8 決意
その夜、選手寮の瑞香の部屋では、瑞香が床にしいた布団にうつぶせになり、弟たちからマッサージを受けていた。
寮の選手の部屋は通常相部屋だが、瑞香の部屋は四人の弟たちも一緒に住まわせているため、ベッドを撤去し、瑞香だけの部屋にしていた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
七才の妹・順子が瑞香の腰を小さな手で一生懸命揉みながら、言った。
「無理しすぎた。くそぉ……」
瑞香は枕に顔を埋めた。
負けるものか。せっかくつかんだチャンスだ。
瑞香は順子たちとアパートを出る前にした話を思い出していた。
★ ★ ★
「姉ちゃん、あのおじさんからプロ野球選手にならないかって誘われてるんだ」
「すごーい、お姉ちゃん、プロの選手になれるの?」
弟たちがバンザイして喜んだ。
「いいか、よく聞くんだ。もし俺がプロ野球選手になれば、俺は寮に入らなければならない」
「お姉ちゃん、うちを出ていっちゃうの?」
弟たちが途端に泣きそうな顔になった。
「おまえたちも一緒だ」
「ほんとう?やったぁ」
一転、弟たちは飛び上がって喜んだ。
「けど、もし俺が成績を残せなかったら、チームをクビだ。そしたら、ここへはもう戻れない」
「どういうこと?」
「おまえたちは施設を預けられて、別れ別れになっちまう」
「そんなのやだよぉ」
弟たちはまた泣きそうな顔をした。
「だから、聞いてるんだ。おまえたちが反対なら、この話は断る。今まで通り、このアパート暮らしだ」
弟たちは返答に迷っていた。実際、瑞香の話は幼い子供たちにはまだ理解するのは無理だった。
「順子はどうだ?」
「順子は――」
順子はじっと瑞香の顔色をうかがっていた。
「順子、怒ったりしないから、おまえの言いたいことを言え」
「お姉ちゃんと――」
順子はボソッとしゃべった。
「何だ?」
「お姉ちゃんと一緒なら、順子、どこでもいい」
「僕もぉ」
弟たちも順子に従った。
「そっか……」
瑞香は弟たちを抱き寄せた。
★ ★ ★
俺はプロ野球選手の道を選んだ。あのまま、アパート暮らしを続けていたら、半年ももちやしない。だが、プロになれれば、わずかな可能性でも妹たちと長く暮らせる。いいや、金持ちにだってなれるんだ。
瑞香はぐっと拳を固めた。
しばらくして、ふと瑞香は顔を上げると、順子たちは瑞香の横で眠っていた。
姉ちゃん、頑張るよ。
瑞香は順子たちにも布団をかけると、一緒に眠った。




