4 選手寮
午前十一時、千鶴の車は千葉県T市のスター・レイカーズの選手寮に到着した。
三階建ての横長の建物で、一見、温泉町の宿泊地と間違えそうであった。
「さあ、ついたわよ」
千鶴は車を入口横の駐車スペースに止めた。
楓と朋美は旅行バックを持って車を降りた。
「なんか旅行に来たみたいね」
楓は落ち着きなく周囲をキョロキョロと見回していた。
「さあ、ついてきて」
千鶴は楓と朋美を引き連れ、警備員に挨拶してから、ガラス・ドアの入口から中に入った。
ロビーでは中年の女性が待っていた。
「お帰りなさい」
「紹介するわ。新人の沢木楓と皆岸朋美」
「よろしくお願いします」
二人は女性に頭を下げた。
「私は砂原といいます。あなたたちね、中学卒業したばかりの新人って」
「砂原さんは寮長よ。言うこと、よく聞いてね」
「はい」
二人は返事をした。
「じゃあ、私は帰るわ。後でグラウンドで会いましょう。それじゃあ、砂原さん、後、よろしくお願い」
千鶴はそう言うと、寮を出ていった。
「部屋を案内するわ」
砂原寮長は楓と朋美を部屋へ案内した。楓は二階のD号室、朋美は三階のA号室であった。
「失礼します」
楓がドアをノックして、D号室の部屋に入った。
部屋は相部屋で八畳ほどの部屋で両側にそれぞれベッドと机とクローゼットのセットがあった。部屋には誰もいない。
「あれ、おかしいなぁ。砂原さん、先輩が部屋にいるって言ってたんだけど」
楓はまわりを見回した。
「女、どこ見てるアル、上よ、上」
その時、天井で女の声がした。
「え?」
楓が上を見ると、天井に忍者装束の女が張りついていた。
「な、何してるんですか?」
「訓練アルヨ」
女は天井からすっとベットに降りた。
「おまえが新人のカエデ・サワキね」
女は楓を指さした。
「あなたは?」
「ワタシは新外国人選手のレン・チャンよ。今日からチームの優勝、目指して切磋琢磨するネ」
「は、はい、よろしくお願いします」
「いい返事ネ。おまえを弟子一号にするヨ。これからは何でも聞くネ」
レン・チャンは機嫌よさそうに言った。
一方、朋美が入った三階のA号室には、若い女がいた。
「皆岸朋美といいます。よろしくお願いします」
「私は幸田輝美」
朋美は一応、スター・レイカーズの選手名鑑を見て、現在在籍している選手のプロフィールは暗記してきた。
幸田輝美は二十二才。レイカーズでは、中継ぎ投手。前年のシーズンは、二十三試合に登板し、一勝五敗。防御率四.五十三。
「中学卒業したばかりだって?それでテストに合格するなんてすごいわね」
輝美はバカにしたような口調で、言った。
「そんなことは――」
「新聞でも、あなたがなぜ監督の目に止まったのか、疑問だと書かれていたわ。私も疑問。新聞によると、あなた、元レッド・ランサーズの抑え投手、皆岸さんの娘なんでしょ」
「それが何か?」
「別に。あなたも投手をやるわけ?」
「私は捕手です」
「そうなんだ。もし試合に出たら、私に変なサイン、出さないでね。お母さんみたいにチームの足を引っ張って欲しくないから」
「……」
その時、部屋のドアがノックされた。
「朋ちゃん、グラウンドに行くよ」
楓とレンがユニフォーム姿でやってきた。
「あれ、まだ着替えてないんだ」
「すぐ着替えるから、先に行ってて」
「うん」
朋美と輝美の不穏な雰囲気にこの時の楓はまだ気づかなかった。




