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 午前十一時、スター・レイカーズの選手寮から徒歩十五分程の距離にある球団専用グラウンドでは、スター・レイカーズの選手の練習が行われていた。


 ベンチに座り、選手たちの練習を見ていた宮田監督のところへタンクトップにジーンズ姿の楓が現れた。


「監督、おはようございます」

 楓は元気な声で挨拶した。


「おう」


 楓は前日、先発して七回まで投げたと言うことで、今日の練習は免除であった。


「どうだ、疲れの具合は?」


「全然、肩も張ってませんし、大丈夫です。今すぐ練習に参加してもいいですよ」

 楓は肩を回した。


「駄目だ。休みといわれた日はしっかり体を休めておけ」


「はい」

 楓は少しガッカリした様子で、視線を選手たちの練習するグラウンドに向けた。


「監督」

 楓が宮田に呼びかけた。


「どうした?」


「誰か来てます」


 楓の視線の先には背広を着た小太りの中年の男が立っていた。


 男はその場で軽く頭を下げて挨拶すると、宮田のところへ歩いてきた。


「宮田慶吾さんですか?」


「そうですが――」


「私は東京のM署の矢崎という者です」


 男は警察手帳を開いて、見せた。手帳の顔写真と男の顔を見比べると、同一人物であった。手帳には『M警察署少年課、矢崎昭則』とある。年令は四二歳。


「警察がどのようなご用件で?」


「一昨日、ホテルに中年の男と入ろうとした十七才の少女を補導しましてね。それで彼女の持ち物を調べた結果、あなたの銀行のキャッシュカードが見つかったんですよ」


「キャッシュカードが?」


「なくされた記憶は?」


「いや、カードはいつも財布に入れていると思うが」


「確かめていただけますか?」


 宮田は仕方なくズボンの後ろのポケットから財布を抜き出し、中を調べた。


「確かにないな。で、その娘は何と言っているんです?」


「あなたから預かったと言ってるんです」


「預かった?」


「ええ。彼女があなたのカードで銀行からお金をおろすところは銀行の防犯カメラに映ってまして、口座の三十万全額をおろしています。そこで伺いたいのですが、本当に預けたのですか?」


 刑事の問いに宮田は少し答えに間を置いた。


 俺が他人に財布をさわられたのは、この間、町でひったくりにあった時だけだ。となると、その女というのは、ひったくりから俺の財布を取り返してくれたあの茶髪の女か。とんだ食わせ者だな。


 宮田はまんまと少女に騙されたことに思わず笑い出してしまった。


「どうしました?」

 刑事は少し戸惑っている。


「ええ、預けましたよ」

 宮田は答えた。


「それは聞き捨てなりませんね」

 刑事は険しい顔をした。「未成年の少女にそんな大金の入ったカードを渡した理由は?」


「礼ですよ」


「礼?」


「先日、町でひったくりにあった時、彼女が缶を投げて、ひったくりを倒し、大事な書類の入ったバッグを取り返してくれたんでね。礼をしたかったんだが、手元に現金がなくてね、彼女にカードを預けたんだ」


「しかし、礼にしては多すぎると思いますが」


「間違って、全額おろしてしまったんだろう。後で返してもらう」


「宮田さん」

 刑事は渋い顔をした。


「何です?」


「本気で言ってるんですか?」


「なぜだ?」


「あの娘は札付きの不良娘ですよ。なぜかばうんです?」


「かばってなんかいないね」


「では、伺いますが、その少女の名前は知ってますよね」


「津野里奈」


「違います。秋月(あきづき)瑞香(みずか)です」


「しまった、津野はうちの選手の名前だった。女子チームの監督になってから、女の名前を覚えることが多くて、間違えたよ」


「……」


「それより、彼女は警察が拘留しているのか?」


「ええ」


「だったら、ちょうどいい。これから、警察署へ行って、その娘の無実を証明してやろう」



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