表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/50

8 ルール

 練習終了後、選手たちはロッカー・ルームで着替えをした。


 そんな中、幸田輝美が朋美に再度注意を与えていた。


「皆岸、さっきは監督がああいったかも知れないけど、後輩が先輩の指示に従うのは当然のことよ。今後、注意しなさい」


「……」


「皆岸、聞いてるの?」


「……」


 朋美は無言のまま、スポーツ・バッグを持って、ロッカーを出ていってしまった。


「何なの、あの子」


「幸田、ほっときなさい」

 千鶴が言った。


「でも――」


「あの子は楓に任せて。どんな理由であれ、チーム内でもめることは絶対許さないわ。わかったわね」

 千鶴が厳しい口調で言うと、輝美は渋々うなずいた。




 楓とレン・チャンが話しながら、寮に戻ってくると、ロビーのソファに一人ぽつんとスポーツ・バッグを抱えて座っている朋美の姿があった。


「朋ちゃん、どうしたの?」

 楓が声をかけた。


「カエデ、ワタシ、先に行ってるヨ」


「うん」


 レンは先に階段を上っていった。


「どうしたの?」

 楓は朋美の横に座った。


「私って駄目だよね」


「今日のこと、気にしてるの?」


「後輩だからとか、年下だからとか、そういうので命令されてなにかやるのって嫌いなの」


「みんなでやるんならいいの?」


「うん……」


「じゃあ、あたしがみんなでやるように提案するよ」


「そんなことしたって無駄よ」


「とりあえず、あたしが今日は朋ちゃんの部屋へ行く」


「え?」


「朋ちゃんはあたしの部屋に行きなよ」


「そんなこと……」


「まあまあ、レンちゃんには話しておくから」

 楓はそう言うと、ニコッと笑った。




「失礼しまーす」

 楓がスポーツ・バッグを持って、三階のA号室に入ってきた。


「沢木、あなた、この部屋じゃないでしょ」

 輝美が驚いた様子で言った。


「朋ちゃんと替わっちゃいました」


「それは許可得てるの?」


「事後承諾ってことで」


 楓は朋美のベッドに座った。


「ちょっといいかげんにしなさいよ。皆岸といい、あなたといい、いったい何なの?生意気な態度ばかりとって」


「あたしは思うんですよ。誰が決めたかわからないようなルールよりみんなで話し合って納得して決めたルールの方がいいと思うんです。だから、寮のみんなで話し合いませんか?あたし、みんなに話してきます」


「それは、あんたが楽をしたいから言ってるんでしょう」


「幸田さんは自分も新人の時に雑用をやってきたから、あたしたちにもやらせたいんでしょ」


「私は先輩を敬う心を身につけさせるために――第一、それがここが社会人チーム時代の慣習だったんだから」


「もうここはプロ・チームですよ」


「わかったわ。話し合って納得するなら、いいのね」


「はい」




 こうして、寮の選手全員が食堂に集められることになった。


「ただいまから、うちのチームのローカル・ルールを決めます。まず、最初の提案として、新人だからという理由での雑用分担の廃止についてです」


 楓が寮の選手たちを前にホワイトボードの前で司会の進行にあたった。


「新人が雑用をやるのは寮での生活や習慣を覚えるためよ。いきなりなんでもできないでしょう」

 選手の一人が言った。


「それは言えてます。でも、それだと、覚えるまでの期間限定でいいわけですよね。習得期間を過ぎたら、後は全員の持ち回りと言うことでいいですか?」


「雑用は新人がやるものって決まってるの。理屈じゃないのよ、わかってないわね」


「そんな納得のいかない慣習はここでなくしてしまいましょう。少なくともうちのチームでは」


「反対!」

 一部の選手が声を上げた。


「でも、別にいいんじゃない。私も新人の頃、やらされたから、正直、今やるのは嫌だなって思うんだけど、そう思う気持ちは新人君も同じなのよね」


「何言ってるの?それじゃあ、秩序が成り立たないじゃない」


「秩序も何も、成績残せなきゃ、クビなんだから関係ないんじゃない。私も平等でいいわ。新人選手が雑用なんてルールになるぐらいなら」


「それでは、評決を取ります。現在行われている新人の雑用は、チーム環境に慣れるまでの一月ひとつき限定とし、以後は選手たちのローテーションで行うことにいたします。賛成の方は挙手してください」


 楓の言葉で賛成の選手たちが手を挙げた。それは過半数を上回った。


「過半数を超えたので、可決します。それでは次に――」


 こうして、スター・レイカーズのローカル・ルールが次々と決められ、紙に記録されていった。


「えー、これで本日のローカル・ルール決定会議は終了いたします。次回にまた決めることがありましたら、実行したいと思います。その時はぜひあたしに言ってきてください。それでは、みなさん、遅くまでありがとうございました」


 楓が選手たちに頭を下げると、選手たちから拍手が起こった。


 選手たちはぞろぞろと自分の部屋へ戻っていく。


 そんな中、輝美が楓に声をかけた。


「あなたには負けたわ。部屋に皆岸を呼んできて。私の方から折れるから」


「ありがとうございます。さすが、先輩、大人ですね」


「おだてたって駄目よ」

 そう言うと、輝美は出ていった。


「楓」


 会議に参加していなかった朋美が静かに会議室に入ってきた。


「朋ちゃん、もう会議、終わっちゃったよ」


「外で聞いてた。ありがとう」

 朋美は静かに言った。


「あたしはあたしのためにやっただけだよ」


「不思議な子だね、楓は」

 朋美は少しかすれた声で言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ