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3 見送り

 翌朝。


 朋美のアパートの前では、朋美が紀久子の見送りを受けていた。


 朋美は今日からスター・レイカーズの選手として選手寮に入ることになったのだった。


 既に車で千鶴が迎えに来ていた。


「しっかりね。体には気をつけるのよ」

 紀久子は朋美の顔をじっと見つめ、優しく言った。


「お母さんこそ、食事はちゃんととってね。それから、無理して仕事しちゃ駄目だよ」


「コラッ、それが子供の言う台詞かぁ」

 紀久子はくすっと笑った。


「毎日、遅くなっても必ず電話するから」


「わかった」


「じゃあ……」

 朋美は紀久子にぎゅっと抱きついた後、そのまま振り返りもせず、車へと走っていった。


「お願いします」

 紀久子は車の千鶴に頭を下げた。サングラスをかけた千鶴は手を振って軽く挨拶する。


「行くわよ」

 朋美が後部座席に乗り込んだのを確認して、千鶴は車を発進させた。


「さすがに不安いっぱいって顔してるわね」

 フロント・ミラーで朋美の顔を見て、千鶴が言った。


「今でも私がプロ野球選手なんて信じられないから」

 朋美は珍しく本音を吐露した。


「去年のプロ・テストの時は自信あったみたいに見えたけど」


「あの時は必死だったから……」


「その気持ち、忘れては駄目よ」


 三〇分後、千鶴は楓の家に到着した。


 楓の母親と楓が家の前にいた。


「朋美、おはよう」

 旅行バックを抱えた楓が車内の朋美に元気よく挨拶した。


「千鶴さんもおはようございます」


「おはよう。元気みたいね」

 千鶴は微笑んだ。


「娘のこと、よろしくお願いします」

 楓の母親が挨拶した。


「大事にお預かりします」

 千鶴がサングラスを取って、言った。


「じゃあ、行ってくるね」


「みなさんに迷惑かけないようにね」


「わかってるよぉ」

 楓も車の後部座席に乗り込んだ。


「それでは失礼します」

 千鶴は車を発進させた。


 楓は楓の母親の姿が見えなくなるまで後ろを向いて手を振っていた。


「眠れた?」

 体を前に戻してシートに座った楓に朋美が訊いた。


「全然。徹夜で三百球も投げ込んじゃった」


「そ、そう」

 同じ眠れなくても、眠れない時間を練習に充てる楓に朋美は少し圧倒されてしまった。



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