書きしてたのよ」
「私の部屋なんか、お菓子で散らかされたわ」
女子選手の一人、倉田和枝が誠の頭をはたいた。
「てめえ、何すんだ」
瑞香はカッとなって、倉田を突き飛ばした。
「あんた、開き直る気?」
「ま、待って」
楓が仲裁に入った。
「誠君と幸二君だっけ。あのお姉ちゃんたちに謝らない?怒ったりしないからさ」
楓がかがんで、誠と幸二と視線を同じにして、優しく言った。
「謝る必要なんかねえ。自分の部屋に鍵をかけておかないのが悪いんだ」
瑞香が興奮気味に言った。
「何ですって。あんた、新入りのくせに生意気よ」
選手たちと瑞香のにらみ合いとなった。
「あたしも謝ってあげる」
楓が女子選手の方へ向くと、思いっきり頭を下げ、「ごめんなさい」と謝った。
「ごめんなさい」
誠と幸二も楓の真似をして、頭を下げて、謝った。
選手たちと瑞香はその様子に一瞬、声を失った。
「えらいぞ」
楓は誠と幸二の頭を撫でた。「もうしないよね。いい子にしてたら、今度、お姉ちゃんがおもちゃ買ってあげるからね」
「本当?」
誠と幸二の目が輝いた。
「約束するよ」
楓は笑顔で答えた。
「うん、僕、いい子にする」
「僕も」
「じゃあ、お部屋へ戻ろう。これから、新しいお家でのお約束ごとを話してあげるからね」
楓は三人を連れ、何事もなかったように食堂を出ていった。
食堂には、当事者が消えたため、緊張感がすっかりなくなってしまった。
「いい、今日は我慢してあげるけど、今度、何かあったら、ただじゃおかないわよ」
「何だよ、そのただじゃ――」
瑞香が言い返そうとしたところで今まで黙って見ていた真崎が瑞香の口を後ろから手で塞いだ。
「疲れてるんでしょ。その辺にしておきなさい」
真崎はそう言うと、瑞香の口を押さえたまま、瑞香を引っ張って、食堂を出ていった。




